22話 転職のすゝめ(3)
翌日――
俺はルーミーの家へ向かいつつ、今朝の出来事について考えながらノロノロと歩いていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
朝、目覚めた俺がリビングへ向かうと、キーファさんが台所で朝ご飯を作ってくれていた。
テーブルには二人分の食器が用意されている。
「おはようございます、キーファさん」
「あ! おはようございます、シンイチさん。」
「昨日からいろいろ面倒をかけてしまい、申し訳ないです」
「いえ、お気になさらず。父……村長にシンイチさんのお世話をするよう言われてますから……すぐに朝食のご用意ができますので、そちらで座ってお待ちください」
こちらに振り向いて挨拶を一通り終えた彼女は、また向こうを向いて調理を再開した。
互いに別部屋だったとはいえ、男女が一つ屋根の下で一夜を共にし、一方は朝食の支度をし、もう一方はそれを待つ。
「結婚したら、朝はこんな感じなんだろうか……」
この様な状況から、つい思ったことを口からボソッとこぼしてしまった。
俺の言葉が耳に入ってしまったらしく、キーファさんの使っていた包丁が彼女の手を離れ床に突き刺さった。
「あ! 変なことを口走ってしまいました。すいません……」
「………………………………」
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――なんて事が今朝起こったのだ。
当然、朝食の時間は変な空気で居心地の悪いものとなり、速攻で朝食を流し込み、俺はキーファさんに「ルーミーの家へ向かいます」と告げて逃げるように宿泊先を出て、現在に至るというわけだ。
俺みたいな、婚活パーティーで誰からも相手にされない独身オヤジが結婚相手とか、キーファさんには向こうの世界の事情はわからないだろうが、こちらの世界と共通するような何か嫌な想像をさせてしまったのかもしれない。
あれから一言も言葉を発さなかったのがいい証拠だ。
後できちんと謝らないといけないな。
そんな事を考えながら歩いていたら、ルーミーの家に到着した。
「おはよー、シンイチ!」
「おはよう、ルーミー」
「あれ? キーファは?」
「あぁ……俺だけ先に来ちゃったから、もう少ししたら来るんじゃないかな……」
「? そうなの? それよりこれ見てよ!」
そう言って、ルーミーは俺に手のひらサイズの巾着袋を手渡した。
「これってもしかして――」
「そう! 魔法の鞄の試作第一号だよ♪」
彼女をよく見たら、目の下にクマができている。
どうやら睡眠を削って一晩で、沢山アイテムが入る魔法の鞄の試作品を作り上げたようだ。
俺は徐に自分の右腕を袋の中に突っ込んでみた。
俺の腕が小袋の中に呑み込まれていく。
傍から見たら、俺の右腕が消失しているように見えることだろう。
説明を聞けば、家造りで使う空間魔法を応用して本当に魔法の鞄を作ることができるのか直ぐに確かめたくなり、父親のラウムさんと二人で試行錯誤しながら実験を重ね、なんとかできたモノらしい。
容量は成人エルフが十人ほど入るくらい。
袋の口より大きい物は収納できない。
だが、中に入れることができたとしても取り出すのは困難なのだという。
中が見えないので手探りで探す必要があるし、そもそも中が広いため手が届かない。
当然、手が届かないから取り出せないのだ。
「まだまだ完成には程遠いけど、必ずシンイチも納得する鞄を作ってみせるよ! だから、どんどん注文やダメ出ししてね♪」
自身の使う空間魔法が家造り以外にも応用できる事が証明された。
問題は山積みだが、彼女の言葉はやる気に満ちていた。
父親の許しを得て、ルーミーは魔法の鞄職人に転職した。




