表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/80

似てない従兄弟 

ラベナが朝食の準備をしながら、私と殿下を交互に見てる。

殿下の我慢は気がつきにくいけど、お前は分かりやすいよなぁ。


「……なんなの、ラベナ」

「え? いや。いつ仲直りしたんだ?」


今朝はキチンと身支度した殿下が、ラベナをチラッと見て溜息。


「別に喧嘩してたわけじゃない」

「殿下。昨日は口も聞きたくない感じだったでしょーが」

「疲れてたんだよ。態度悪かったのは謝る」

「けど——」


私は三人分のカップにお茶を満たしながら、最年長のはずのラベナを睨む。

——そうだよ。


人の様子に鈍感で、気付きにくい私が悪い。でも、ラベナだって悪い。

今、殿下の側付きをしてるのは、お前なんだからな。


「あのね。考えてみれば、ルーガ殿下は長旅をしてきたんだよね。移動も含めて十日。熱も出なかったし、発作も起こらなかったけど、そりゃ、疲れてて当然だよ」

「ええ? でもさ、トランス王国から帰って来てから一週間以上は経ってるじゃん?」

「ちょうど疲れが出る頃よね? 気づいてあげられなくて、私は深ーく反省してんだけど。ラベナは?」


ラベナは軽く唇を尖らせる。


「……そこまで、俺も思い至らなかったけど。けどさ、昨日のマローは、お袋も真っ青な感じで鬼ババァだったじゃないか。あれじゃ殿下が可愛そうだなって、俺は思ってたわけでさ」


——鬼ババァ?


「ラベナ。なんか、言った?」

「え! いや別に——」


殿下がクククッって面白そうに笑う。


「殿下!!」


黒目がちの綺麗な目で、椅子から私を見上げた殿下は——。


「飯を食おうぜ? 俺、腹が減ってんだけど」


まあ、そうだよね。

昨日はまともに食事してないんだし。



 ラッチェの仕事を手伝うようになって、私の一日のルーティーンも、やっぱり変わった。


 週に三日は、彼の別棟に仕事を手伝いに行くわけでね。他の日に王太子妃の勉強や、剣技、乗馬、などが割り振られる。前は空き時間を狙って調薬してたんだけど、最近はラッチェの所で調薬ができるので助かってるけど。


 それに、ラッチェ経由で、衛兵やメイドさん達にお薬を使ってもらえるようになった。少しでも皆んなに貢献できてるかと思うと嬉しいものだよね。


 ——まあ、森へは連れてってもらえてないけど。

 うん。焦らない。


 ラッチェの別棟へは城内を移動し、中庭を通って行くのだけど——。


「おはようございます、マロー様」

「ラッチェ様の所ですか? 行ってらっしゃいませ」

「先日は百日咳のお薬を有難うございました。すごく効きました。さすがは大魔女のお孫さんですよね」

「ああ、マロー様。良かった、会えて! これ、先日のハーブのお礼です。お茶請けにどうぞ!」


 などと、やたらと声が掛かるようになってしまった。

 ハッキリ言おう。

 私は人の名前を覚えるのが苦手だ。


 顔は分かるんだけど、この人は誰って思うことが多くて困惑する。

 まあ、そんな時にはニコニコしながら、向こうの会話に合わせるんだけどね。


 ——女官長様の社交術。

 素晴らしいと思う。


 私がラッチェの別棟に行くまでは、マーゴも一緒についてくる。

 まあ、彼女は私の側付きなので一応は護衛らしいんだけど。


「ふふ、マロー様もすっかり王宮の方々と顔馴染みですね!」

「そうでもない。名前が分からない人ばっかりだし」

「人数が多いですからねー。でも、職業や身分で身なりが違うから、相手の仕事は分かりますよね?」

「まあ、だいたい」

「なら大丈夫ですよ」


 そんな中、妙に身なりの整った青年が私に声を掛けて来た。


「お前がマローか」


 黒髪に茶色い瞳、どことなく整った顔の青年。

 後ろに近衛兵がついてるから、たぶん身分が高いんだろう。

 面倒な時は淑女のフリだ。


「仰る通りで御座います。貴君様にはご機嫌麗しく」


 彼は目を瞬かせ、ニッと口元を綻ばせた。

 まあ、目は笑ってないけどね。


 ——ほんと、誰なんだ、コイツ。


「へぇ。思ってたよりマシかな。ルーガも年上の側付きなんかに入れあげて、酔狂な奴だと思ってたけど。そこそこかね。俺が抱くならもう少し色気が欲しいとこだけどな」


 マーゴも私に合わせて膝を折ってるけど、俯いたままで肩が微妙に震えてた。


 ——ああ。

 怒ってるよ、マーゴ。


 こういう男って、なんで物言いで敵を作るって分かんないかな。

 頭が悪いんだろうなぁ。


 後ろについてた近衛兵が、苦い顔して釘を刺してくれる。


「アルデンテ様。マロー嬢は王太子様の許嫁様でございます。そのような物言いは控えて頂きますよう」


 ——アルデンテね。

 グラハム公爵の息子か。

 王位継承権で第三位に入ってた、アレだな。


 そう言われれば、殿下と似てる……ような気もする。

 ほんと、造作は似てても出来が違うよなぁ。


 殿下の美形っぷりって、顔の造作だけじゃないんだなって痛感する。

 コイツは残念な奴だな。

 紛い物感がバシバシと伝わってくるもの。


 アルデンテは整った顔に傲慢な笑みを浮かべた。


「何言ってんだよ。まだ、王太子妃候補だろ? それに、王太子妃になったって、要するに俺の従兄弟の妻ってことだからな。堅苦しいのは無しだろ。お嬢さんも、そんなに他所よそしくしなくていいぜ」


 面倒臭いから他所よそしくしてんだよ。

 私は姿勢を戻して、淑女スマイル。

 うん。取り敢えず笑っとけ。


 ニコニコして黙ってたら、面白くなかったらしい。

 彼は私を軽く睨んでから。


「俺の顔は覚えとけよ。また会うだろうからな」


 そう言って去って行った。


 ——あれが、アルデンテね。

 言われなくても記憶するよ。

 殿下の敵に回りそうな奴だからね。


 マーゴが貼り付いた笑顔で、声を抑えたまま楽しそうに言った。


「弱い犬ほどよく吠えると言いますが、虎の意を借る猫にも劣る。私のマロー様を舐めくさった態度、いつか後悔させて差し上げます。身の程を思い知るといい」

「……マーゴ?」

「ふふふ。これだから、王宮勤は辞められない。勘違い野郎に、どうやって報復するか考えるだけでゾクゾクして来ちゃう」

「……………マーゴ」


 彼女はハッとしたように私を見て、満面に笑みを浮かべた。


「失礼しました、マロー様」

「うん。心の声はしまっとこうね」

「あら、漏れてました?」

「ダダ漏れ」


 マーゴが薄く嗤う。


「お気になさらず。マロー様にご迷惑はお掛けしませんので。ふふ。さ、参りましょうか」


 ——うん。

 気に入らない男なのは間違いないけど、ちょっとだけ同情するよ。

 マーゴは武闘派じゃないけど……怖いからなぁ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ