ヌンチャク
私には二つ年下の弟がいる。
数年前、台湾に弟が旅行に行った際、お土産として私にくれたのは、ヌンチャクだった。
グリップがスポンジになっているタイプの練習用ヌンチャクだ。
ただ練習用と侮ることなかれ、硬い芯がちゃんとあるので、本気で使えばかなりのダメージを与えられる武器になる。
しかし、私はヌンチャクを欲しいと言ったこともないし、これから始めようかと思ったこともなかった。
なのにヌンチャクを弟はお土産として私にくれた。
意味が分からなかったけれど、受け取った。
ヌンチャクって自分じゃあ買わない。
というより売っているところを知らない。
浅草に武器を売っている店があった気がする。そこに売っていた可能性はある。
あとはアマゾンとかネットだろうか。
なんにせよ、ヌンチャクを買うという発想に至らない。
だけどせっかく買ってくれたのなら、まあ受け取る。
欲しかったわけではないけれど、もらったからには使えるようになりたいと思い、私はヌンチャクを練習した。
練習用の動画が当時はそんなになくて、見よう見まねで。
案外ヌンチャクの射程が広く、部屋の中での練習は困難だった。
だから夜中に公園の隅でひっそりとヌンチャクの練習をした。
おそらく誰にも見られていないと思うけれど、見られていたら恥ずかしいなと思う。
私が目撃者だったら、ちょっと引く。
幸い私の地域で「夜に公園でヌンチャクを練習をしている奴がいる」という都市伝説が生まれていなかったので、見られていないと思っている。
たぶん私は他の人と比べて少しだけヌンチャクを使える方だと思う。
街でヌンチャクを使えるかどうかのアンケートを取ったこともないし、ネットにも日本人のヌンチャク技術の取得率のデータがなかったので、予想でしかないけれど。
だからもし私が異世界に転移したら、装備はヌンチャクにしようと思う。
転移先にヌンチャクが存在しなかったとしても、向こうの技術でヌンチャクを再現することは容易だろう。
鍛冶屋に説明もしやすいし、作成はそんなに難しいものではないはずだ。
初期装備としては、木と紐で作成可能なので料金も安そうだし、実用的だ。
ふと思ったけれど、もし強盗が来たとき、ヌンチャクを構えたらどうだろうか。
強盗の立場で考えると、強盗先の家主がヌンチャクを構えたら「ヌ、ヌンチャク!?」ってひるむと思う。
強盗に「なんかやばい家だったかも」って思わせることができるかもしれない。
普通の護身術よりも、相手に不安感や焦燥感を与えることができるかもしれない。
そろそろ練習用から実戦用のヌンチャクに買い替えようか。
もしまた今度、弟が台湾に行ったのなら、次のお土産はトンファーがいいなと思っている。