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 観なけりゃ良かった。

 予想以上にどぎつい濡れ場シーンが多数あり、本来なら少しは嬉しいんだろうが小鳥遊が隣にいる状況では気恥ずかしいだけだ。俺も人並みの感性は持ち合わせている。

 とはいえ、彼女のほうを横目で見たら食い入るようにスクリーンを凝視していたので、いらぬ気遣いかもしれない。

「満足しましたわー!」

「そりゃ良かったね」

「高城さんは不満だったのですか?」

「いや、ストーリーは悪くねえと思うけどよ」

「ストーリーより濡れ場についてお聞かせ願えれば」

「何の罰ゲームだよ」

「官能演習なのですから、それくらいのことはこなさねば」

「あんただけでやってくれ」

「では昼食がてら、感想を語って差し上げましょう」

 ランチは行列のできる有名店だったが、彼女の話で味どころではなかった。だって「乳房に指を這わせる仕草が」とか「局部を映さずに観客に想起させる演出の手腕が」とか聞かされながら食べるんだぜ。味なんてするわけねえだろ。

「次は買い物ですわね」

「何を買うんだ?」

「ランジェリーです」

「は?」

「ランジェリーです」

「一人で買ってくれや」

「二人だからこそなのですよ、似合っているかどうか、あなたに聞かねばわからないではないですか」

「俺にランジェリー姿見せるつもりかよ」

「当然です」

 あたりまえのように彼女は言う。その態度に、こっちが逆に恥ずかしくなる。

 高級デパートに趣き、脇目も振らずランジェリーショップに直行する。その迷いのなさ、見習いたい気もする。

 ランジェリーとは女性用の下着の総称だ。つまりブラジャーとパンティーである(一体型のものもある)。それらがずらりと並んだ店内は、どう考えても男性が入ってはいけない空間だと思われるが、小鳥遊によればそうでもないらしい。

「カップルが来ることは普通にありますから」

「俺らはカップルじゃねえぞ」

「それはそれです」

 彼女がいろいろ手にとって眺めるのを俺はぼーっと眺めている。女性の買い物は時間が長いと聞いたことがあるが、それが本当だと身をもって知った。

 たっぷり時間をかけて数点のブラジャーを選んだ彼女は、試着室へと向かう。その後ろを諦めた俺が付いていく。

「着替えたら声を掛けますから、カーテンの隙間から首だけ入れて覗いてください」

「カーテン開ければいいだろ」

「それだとあなた以外の人に見られる可能性があります」

「別にいいんだろ、それくらい」

「良いわけないではないですか!」

「は?」

 急にふくれっ面になった彼女がさっと試着室へ入り、力強くカーテンを閉めた。どうして彼女が怒っているのか、俺にはさっぱりわからない。

「……どうぞ」

「はいはい」

 俺は試着室に首を突っ込む。そこには上半身のはだけた彼女の姿があった。ブラジャーだけを着用している。赤を基調としつつも緑の柄をアクセントに入れていて、センスの良さを感じさせるものだったが正直それどころではなかった。彼女の胸は平均より大きく、透き通った谷間に青白い血管が浮いていた。魅力的だな、などと不意に思ってしまって、俺は首を振った。いくら見た目が良くても、そこにいるのは小鳥遊操なのだ。

「似合っていますか?」

「へ? あ、ああ、正直よくわからねえ」

「そうですか……」

 少し残念そうな小鳥遊。

「でもまあ、可愛らしいとは思うぜ」

「そんな雑なフォローされても」

 不満げな顔で、それでも数点を試着して(もちろん全部見せられた)、最終的に一つを選んで購入した。目ん玉飛び出るような値段だったな。

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