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この世のものでないくらいの感触だった。ビーズクッションのように柔らかで、低反発まくらのように力強かった。俺は思わずつばを飲む。そしてほんの少し、両の掌に力を込めた。指が肉にゆっくりと食い込んでいく。不思議だった。眼の前にあるそれは物理的に見ればただの肉の塊で、例えば頬とか二の腕と何も変わらないはずなのに、その触り心地は全く別次元のものなのだ。生命の神秘を感じずにはいられない。
「んっ……」
小鳥遊が小さく声を漏らした。反則だろう、それは。不覚にもちょっと可愛いとか思っちまったじゃねえか。
「もう止めるか? 演習は達成しただろ」
「何を言っていますの! やるならとことんまでやり抜かないと!」
別にやり抜かなくてもいいと思う。とは言わない。彼女が真面目で真剣なことはよくよく理解していた。
「じゃあ、揉むぞ」
「はい、どんと来てください!」
小鳥遊は生の胸をぐいと張り出す。
あのさあ、もっとこう、ムードとか、なあ。
呆れつつ、俺はぐっと十本の指を曲げた。そして数秒の間を開けて、力を緩める。それを数回繰り返した。
悔しいが、正直、幸福感がある。
ただ、それを小鳥遊に悟られることは嫌だった。なぜって、恥ずかしすぎる。
「もう十分だろ」
「いえ、まだです。次は乳首を……」
「ストップストップ! さすがに俺もそこまではできねえよ」
「そうですか……わかりました。これで演習達成ということにしましょう」
少し残念そうな顔で言うと、俺から身を離し、傍らに置いたブラジャーを手に取った。
はあ。少しは乙女らしい振る舞いをしないものかね。
ため息を吐きながら、ふと彼女の顔を見る。
耳が真っ赤に染まっていた。
うーん、それも反則。