36話 旅支度(1)
「そうか……シンイチ殿との子が産めないのなら、潔く諦めるよ」
「なんかスミマセン……」
「いや、此方こそ暴走して申し訳ない。でもまあ、シンイチ殿が私よりも遥かに強いことはわかった。もしこの村に何かあった場合は――」
そう言って、この村がピンチの時は、できる範囲でいいので助けてほしいとお願いされた。
その時は隊長さんの指示を待たず独断で動いても良いが、事後報告でもいいので連絡はして欲しいとのこと。
強制はしないらしいから、サリーさんが必要だと判断した時だけ助けることにしよう。
隊長さんとそんなことを話していたら、いつの間にかポチ兄妹や副隊長さん、ベスモルトさんとパンテーラさんの五人が俺たちの傍にいた。
用事は済んだとばかりに隊長さんは「戻るぞ」と言って、副隊長さんと共に詰所へと戻っていった。
二人を追うように、野次馬連中たちも詰所へと大移動を始め、周りは誰もいなくなった。
残っていた四人とも、これからのことを少し話し合ってから別れた。
ベスモルトさんから受けた依頼の件で、ウルさんが一緒に手伝いたいと言ってきたのだが、妹を是非とも使って頂きたいとポチ兄さんに懇願され、ベスモルトさんからも了承を得たので連れていくことになった。
それから、十日後に出発ということに一応なってはいるが、絶対ではないので、何かあれば遠慮なくいって欲しいと言われた。
ということで、互いの準備状況などを報告するため、この十日のうち何度か連絡を取り合うことになった。
あと、こんな注意も受けた。
警備隊員の面々から慕われ、性別に関係なくエルフ達にも大人気の隊長さん。
そんな彼女からの求婚を断ったのを逆恨みして、何か事を起こす者がいるかもしれないからとポチ兄さんに言われたのだ。
ベスモルトさんも、この村で一番強いと証明された俺に手を出す馬鹿はいないと思うが、用心するに越したことは無いと言われた。
どうやら隊長さんには熱狂的な信者がいるみたいだ。
現在、俺はやや早歩きでルーミーの家に向かっているのだが、今のところ何も起きていない。
だが、二人の言う通り、警戒心は怠らない方がいいだろう。
というわけで、俺はダブロスに搭載されている探知機能を定期的に発動させ、不審者が周囲にいないかチェックすることにした。
「やっと帰ってきたわね、シンイチ。いきなり飛び出ていって――いったい何だったの?」
ルーミーの家に到着するや否や、そう訊いてきた。
まあ……何も告げず、目の前から急に飛び出ていったのだから当然だよね。
俺が「キーファさんが狼の群れに襲われていると勘違いし、助けようと急いで飛び出ていった」と正直に答えると――。
「あはは♪ 予想通りで笑える♪」
「? どゆこと?」
「あーごめん、ごめん。えっとね、キーファから事情を聞いて、アタシなりにシンイチが飛び出した理由を予想したら、想像通りだったから可笑しかっただけ♪」
「………………」
「あはは♪ シンイチの顔、真っ赤だよ♪」
「うるさい!」
まったく……ルーミーには敵わないな。
ルーミーが先程語った自分の予想をキーファさんに話したら申し訳なさそうにしてたみたいだから、どんな顔して会ったらいいか悩むじゃないか……。
一応ルーミーにも、十日後に用事で村を離れる事、帰りがいつ頃になるか判らない事を告げた。
すると、魔法の鞄の完成には程遠いため「間に合わなくてゴメンね」と謝ってきた。
確かに俺が世界各地を周るために作って欲しいと依頼はしたが、こんな物凄いアイテムを一から作るのだから時間がかかるのは当然。
気にしないようにとルーミーに声をかけたら、「シンイチが戻るまでには完成させておくわ!」と言ってきた。
試作一号を聞いたその日に徹夜で作ったことから、寝食を忘れて魔法の鞄作りに費やすことは容易に想像できたが、ヤル気を削ぐのもアレなので、無理はしないようそれとなく伝えておいた。
それから、「魔法の鞄」は「アイテム鞄」へと名称を変更した。
俺が先程「魔法の鞄って何だっけ?」と一瞬思ってしまったのが発端なのだが、また忘れそうなので、「攻撃魔法や回復魔法など、魔法が収納できると勘違いする人がいそうだから変えたほうが良い」と適当な理由をつけて強引に名前を変更させたのだ。
ラノベ等でよく用いられる「アイテム鞄」という名称の方が俺的には馴染みがあるから、ルーミーの名付けた「魔法の鞄」のように忘れることは無いだろう。
アラフォーのオヤジに記憶力を求めてはいけない。
ついでに、袋型の物は「アイテム袋」と呼称することにした事も付け加えておこう。




