30話 マキエル村の獣人たち(5)
いつもより少し長めです。
「お、お前! 姉貴のことが……」
ベスモルトさんが急に叫んできたが、ハッした表情をすると同時に大声を止めた。
もう一人の正体はどうやらお姉さんらしい。
何やら他人には知られたくなかった様子だったが……。
三人の気配を感じているのに目の前にいるのはベスモルトさんとパンテーラさんの二人だけ――お化けや悪霊の類いかと焦ったが、違ったみたいでほっとした。
オヤジの俺だってそういうのは怖いのだ。
「なるほど……あなたの中のもう一人の気配はあなたのお姉さんでしたか」
「チッ……あぁ、姉貴だよ」
「もしかしてその体もお姉さんの……とかですか?」
「………………」
自身の中に姉が存在しているという返答を聞き、さらに踏み込んでみたら黙ってしまった。
どこをどう見ても女性にしか見えないのだ。
何らかの理由でお姉さんの中にベスモルトさんの魂が入り込んでしまい、支配してしまったと考えるのが自然だ。
反論せず黙ったからその可能性は高いと思う。
「……付いて来い」
徐に口を開いたベスモルトさんの顔は、覚悟を決めた表情をしていた。
「どちらに?」
「俺たちの部屋だ」
そう言って上を指さした。
「わかりました」
聞かれたくない話をするため、自分たちが借りてる部屋へ連れていくようだ。
あっ、ポチ兄さんとすれ違いになるかもしれないな。
「ウルさんはここで待っててください。もしポチさんが先に戻ってきたら、この状況を説明して一緒に待っててもらえますか?」
「了解~♪」
俺はウルさんをここに残し、階段を上る二人に付いていった。
この建物は村長の家と同じような作りだとは感じていたが、同じように寝泊まりするための部屋が上の階にあったようだ。
「ここだ」
ベスモルトさんはそう言って、二階のとある部屋の前で立ち止まった。
すると、パンテーラさんが懐から何かを取り出し、それをドアノブにコツンと当てた。
その瞬間、双方から手のひらサイズの魔法陣が表れ、ドアノブ側の魔法陣にもう一方の魔法陣がゆっくり回転しながら接近し、ピッタリ重なった瞬間、さらに光ったと思ったら泡のように弾けて消えた。
きっとドアの鍵を開けたのだろうが、なかなかファンタジーだ。
「さあ、入って」
ドアを開けながらパンテーラさんがそう言いながら、ベスモルトさんと一緒に部屋の中へと入っていった。
中は小さな丸テーブルと箱椅子が二脚、二段ベッドしかなく、とても簡素だ。
隅には二人の荷物が小さくまとめられており、女性がいるにしては量が極めて少ない。
「座ってくれ」
ベスモルトさんがそう言って箱椅子に、パンテーラさんがベッドに座ったのを見て、俺は余った箱椅子に座った。
「さて、何から話そうか……」
ベスモルトさんがそう口を開くと、こうなった経緯――自分の過去を語り始めた。
姉の名前はアタナシア。
二人は双子で、幼少期は瓜二つの外見だったというから、きっと一卵性双生児なのだろう。
数十年前のある日――。
双子の姉弟は魔族の抗争に巻き込まれ、広範囲の高火力の攻撃魔法で二人は消滅した――はずが、気が付いたら焼け野原にポツンと独り。
自分は生きており無傷、姉の姿はどこにもなかった。
周囲は視界を妨げる障害物が無くなった荒野と化してしまっていたため、姉の捜索を早々に諦め、両親の元へと帰り報告した。
そこで初めて、両親から自分たちが不死の呪いにかけられている事を聞かされ、さらに自分が姉の体になっているとわかり絶句したそうだ。
二人の父は一族の長だった。
授かった子が双子と知った両親は、生存率を上げるため占い師に相談、何かの施術を行ってもらった。
だが、後にそれが不死の呪いと知り、解呪不可能と判ると激怒。
その占い師を処刑した。
息子の話を聞いた今はその占い師に感謝だなと苦笑していたが、そういう訳で、あの状況で無傷で生きていたのだから、姉も何処かで何らかの形で生きているだろう――両親はそう言って話を終えたという。
程なくして、ベスモルトさんは両親の許可を得て、二人の友人で幼馴染のパンテーラさんと共に、姉のアタナシアさんを探す旅に出かけた。
そして、何の情報も得られないまま現在に至る――そう締めくくって話を終えた。
普段の俺なら、できるだけ他人と関わらないように生きてきたから、絡んできた相手が例え美人のお姉さんだろうと適当にやり取りしてやり過ごしていただろう。
では、どうして今回は関わろうとしているのか。
俺は、魂だけ転移した異世界でダブロスを操るという現在の状況を楽しむことにしたのだ。
マキエルさんやサリーさんの話を信じるなら、もしこの世界で死んでも魂が無事なら元の世界に戻るだけだし、感覚としては、小説で読んだようなVRMMORPGで遊ぶのとそう変わらないだろう。
そして、マキエルさんから問題を解決するよう頼まれているからだ。
サリーさんとも相談したが、マキエルさんの言う問題が何なのか不確定であるため、今は手当たり次第に問題を解決していくのが良いと判断していた。
サリーさんの助言もあったが、俺の睨んだ通り、ベスモルトさんたちは問題を抱えていた。
彼らにとって俺は、初めて掴んだアタナシアさんの手掛かり。
彼らも必死だろう。
俺は彼らを手伝うことにした。




