23話 憧れの人(1)
「キーファ、まだ来ないね。」
「……そうだね……」
ルーミーの突然の問いに対し、俺は何とか返事をした。
「シンイチ、何かやらかした?」
「……どうしてそう思うの?」
「何となく?」
ルーミーの直感力は半端ない。
彼女とは昨日からの付き合いだが、散々交わした魔法の鞄の議論や会話でそう感じた。
アイテムボックスの概念はこちらの世界には存在しない(と現時点では思われる)。
にも拘わらず、彼女はそれを「何となくだけどわかったわ」と言って理解することができていた。
それに彼女は、迷ったときは自分の直感を頼って判断し、それで大抵うまくいくとも話していた。
そんな彼女が、俺がやらかしたと判断したのだから……つまり、そういう事なのだろう。
俺は今朝起きたことを包み隠さず話した。
「フフッ……面白いことになってるわね」
「そんなに可笑しいかい?」
「それはもう……って、あ、ごめんね」
「いや、それよりその反応……そんなに深刻に考える状況でもないのかな?」
「う~ん……どうだろうね……」
明るく答えていたルーミーの反応を見てそれほど深刻ではないと思ったのだが、違ったみたいだ。
今回の件で相談できるのは彼女だけだし、もう少し聞いてみる。
キーファさんにとって俺は憧れの人……なのだという。
俺がマキエルさんの使いだからだ。
マキエルさんは伝説の人。
この村のエルフたちを救った英雄であり、信仰の対象。
それはこの村での常識である。
キーファさんはマキエルさんを異常なまでに特別視していた。
俺に対しても同様の扱いをしている――と、ルーミーには映ったようだ。
俺の世話係は父親である村長からの依頼ではなく、キーファさん自ら志願したらしい。
また、昨日のキーファさんの殺気はルーミーに向けられたもので、俺の名前を呼び捨てにしていることが許せなかったらしい。
どちらもキーファさん本人から直接聞いたことだとルーミーは言っていたので、間違いないようである。
そんな特別な人物である俺が、一瞬とはいえ、結婚相手として自分を見ていたというあの発言。
その事に驚愕し、混乱し、思考停止した。
ただ、朝食の準備はまだ完了しておらず俺を待たせてはいけないという事で、少しだけ自分を取り戻して用意を済ませたが会話をする余裕はなかった――と、ルーミーは考えているようだ。
「でも、あの発言を不快には思ってないと思うよ」
彼女は最後にそう言った。
俺はルーミーの話を聞いてフリーズした。
彼女の見解が正しいなら、当時のキーファさんは現在の俺と同じ状況だったという事になる。
《彼女の見解は概ね合っていると思われます》
おぉ!
突然、頭に声が響いてため俺はびっくりした。
サリーさんの存在を忘れていたよ。
でも、二人からキーファさんはあの発言を不快には思ってないと言われて少し気分が楽になった。




