アリーシャ姫のお茶会1
「え? 今日は殿下と別々なんですか?」
朝の報告会で、ラッチェが渋い顔で教えてくれた。
彼はずっとローブを着てないし、なんでかメガネまでかけてる。
「悪いね、マロー。国王の姫君に頼まれて断りきれなかったんだよ」
私だけがトランス王国第一皇女、アリーシャ姫のお茶会に呼ばれてしまったそうだ。女性だけのお茶会なので、是非とも参加して欲しいと強く申し入れがあったと——。
殿下が不安そうに私を見る。
「けど、大丈夫なのか? ジェラルドが接触して来るんじゃないか?」
「そこなんだけどね……。まあ、防ぐのは難しいだろうな。アリーシャ姫はジェラルドに心酔してるみたいだし」
……ふむ。
このお茶会そのものが、ジェラルド伯爵の企画なのかもしれないな。
「ラッチェ。確認したいんですけど、魅了魔法って闇属性ですか?」
「そうだけど?」
なるほどな、だから伯爵にはアルプに感じるゾワゾワと同じものを感じるのかも。
と、いうことはだよ。
「あなたも、たまに闇属性の魔法を使います?」
「え…まあ、ごく、たまに」
私がチロっと見ると、ラッチェはニコニコっと笑った。
まあ、頻度はこの際どうでもいいのよ。
「前に師匠から聞きましたが、私は聖属性の魔法使いなので闇属性が苦手なんだろうという事でした。それって、逆もありですか? 聖魔法で魅了魔法を解くことができます?」
ラッチェは、すぐに私の意図するところを理解してくれたようだ。
「マロー。浄化も使えるんだね」
「使えます」
師匠がギョッとした顔で私を見る。
思い切り開くと、そんなに目がデカイんですね。師匠。
「治癒、回復だけじゃないのか?」
「滅多に使う機会はないんですけどね」
「……お前、白魔女なんじゃないか」
「違います。薬師です。私は魔女じゃありません」
ここは譲らない。
魔女なんてゴメンだ。
お婆ちゃんが言ってたけど、魔女って認定されると魔法協会に加盟しなきゃいけないんだよ。
——そんなの、すっごく面倒じゃないか。
魔法で生計を立てるなら、魔法協会は大事な味方になる。
仕事を振ってくれるし、依頼人との交渉もしてくれるそうだ。
だけど、その代わりに登録料を取るし、年に一度くらい顔合わせなんかもあるって言ってた。
治癒魔法を使う程度なら、魔法協会への加盟は不必要だ。
薬師や整骨師なんかと同じ扱いでいける。
殿下が私の顔を見て呆れたように言った。
「お前は魔女やるのが面倒臭いだけだろ」
彼は私の頭の中が、透けて見えてるんじゃないかと思う時があるね。
ラッチェが小さく笑った。
こういう時は別にニコニコはしないんだよね。
普通に笑うの。
この方がずっと綺麗な笑顔なのにね。
「マローの言う通り、魅了は浄化で正常に戻せる時がある。どこまで深く影響されてるかによるんだけどさ」
「……なら、参加します」
「でも、防御にはならないよ?」
「そこは——」
私は殿下を見る。
殿下が首を傾いで眉を寄せた。
「殿下の持ち物を何か貸して」
「……俺の?」
「側に居るって思えたら、盾にならなきゃって思い出すから」
「それって有効なのか?」
視線を送られたラッチェが、少し考えてから頷く。
「無いよりはマシでしょうね。もともと、マローの気持ちの在り方が魅了魔法を弾いてるので」
「……分かった」
殿下は自分の首からスカーフを引き抜いて、私の首に巻いた。
ふわっと殿下の好んでる香りが漂う。
爽やかな柑橘に似た花の香り。
「絶対に無理するなよ。ダメだと思ったら、走ってでも逃げて来い」
「お任せ下さい。アリーシャ姫の魔法を解いて参ります」
「いや、そうは言ってないだろ」
私が微笑んだら、殿下が溜息をついた。
「話を聞けよ。俺はお前を心配してんだ」
「私の心配は無用です」
なんで、睨むのかな。
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嬉しいです。
今日は二話投稿します。




