§『彼女がいると思っていた』を終えて(ネタバレ自作解説)
二か月ちょっとの連載をした『彼女がいると思っていた』がついに完結した。
あとがきとはちょっと違うけれど、脳内整理というエッセイでもあるし、セルフライナーノーツ的に思うことを書いてみる。
この小説は自分にとってかなり挑戦的だった。
まず、私のスタイルとして、結末が思いつかないと書けない、ということがある。
マイページの自己紹介にも書いているけれど、私は物語が湧いてこない。
だから結末やきっかけをひねり出してから、ストーリーを組み立ていく。
『異世界初心者』は最後まで一度書いたものを、書き直しながら投稿している。
『勇者業をしたくない』と『依頼人はほしくない』は完全に書き終えてからの投稿。
『ヒューマン・オア・ヒューマノイド』は書き終えていなかったが、エンディングは出来上がっていたので、それを埋めるように投稿していった。
こんな感じで、終わりを見据えて書いている。
だがこの『彼女がいると思っていた』はエンディングを考えていない状況で、連載を始めた。
構成としては群像劇という短編小説なので、一つ一つで完結しているという点では、上記のものと同じように終わりを見据えて書いていることと変わりはないのだが、全体としてのオチは未定だった。
毎日投稿を守りつつ、終わりのない話を書けるか、あるいは終わりを見つけられるか、という挑戦だった。
最初の四章を書きあげたところで、連載を始め、常に二章分は余裕をもって書き続けるという自分への課題をもって取り組んでみた。
そうしたら八章の連載中(十章執筆中)にオチと次作のアイデアをひねり出すことに成功し、全部で十二章になった(プロローグとエピローグを除く)。
この物語は「現実世界においてハーレムを形成するには」というテーマを元に、私なりに合理的な解決を目指したつもり。
結果としてハーレムの形成には失敗したけれど、一人の男性を複数の女性が取り合うという構成には成功したと思う。
複数の人間が一人の男を同時に好きになることはあまりないかもしれないが、好きという気持ちを抑えていた人達が一斉に再燃するのはあり得るかもしれない、と考えて組み立ててみた。
そしてそれを効果的に見せられるかもしれないと思って群像劇という方法を採用した。
これらが活かせているかどうかは私自身では判断しかねる。
ではなぜそんなテーマを元に物語を書くことになったのか、そもそもの出発点はなにか……それには二つ理由がある。
実はこの『彼女がいると思っていた』の主人公の佐井幸助は、『異世界初心者』の主人公の佐井幸助と同一人物である。
『異世界初心者』の佐井幸助は二十八歳の女たらしのキャラクターで、若い頃はどんな奴だったのかと想像したところが出発点だ。
これが一つ目の理由。
なので最初の構想として、実は登場した女の子全員に手を出していました、というオチも考えていたのだが、それではあまりにもゲスい、と思い却下した。
そこで『彼女がいると思っていた』の佐井幸助はナチュラルなモテ男というキャラクターに設定しなおして書いた。
ちなみに十六歳のナチュラルなモテ男の佐井幸助が、二十八歳の女たらしの佐井幸助に至る物語は書かないつもり。
二つ目の理由は、現代恋愛ものの練習をしたかったということ。
現代恋愛ものも書いてみたいという気持ちがあったし、他にもぼんやりと構成もあるので、始めてみた。
動機はそんなところです。
この『彼女がいると思っていた』を書いていて、書き終えて、気が付いたことがいくつかある。
一つは、キャラクターが対になっているということ。
『百村りか』と『押立さくら』、『矢野口光』と『大沼愛』、『小川麻衣』と『日吉瑞希』、『長峰涼子』と『坂浜恵美』、『上田』と『南』といった具合。
もちろん例外はある。
これは狙ってやったことではない。
『坂浜恵美』を書いている途中(もうほぼ終わり)で気が付いた。
たぶん群像劇という構成上、登場人物のクロスオーバーをするのについになっている方が都合がいいからだろう。
無意識に楽な書き方を選んでいたようだ。
もっと早く気が付いたら、それを崩す書き方もできたかもしれない。
次回作以降要検討。
もう一つは、もしかしたらキャラクターは勝手に動き出すのかもしれないと勘違いしそうになるということ。
『小川麻衣』というキャラクターは実に便利だった。
彼女自身の章はたった三話しかない。
しかし他の章のいたるところに顔を出す。
性格の設定上そうなるのは必然なのだが、まるで勝手に動き出しているかのように錯覚しそうになった。
面白い体験だった。
あとは、群像劇は面白いということ。
視点、主人公を章で変えたので、なんてことない文章が、別の章では意味のあるものだったりと、伏線をひっそりと忍ばせたりすることができて楽しかった。
いかにも伏線というものより、さらりと書いた文章を、ちょろっと出したキャラクターを、フィーチャーするのが書いていてワクワクした。
反省点としては、各章の順番だ。
『萩山多喜子』『上田あん』『南麗奈』の位置は変えたい。
特に『萩山多喜子』の章はもうちょっと後ろでよかったと後悔。
思いついた順に書くのではなく、全体を見てバランスを考えて配置する必要があると学んだ。
長々と『彼女がいると思っていた』について書いてきたけれど、まあこんなところだろう。
上記の点を忘れないように、次回作は執筆するように心がけたいと思う。
しかし上手く書けるかは保証しない。