マイケル
マイケルとは今更和やかに挨拶するような関係では無いだろう。
僕との因縁はもちろん、お前のせいでセモリナさんは婚約破棄されて悲しい目に遭ったんだぞ!
そう思うソイルであったが、マイケルの行動に驚く。
馬車を降りるといきなりセモリナさんに頭を下げた。
「すいませんでした!」
マイケルの突然の謝罪にセモリナさんは戸惑う。
「えっ? えっ? どうしたの?」
「俺のわがままで一方的に婚約破棄をしてすいませんでした。煮るなり焼くなり……気が済むまで俺を殴って下さい」
「あー、もういいわよ。あなたに婚約破棄されたおかげでソイルくんとまた婚約できたし、むしろ感謝してるわ」
「そうなんですか? でも俺の気が済まないので思いっきり殴ってください」
全く引かないマイケルの謝罪に困り果てるセモリナさん。
しばらくの押し問答の末、セモリナさんが折れた。
「仕方ないわね。軽く一発だけよ」
「ありがとうございます」
そして形式的な禊の儀式が行われたんだけど、女子と侮っていたセモリナさんのパンチはマイケルの予想したものよりも遥かに激しかった。
「うぼあ!」
マイケルはセモリナさんの拳骨を顔面に受けるとキリモミして宙を舞う。
結構な距離を殴り飛ばされて着地した後も止まらず転げてズタボロのボロ雑巾のように……。
マイケルは思いっきり気絶したのであった。
*
「ここは……」
夜になって目を覚ましたマイケルだったが、すぐには状況を把握できなかった。
そりゃあれだけのいいストレートを顔面に貰ってたらね。
ソイルが説明したらやっと状況を把握できたらしい。
セモリナさんは手加減が足りなかった事を平謝りだ。
「いや、これでいいんです。俺の気も晴れました」
でも……。
と話を続けるマイケル。
「今度はソイルに謝らないといけない。これのせいで君の人生を滅茶苦茶にしてしまった。すまない」
そう言ってカバンから取り出したのは幸運のネックレスだった。
「あー、不幸のネックレスか……」
「これが何かわかってるのか?」
「まあ、大体な」
ヘレンから貰ったこのネックレスのせいでソイルはマイケルとの試合に負けたのだ。
大方マイケルのネックレスは能力を上げて、ソイルのネックレスは能力を下げる物だと思ってたんだけど、それを遥かに超えるとんでもない魔道具だった。
「それならば話が速い。実はこのネックレスはソイルの持っていたネックレスと対になっていてスキルを入れ替える魔道具だったんだ」
「ど、どういうことだ?」
スキルを入れ替える?
そんな魔道具は聞いたことが無い。
「ソイルが土魔法の天職を得たのも剣技と盾のスキルを失ったのもこの魔道具のせい。本来『土魔法使い』は俺が得る天職だったし、剣と盾のマスタリースキルをソイルが失ったのもこの魔道具できみからスキルを強奪したからなんだ」
「なんだって!?」
そんな魔道具を使ってまでヘレンは別れたかったのかと愕然とする。
「だから本来の持ち主である君に騎士の天職と剣と盾のマスタリースキルを返しに来た」
そういって深く頭を下げるマイケル。
だが、ソイルはマイケルの頭を上げさせる。
「確かに騎士の天職を取れなかった事に愕然としたのは確かだ。騎士学校に通い騎士になる夢が絶たれたからな」
「この魔道具の使い方はヘレンに聞いて来た。スキルと天職を受け取って欲しい」
「それなんだが……断る」
「なんだって! 騎士の天職が要らないのかよ」
「要らない」
「騎士の天職が無いと騎士にはなれないぞ」
それを聞いて高笑いをするソイル。
「甘いな、マイケル。騎士になるのに騎士の天職は要らないんだよ」
「どういうことだ?」
「領主に任命されればそれだけで騎士にはなれる」
「そうなのか?」
それを聞いてマイケルは納得したがまだ申し訳なさそう。
「じゃあ、せめて剣と盾のマスタリースキルを受け取ってくれ」
「スキルも要らない」
「なんでなんだよ?」
「剣のマスタリースキルなら既に取り直した」
「嘘だろ? 土魔法使いで剣が扱えるわけがない」
「僕が嘘を言ってると思うなら、剣を交えてみるか?」
そして翌朝、夜明けと共に試合をすることになった。
ブランが審判をすることになった。
「試合始め!」
ソイルは一瞬で踏み込み距離を詰める。
「速い!」
騎士の天職が無いのにここまで素早く動けるものなのかとマイケルは心底驚いた。
そしてソイルは連撃を繰り出す。
マイケルは辛うじてソイルの攻撃を盾で受けたが木刀なのに鉄塊で叩かれているように攻撃が重い。
「なんていう速さの攻撃だ。しかも一撃が重い。重過ぎる!」
剣聖の母親の血を開花させたソイルには騎士の天職持ちであっても敵わない。
盾でガードしている隙にソイルは横に回り込む。
「チェックメイト!」
マイケルの喉に木刀が突きつけられ試合は決した。
「なんて強さだ。騎士の天職が要らないというのは嘘じゃなかったんだな」
マイケルはソイルの強さに愕然とするのであった。




