夏のダンスパーティー3
今日のローズちゃんは、白と水色の可愛らしいドレスを着て居る。相変わらず、お人形さんのように愛らしい。
「お二人に、私からもお祝いを言わせて下さい。ご婚約をおめでとうございます」
私たちは立ち上がってローズちゃんに挨拶を返した。
それから、ちょっと申し訳なく思いながら彼女の手を取る。
「ごめんね、ローズちゃん。本当なら、この席は貴女の物だったのに」
「え? いえ、私は良かったなって思ってます。あ、あの——殿下が嫌とかではないのですけど」
困った顔で殿下を見た彼女に、彼は首を竦めて見せた。
「俺のことなら気にするなよ。ローズ嬢には、態度が悪かったなって反省してる」
「……王太子様」
ローズちゃんが、ホッとしたように笑った。
「勿体無いお言葉です。私、本当に良かったなって思ってます。マロー様は素敵な方ですし、ルーガ殿下とよくお似合いになられます。私は——正直に申しますと、ルーガ殿下、少し怖いなって思ってましたから」
殿下の顔が微妙にショックを受けてて、面白いなぁって思う。
「ねえ、殿下。せっかくだから、一曲踊って来たらどうでしょう? こんな機会は、なかなかないし。殿下も少しは態度が悪かったって思ってるんでしょ? 仲直り的な、ね?」
彼は私とローズちゃんを交互に見た。
うん。後押ししたら、いけそうだ。
「バッサム公爵家と良い関係にしとくのは大事ですよね?」
フーッと息をついた殿下が立ち上がって、ローズちゃんに手を差し出す。
「一曲、踊って頂けますか」
「え? それは喜んで。ですが——」
私は戸惑ってるローズちゃんに微笑む。
「私はここで見ています。行ってらっしゃい」
「……そうですか。では、よろしくお願いします」
二人がフロアに出て行くと、ローズちゃんの側付きメイド、アメリアさんが私にお礼を言った。
「ありがとうございます。マロー様。お嬢様はお父上が貴女様に失礼を働いたと、嘆いておいででしたので。優しい対応をして頂き、私もホッと致しました」
「その事は気にしていませんよ。大事なお嬢さんに関わることなので、腹がたったんでしょうから」
「恐れ入ります」
「というか、硬いよ、アメリアさん。一緒に二人のお茶会を見た仲じゃない」
「え? ……ですが」
マーゴがふふっって笑った。
「アメリアさん、ですか? 私はマロー様付きのマーガレットと申します。私の主人は堅苦しいのが苦手なのですよ。不敬にならなけらば大丈夫です。少し砕けて差し上げて下さい」
アメリアさんが、私とマーゴを見て、ふっと肩の力を抜いた。
「ありがとうございます。マロー様。お嬢様に思い出を作っていただいて、感謝してます」
「ぜんぜん、いいんだよ。だって、ほら、見て——」
騎士服の殿下とローズちゃんの組み合わせは、まるで、お伽話に出てくる王子様とお姫様みたいだ。華奢なローズちゃんを殿下はゆっくりとリードしてる。こうしてみると、殿下も一人前の紳士に見えるね。
「すごく。お似合い」
——胸が痛いくらい、お似合いだ。
「マロー。それなら、君と僕もお似合いじゃないかな?」
声に顔を上げると、ラッチェが笑ってた。光沢のある白い夜会服に、瞳の色に合わせた淡い金色のサッシュベルトをし、キチンと髪を縛っている。
アメリアさんが、突然に現れたラッチェの美形っぷりに赤くなって目を瞬かせてる。
「ラッチェがこういう会場に居るのって、すごく珍しいんじゃないの?」
「うん。ダンスパーティーに参加するのなんか、何年ぶりかなって感じ。でも、マローが参加するから来たんだよ。隣に座っていいかな」
「え? あ、うん」
マーゴが不服そうにキュッとラッチェを睨んだ。
「睨まないでよ、マーゴ」
「ですが、殿下が踊っている時にいらっしゃる事はないかと」
「まったく。マローの周りは過保護だよね? 君といい、ブロといい」
私は思わず笑ってしまう。
マーゴとオンブロを同列には出来ないけど、ラッチェを威嚇してる所は同じかな。
「今日のドレスは君に似合うね。ルーガが選んだの?」
「そうですね。去年のパーティーの時に作ってくれたものです。マーゴが手を入れてくれましたけど」
「……なるほど。そうなんだね」
——えっと。
いま、ちらっと胸を見たね。
ピンポイントで太ったって言いたいのかい。
曲が変わると、殿下がローズちゃんを連れて戻って来た。
アメリアさんにローズちゃんを返すと、殿下は立ったままでラッチェに言う。
「祝いに来た、わけじゃないよな?」
「ええー。一応、祝ってはいるよ。クーネル王国にとっては、良いことだからね」
ラッチェがニコニコと笑った。
「まあ、本音を言えば、一曲だけマローを借りに来た」
「………」
殿下は私を見て隣に座り、少し首を傾げる。
「マロー。どうする?」
「え? 私に振るの?」
「誘われてんのはお前だろ」
「いや、ほら。私は殿下の意向に沿うでしょ。あなたの従者なんだから」
「従者じゃないだろ。契約はとっくに切れてんだし」
——あ、そうか。
今の私の立ち位置って……ルーガ王太子の許嫁かぁ。
ラッチェが立ち上がって私に手を差し出した。
「一曲、踊って頂けませんか?」
どうすんだ、これ?
私が困って殿下を見ると、彼は小さく溜息をついた。
「一曲だけだぞ。すぐに返せよ」
殿下がそう言うんじゃな。
私がラッチェの手に手を乗せると、彼はニコッと笑って私を立たせる。
「どうしようかな?」
殿下の眉がピクッと上がった。
挑発しないでよ、ラッチェ。
マーゴも不満そうに睨んでるじゃないかー。
連続してるので、あげますー。




