避暑地へ2
王家の方々が乗る馬車の横を、ラベナとカメオさんが馬で護衛する。私は王妃様のメイドさん達と一緒の馬車に勧められたけど、断って荷物と一緒に乗ってくことにした。
お嬢さん達が嫌いな訳じゃないんだけど、何しろ彼女達は、ほとんどが良家の子女であり、ご貴族様だ。辺境の村で育った私とは育ちが違うから、すごく気を使うんだよね。
それでも、休憩の時には彼女達と一緒にお茶を飲んだ。
「ノクターン様はお幾つでいらっしゃるの?」
「十六歳です。あの、身分的には私が下ですので、マローと呼んで下さい」
「ええ、でもねぇ」
「そうよね、王太子殿下のお側付きでいらっしゃるし」
「あの、ノクターン様、お茶のお代わりどうでしょうか?」
「あ、自分でやりますよ」
「……そうですか?」
——なんとなく歯切れ悪く、遠巻きにしたい感じには慣れてる。
彼女達は私が怖いんだよな。
大魔女リリサの孫だから。
私自身は魔女ってわけじゃないけどね。
治癒魔法と小さな生活魔法しか使えないし。
でも、彼女達にとっては私も魔女と変わらない。
少し大きくなってから、お婆ちゃんの仕事についていくと、周りの人は、いつもこんな感じだった。
そう考えると、殿下って肝が座ってるよね。
ああ、ラベナもか。
そんな中、少し大人しそうで、静かな女の子がお菓子を勧めてくれた。
「マローさん。マカロンどうですか」
「……マカロンですか?」
「はい。最近、王都で人気のお菓子だそうですよ」
気さくな感じの子だな。
ちゃんとマローって呼んでくれるし。
赤っぽい茶髪で、なんか兎っぽいなぁ。
「お名前を聞いて良いですか?」
「私ですか? マーガレットです」
「マーガレットさんは、王妃殿下のメイドさんなんですか?」
「いいえ。私はベルナンド様のメイドなんですよ。主にマリアンヌさんのお手伝いをしています」
「へぇ。ベルナンド様は遠目にしかお目にかかった事ないですが、やんちゃなんですかね?」
彼女は面白そうに頷いて、殿下の弟君のやんちゃぶりを話してくれた。
「目を離すと大変です。花壇のお花を毟って食べちゃったり、クレパスで部屋中に悪戯書きをしたり」
「ははは、さすが男の子なんですね」
「あとは、虫」
「虫?」
「ベルナンド様は虫が大好きで、すぐに捕まえてくるんです。……メイドにはちょっとキツイですね」
「なるほど」
マーガレットさんは、好奇心に満ちた目で私を見る。
「マローさんこそ、王太子様のお世話は大変では?」
「いえ。殿下は口が悪いだけで、自分でなんでもしますから」
「そうなんですか?」
「ええ。側付きと言いましても、健康管理が主になってますので」
「そういえば、最近は随分と健康になられたと、王妃様が喜んでいましたよ」
あ、嬉しいな。
確かに殿下、最近は風邪もひいてないしね。
「そういえば、マローさんは、王宮のお庭で薬草を育てていらっしゃるとか」
「よくご存知ですね?」
「料理長さんが、メニューに困った時には、マローさんにフレッシュハーブを貰うんだって言ってて」
「ああ、はい。料理長には、いつもお世話になってますから」
「私、ハーブティー大好きなの」
「そうなの? じゃあ、今度、少し分けましょうか。今は恐ろしい勢いでミントが勢力を伸ばしてるんで、間引いた分が溜まってるんです」
「あ、嬉しいな」
良かった。
薬草の話ができる娘がいてくれた。
もしかしたら、友達になれるかもしれないな。
「出発しますから、戻って下さーい」
御者の方々が、大きな声でそう言ったので、皆んながお茶道具をしまって敷物をたたみ出す。
各自の馬車に戻る時、マーガレットは少し照れたように笑った。
「実は、ずっとマローさんとお話ししてみたかったんです」
「私とですか?」
「はい。男装なさってましたよね?」
「ああ。殿下のお側に付くのに、その方が都合が良かったので」
「王宮で見かけて、格好良い人だなって」
「……は?」
「男装の似合う女性って、そうは居ませんよ? 近くで見ても、やっぱりマローさん。格好いい」
——ポッって。
今、ポッて赤くなったかな?
「また、お話しできますか?」
「そりゃ、一週間は避暑地に滞在しますからね」
「嬉しいです。では、また」
彼女は両手を頬に当てて、パタパタと軽い足取りで去っていった。
私は立ち上がって、キュロットの埃を払う。
うん。今は男装してないよね。
キュロットだもん。
近くで見ても格好良い?
なんか、思ってた感じと違うかな。
私は女の子同士って感じの友達に、なれるかなーって期待したんだけど。
まあ、薬草の話はできる。
……うん。
今回は閑話休題なので、二本同時にあげます(^o^)




