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視察

 トランス王国の特産物というのは、鉄や銅、銀などの鉱物なんだよね。国土に山脈を抱え、銀山や鉄鋼石が採掘できる山を持ってる。私たちは、視察として、その山の一つに連れられて来てた。


「この山は地元で赤山と呼ばれている活火山です。麓には温泉も湧いていまして、地元民に愛されております」

「へぇ、温泉ですか」

「この辺りは硫黄泉が多いですね。まれに、炭酸泉も湧きますが湯量は多くありません。地熱の利用も盛んでして——」


 トランス王国の外交官の人が、殿下に山の特性を説明してる。本来なら、窓口であるジェラルド伯爵が案内役だったらしいが、殿下への対応が酷かったので国王命令で別の人になったらしい。ラッチェことラチュールも、苦情を入れたらしいしね。


 外交官と一緒にトランス王国からも数人の衛兵がついて来てた。クーネル王国からは、三人の衛兵に加え、殿下にはカメオ師匠が、私にはマーゴがついてきてるんだけど……。


 なぜか、マーゴが私の後ろで、そわそわしてる。


「どしたの、マーゴ」

「いえ。硫黄泉というお話で、この匂いは確かに硫黄です。マロー様は硫黄の効能について御存知ですか?」

「よく知らないなぁ。私は薬草医みたいなものだし」

「硫黄というのはですね。優秀な鉱物資源でして、殺菌力に優れ、皮膚病などの治療に使われる他、引火性が強く、火薬などにも適しておりまして——」


 マーゴの目がキラキラと輝いてる。


「欲しいんだね?」

「欲しいです!」


 私たちの話が耳に入ったのか、案内役の男性が微笑みながら言ってくれた。


「女性が硫黄に興味を示されるのは珍しいですね。硫黄を御所望でしたら、少しお分けしましょう。我が国では、鉱物資源も特産品として輸出しておりますから、試供品として差し上げますよ」

「よろしいのですか! 良かったですね、マロー様。これで、マロー様のお肌も更に美しく! しかも、火薬が作れます!」

「マーゴ。ちょと聞くけどね、もしかして、火薬が好きなの?」

「大好きです! 爆発って聞くだけで心が躍りますよねー。ですが、マロー様は調薬中に近寄ってはダメですよ? ガスが出ますから吸引されない方が良いですし、引火でもしたら大ごとなので」


 殿下が苦笑しながらマーゴを見た。


「お前の側付きは取り扱い注意だな」

「お言葉ですが、殿下。マーガレットは、もともと、レオナルド殿下のメイドですからね」

「母上も変わった奴が好きだからな……。お前も気に入られてるらしいぞ」

「嫌味でしょうか? まあ、光栄ですけど」


 案内役の方が口を手で覆って、小さく笑っている。

 ……すみませんね。変わり者ばっかりで。


「本日は王太子殿下御一行の為、麓の温泉を貸し切りにしております。是非とも湯を堪能しておかえり下さい」


 カメオ師匠が嬉しそうに笑った。


「良いですね。温泉。疾風の治療でも通ったんですけど、元気でますよ。殿下もお疲れでしょうから、是非とも寄らせて頂きましょう」

「疾風、怪我でもしたのか?」

「ええ。前に後ろ足の太ももを痛めましてね。その時に……」


 師匠に疾風の話題を振ったら、小一時間は喋るよ。

 マーゴは硫黄泉と炭酸泉の違いを延々と私に説明し始めたし。


 案内役の方は、マーゴの話に少し説明を足したり、曖昧な部分を分かりやすくしてくれたりしてた。殿下は疾風の話をずーっと聞いてて、この二人を連れた視察って難しいなって痛感したよ。


 まあ、二人ともツボを押さなきゃ優秀な側付きなんだけど。


「ここが貸し切りなんて、すっごいですねー」

「本当だね」


 麓の温泉というのは、そこまで広くはないのだけど、岩をくり抜いた湯船にこんこんと湯が湧き出て、湯気で辺りが見えませんって感じだ。木の板を回した壁に囲まれ、男女も木塀で分けられてた。


 ラッチェに痣を見られてから、私は医療用の肩当てをしてる。ガーゼを二重にして作られたもので、腕の付け根がスッポリ隠れる。大きめに作ってあるので、胸元の方まで覆うことができ、痣はスッポリ隠れてしまう。本来は肩や腕を痛めた人が使うものだ。


「あれ、マロー様、腕が痛いんですか?」

「なんか、筋がねぇ。つけたまま入ってもいいかな」

「構わないですけど、濡れますよ?」

「カバンに替えが入ってるから平気。折りたたむと、けっこう小さくなる優れものなんだ」

「へぇー。考えられてるんですね」


 コレなら、人に聞かれた時に肩を痛めてるって言えば大丈夫だし。薄着になるような事があっても、気が楽だからさ。


 実はこの肩当を使っていたのは、女官長様。もちろん、彼女は本当に肩を痛めてたらしいんだけど、彼女は汗っかきだそうで替えを何枚か持ち歩いてたんだよ。便利そうなので、私も欲しいと言ったら用意してくれたんだ。


 二人で硫黄泉に入って、少し、独特の臭いは気になるものの、本当に体が芯から温まることに感動した。肌も余分な油分が無くなってツルツルになったし。


「肩を痛めてらしたなら、ちょうど良かったですねー。体も温まりましたし、お肌もスベスベー」


 マーゴも自分の肌に触れて、ご機嫌で笑ってた。

 こういう視察ばかりなら、遠くまで来た甲斐もあるんだけどね。


 温泉を堪能し、馬車で城へ戻る前、私は殿下の首にスカーフをグルグル巻いてた。


「マロー。要らないだろ。暑い」

「ダメです。今はお湯の後で体も温まってますが、少しすれば体温も下がって来ます。髪だって濡れてるんだから、気を抜くと風邪ひきますからね」

「お前の髪も濡れてるだろ」

「私はショールを持ってます。文句言わないで、巻いといて。熱出したら自分が辛いんだからね」


 そんな殿下と私のやりとりを見てた案内役の男性が、少し笑ってカメオ師匠に言うのが聞こえた。


「まるで姉弟のように仲が良いですね」

「彼女は側付きでしたから。殿下の健康管理には煩いんですよ」

「いやぁ、見ていて羨ましいような気がします。私の妻は年が下で、ああ、甲斐甲斐しく世話はしてくれない。カメオさんの奥様は?」

「私は独り身なんですよ」

「おや。そうなんですか? どうでしょう、私の従姉妹に独身がおりますが」


 気づけばカメオ師匠のお見合い話に発展してて、ちょっと面白いと思ってたら、殿下が私の巻いたスカーフを外してた。


「あ、殿下ってば」

「寒くなったら巻く。今は暑いって」

「……約束ですよ」

「煩ぇな」

「殿下」

「分かったって。それより、早く馬車に乗ろう。立ってる方が体が冷えるだろ」


 ——それは、そうだな。

 先に乗り込んだ殿下が私に手を差し出す。


 だいぶん慣れて来たとはいえ、やはりエスコートされると微妙な気分になるなぁ。


評価を下さって有難うございます(^^)

マジ、嬉しい。

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