表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/80

部屋替え

 殿下は真顔で私を見つめると、言い聞かせるみたいにいった。


「俺はお前を嫁にする。分かったか?」


 少し顔は赤いけど、冗談とか、揶揄ってるつもりではないみたいだ。

 私は殿下が掴んでた手をそっと外した。


「それは無理ですよ」

「……なんでだよ」

「殿下、まだ未成年じゃない」

「今すぐの話じゃないに決まってるだろ」


 ——なんて言えばいいのかなぁ。


「結婚っていうのは、好きになった人とするものだよ。そりゃ、殿下の場合は、それだけで決められるものじゃないかもしれないけどさ」

「……マローは俺が嫌いなのか」

「嫌いじゃないですよ」


 私は少し背が伸びて、肩より高くなった殿下の顔を覗き込む。

 軽く下唇を噛んで、我を張るような目つきの少年王子は——可愛い。

 頭を撫でたい衝動をグッと我慢する。


 だって……年頃も同じくらいで。

 隣に立っておかしくない女の子に、君はこれから出会うんだろうし。


 殿下は今でも綺麗で、格好いい男の子だし。

 きっと、素敵な男性になるもの。


「ルーガ王太子殿下。私は、あなたを主君とし、誠心誠意尽くしてお守りする従者です」


 殿下は唇を噛だまま、私を睨みつけた。

 ほんと、この子って——目を逸らさないな。


「あなたを異性としては見られないんですよ」

「……男とは思えないって?」

「まあ、そういう事です」


 殿下が眉根をギュッと寄せ、無言のまま背中を向けて行ってしまった。


 本音をいえば、嬉しいんだけどね。

 殿下が側に居て欲しいって、そう思ってくれたってことだから。


 私は軽い溜息をつく。

 少しだけ……ローズちゃんが羨ましいと思う。

 彼の隣に立って、殿下に寄り添って、なんの違和感もないもの。


 彼が、いつか、本当に好きになれる人に出会うといいな。

 私は——あなたの幸せを、本気で願ってるよ。


 ☆


 ……いやさ。

 私は真面目に答えたつもりだったんだよ。

 相手が子供だからって、適当な返事をしたつもりもない。


 ラベナが苦い顔して私を見た。


「お前、殿下に何を言ったの?」

「忠誠を誓っただけだよ」

「それが、なんでこうなってんの?」

「知らない」


 少し気まずかったから、殿下が着替えを終えるまで時間潰して戻ったら。


「マロー。お前の仕事は、俺の健康管理だ。隣の部屋に控えてる必要はない。ラベナと部屋を交換しろ。側付きもラベナに戻ってもらう」


 殿下がそんな事を言い出して、彼が午後の授業を受けてる間に引っ越しとけって言われた。まあ、彼は彼なりに何か考えたんだろうけど。


「それにしても、お前の荷物多すぎじゃないか?」

「そんな事ないよ。乳鉢やアルコールランプは必需品でしょ?」

「薬草の量だよ。どんだけ集めてんだ」

「いやあ、畑のハーブが豊作なもんだから」


 ラベナが呆れたような溜息をつく。


「俺は良いんだけどな。もともとが側付き仕事してたし。護衛に代わりはないし。だけど、お前はこれでいいのか?」

「これでって?」

「殿下の言い方だと、お前には薬と治癒魔法以外は望まないってことだろ? せっかく陛下に剣まで頂いたってのに、護衛を外されてさ」


 私は苦笑を浮かべるしかなかった。


「私の契約は、殿下の言うとおりだからね。治癒魔法使いの薬師として、殿下の健康管理をすることだから」

「けどさ」

「もちろん、訓練は続行するし。いつでも彼を守れるように、側付きの知るべき事は学ぶよ」


 殿下が暗殺者に狙われる事があるって理解した以上、それを辞める気はない。側にピッタリついてなくたって、力になれることはあるだろうから。


 ラベナは伺うように私を覗き込む。


「こいつは俺のだって発言から、一変して部屋替えだ。お前、やっぱり殿下に何か言ったろ」

「うーん。殿下を異性としては見られないって言った」

「!!!! おま、なんてこと言うんだよ!」

「だって、本当のことだもん。殿下は五つも下で、しかも仕えるべき主人なんだよ?」

「……そりゃ、そうだろうけど。あの年頃は多感なんだから、もう少し言い方ってのがあったろ」


 そんな事を言ったってさ。

 軽く目を閉じてから、ラベナが首を振る。


「いや——そうだよな。お前が正しいか。多感な時期だからこそ、判断としては間違ってない。マローには、マローの人生があるしな」


 ——そういう事ではないんだが。


 彼は青い瞳を優しげに細めた。


「お前、冗談だと思ってるだろうけど。俺は、本気でお前を気に入ってる。俺の嫁になるって選択もあるのを覚えとけよ」

「ありがたいけど、ラベナ。あなたも、異性としては見られないや」

「!! なんで!」

「男って気がしないんだもん」

「……お前、どいつになら異性を感じるっていうんだよ」


 私は腕を組んで真剣に悩んでしまう。

 だいたい、そういう感情は持っても仕方ないと思ってるからな。


「……陛下?」

「望みすぎだろ」


 陛下は愛妻家で、家族愛に溢れてる。

 側女も持たないし、宴会で女性を侍らせる事もないって聞いてる。


「そうなんだから、仕方ない」


 ——陛下って言っておけば、安心って感じでしょ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ