写真展
いつだったか、どこだったかはすっかり忘れてしまったけれど、アマチュア写真家のコンテストみたいなものをやっていた。
テーマは美しい富士山。
佳作秀作などと入賞作品が並んでいた。
しかし私は、その写真に酔ってしまった。
良い意味ではない。悪い意味だ。
どれもこれもきれいな富士山しかないから。
春の桜と共に映る富士山。
湖の逆さ富士との富士山。
雪の溶けた赤富士。
写真家なら一度は収めたい風景だと思う。
しかしどれも天気は晴れで、富士山がはっきりと見えている写真ばかりなのだ。
それが共有された意識、洗脳のように見えて、悪酔いした気分になってしまった。
頭の中では理解できている。
それがコンテストで、そういうのを集めた写真展だということを。
でも一枚くらいあってもいいだろう。
曇ってよく見えない富士山があっても。
旅番組で絶景スポットに行ってみたけど曇りで見えませんでした。
出演者一同「残念だ」と言う。
本来だったらこんな風景が見えますと言って、司会がパネルを出す。
出演者一同「見たかったな」と言う。
私はこれが好き。
本来見える風景が、見えないときの風景。
もちろんきれいに見えるに越したことはない。
でも見えない景色を思い浮かべるのも一興だと思う。
人間にしかできない高等な思考だと思う。
その写真展は美しい富士山というテーマのもと、選考委員会が協議して、選ばれた作品が並んでいたのだろう。
もし私が選考委員会のメンバーだったら相当揉めただろうな。