迷子
迷子になるのが好きだ。
出かけるときはできるだけ迷子になりたい。
今はスマホで現在地がすぐにわかり、最短距離で目的地まで行ける。
時間がないときや仕事の時はそうするしかないけれど、プライベートの一人ドライブでは話が別だ。
ドライブするときはカーナビを使わない(持っていないし買う気もない)。なるべく知っている道を使わない。同じ道を通らない。
こんな感じで自分に縛りをつけてドライブをする。
私のドライブは海の見える道や、目の保養になる山々ではない。
住宅街や幹線道路がメインだ。
そして通ったことのない横道や、進んだことのない分かれ道を選んでは迷う。
ひたすら迷う。
そして不安になる。
やばい、帰れないかもって。
だけどそんなことはない。
道は続いている。
雰囲気で走っていると突然訪れるのだ。
「あ、なるほど。はいはい。この道って、ここに出るのね」
って瞬間が。
これが好き。
これのために迷子になりたいのだ。
不安が一瞬にして安心に変わる、安堵を体験したいのだ。
しかしこれにはジレンマがある。
どんどんどんどん道を覚えてしまうのだ。
迷子になりたいのに、迷子になりにくくなるというジレンマだ。
私はそこら辺のタクシー運転手よりかは、道に詳しいだろうという自負がある。
それくらい迷子経験が豊富なのだ。
行き止まりになったら戻ればいいし、本当に不安になったらなにかに頼ればいい。
とにかく立ち止まらない。
迷子になっても進み続けていれば必ず道が見えてくる。
だから最近は迷っても焦らなくなってきた。
安堵に変わることを知っているから。
それくらい迷子経験が豊富なのだ。