表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/80

仲良し

「殿下ってば、酷いと思わないか。俺を外したり、側付きに戻したり、そうかと思ったら魔法使いと比べるんだぜ? あのカメオが化け物っていうような奴と比べられたら、そりゃ、俺が見劣りするのは分かるけどな。けど、一応は俺の方が大人なわけでさ。戦闘経験なら、俺の方があるわけだし」


 グチグチと、煩いな、ラベナ。


 私はそれどころじゃないっていうのに。

 この、やりきれない気持ちをどうすればいいのか。


 なんだって、五つも下の男の子に翻弄された挙句に嵌められてるんだ。

 お陰でトランス王国行きを、なし崩しで了承しちゃったじゃないか。


 殿下っていうのは、天然の垂らしなんじゃないだろうか。

 今からアレでは、この先が思いやられる。


 私がモテてるのなんか、お婆ちゃんが大魔女だったからだし。

 カメオ師匠に血筋の話されて、やっと、いろいろ納得がいった所だったのに——。


 ——俺はお前が好きだ。マロー。


「うわぁぁぁぁ!」

「な、なんだよ、マロー」

「耳について離れない」

「何が?」

「ラベナの気持ちは分かるよ。殿下は人垂らしだからね。だけどね、まだ十二歳の少年なんだよ? 分かる?」

「十分に分かってるよ。だからこそ——側でお守りしたいっていう、この俺の気持ちも分かってくんない?」


 私は思い切り頭を抱える。

 けっきょく、ラベナは殿下が好きで側に居たいし、彼の評価が欲しいわけだ。


 ——同じじゃん。

 性別なんか、関係ないよね。


 私もラベナも、あの少年に魅入られてるんじゃないの?

 このまま大人になってったら、どれだけの崇拝者を作るんだろ。


「殿下って、末が恐ろしい」

「マロー。お前、なんか情緒が不安定じゃないか?」

「ラベナほどじゃない」

「……ショックだったんだよ。殿下に俺は必要じゃないのかなって」


 頼むから、それ以上は喋らないで。

 デジャブ過ぎるから——。


「楽しそうな所を悪いけどな。マローは、これから訓練だ」


 カメオ師匠に覗き込まれて、ラベナが飛び上がった。


「え、そんな時間ですか?」

「そんな時間だよ」

「すみません。俺、戻ります。じゃな、マロー」

「ラベナ。ワゴンに朝ごはんが残ってるよ」

「!! サンキュ!」


 走り去るラベナを微妙な目で見た師匠が——。


「お前らって、アレだな」

「アレ?」

「女学生? そんな感じだ」


 ——ごめん、ラベナ。

 師匠の言葉を否定する材料が見つからない。


 ☆


 早朝のハーブ畑で、来年に向けた種の採取に勤しんでたら。


「マロー。おはよう」


 まるで朝霧みたいにラッチェ様が浮かび上がった。

 本当に、いつも突然に現れる人だな。


「おはようございます。早いんですね、ラッチェ様」

「マロー。ラッチェって呼んでって言ったよね?」

「……公爵家の方に敬称なしは不遜ではないかと」

「ラベナはラベナなのに? あれも一応、伯爵家の息子だけどね」


 忘れてた。

 そういえば、そうなんだよね。


「彼は同僚ですので」

「ふぅん。なら、僕も君の同僚になろうかな」

「はい?」

「陛下付きを外れて、王太子の側付きやろうかなって」

「ラッチェ様」

「マロー?」

「分かりました。ラッチェ。それはダメでしょ」

「なんで?」

「陛下をお守りできるのは、貴方くらいでしょ?」


 彼は綺麗な顔に笑みを浮かべた。


「ジェットは自分で身を守れるよ」

「……左様ですか」

「ああ。アイツはいい大人だからね。君や王太子の方が心配」


 ——それは、そうかな。

 しかし、この人は陛下をアイツ呼ばわりなのかい。


「ところで、マロー。トランス王国行きを聞いてる?」

「聞きました」

「なら、話が早いや。ジェラルドは君になんて言ってた?」

「なんて?」

「伯爵は君に執着してるよね。すごい量の薔薇を送ってきたし、手紙攻撃されてるのも知ってるよ」


 どうしようか——。

 でも、あれだよね。


 この人には聖痕を見られてるし。

 他に相談できる人間はいないしな。


「……伯爵は、私の痣を知ってるようです」

「聖痕を?」

「聖痕だとは思ってないかもしれません」


 私は採取の手を止めて、少し思い出す。


「彼は痣を見せろと言いましたから」

「他に何か言ってた?」

「祖母には小さい頃、世話になった……私とは幼い頃、会った事があると」


 ラッチェが少し考えて、ふいっと私の額に指を当てた。

 頭の中がシェイクされるような、奇妙な感覚が起こって、クラっと立ち眩む。


 私の肩を支えたラッチェが、静かな声で教えてくれた。


「あぁ……。マロー。記憶は封印されてる」

「え?」

「伯爵の言った事は嘘じゃないみたいだね。君と伯爵は出会ってるかも」

「記憶が——」


 あぁ、目眩が酷くなってきた。


「ごめん。いきなり封印に触れたから、混乱を起こしてるね。歩ける? あの木の下に座ろう」

「……すみません」

「いや、僕のせいだから」


 畑の横に立っている栗の木に寄りかかって座る。

 木のエネルギーが背中から流れ込んできて、少し私を落ち着かせた。


「やっぱり、君はこの土地に愛されてるね。栗の木も君を案じてる」


 隣に座ったラッチェが、私を見て微笑んでから、少し眉を寄せた。


「余計な事をしたかな。思い出すかもしれない」

「何をですか?」

「ジェラルドに会ったこと」

「……それは、余計なことですか?」

「どうかなぁ。どんな記憶かまでは、僕にも分からないからさ」


 彼は少し面白そうに笑った。


「ただ、恋敵は少ない方がいいからね」

「冗談を……」

「冗談じゃないんだけどね」


 ああ、ダメだ。

 頭の中がクルクル回ってる。




評価ありがとございます。ブックマークも増えてて、嬉しいです!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ