20話 転職のすゝめ(1)
「あ! パパ、おかえりー♪」
「ただいま、ルーミー。随分とご機嫌じゃないか。何か良いことでもあったのかい?」
やはり、彼はラウムさんで合っていたようだ。
「聞いてよ!パパ――」
俺はラウムさんに挨拶しようと思ったのだが、ルーミーに邪魔をされてしまった。
挨拶のタイミングを逃しそうだったが、咄嗟に軽い会釈をして事なきを得た……はず。
ルーミーがラウムさんに先程まで話し合っていた内容を簡潔に説明していく。
「ほほぅ、空間魔法にそんな使い方が……実に興味深いねぇ」
「でしょでしょ~♪ それでアタシ、そのアイテムが沢山入る魔法の鞄作りに挑戦することに決めたの! だから、しばらくパパのお仕事手伝えなくなると思うけど、問題ないわよね?」
「それは別に構わないよ」
「ほんと~?」
「本当だよ。それに、面白そうだから、パパも仕事の合間にその研究開発を手伝ってもいいかな?」
「もちろんっ! ありがと~パパ♪」
あっさりと許可が下りた。
ルーミーの言った通りだな。
彼女は父親に抱きつき、満面の笑みを浮かべている。
ラウムさんはルーミーには甘いようだ。
父親が娘に弱いという話は聞いたことあるが、それは異世界やエルフも当てはまるみたいだ。
「シンイチ! アタシ頑張って魔法の鞄を完成させるねっ!」
ラウムさんからスッと離れたルーミーは、そう言って俺の方に駆け寄ってきた。
「ああ。頼んだよ、ルーミー」
そう声をかけ、俺は彼女と両手で握手を交わす。
――その瞬間、殺気を帯びた二つの視線が俺に向けられた。
「随分うちの娘と親しそうじゃないか――」
そう言いながら、ラウムさんが顔を引きつらせながら俺の方にゆっくりと近付いてきた。
どうやら娘につく悪い虫だと思われたようである。
俺はラウムさんに先程できなかった自己紹介をした後、俺とルーミーの関係性をきちんと説明して誤解を解いていく――。
因みに、俺がルーミーを呼び捨てにしているのは、彼女にそうお願いされたからだ。
きっとこれも誤解された原因の一つだろう。
当然そのこともちゃんと説明したのは言うまでもない。
俺の誠意が伝わったからか、ラウムさんはしぶしぶだが納得してくれた。
もう一方の殺気の源、キーファさんもラウムさんと同じタイミングでこちらに向かってきたのだが、俺をスルーしてルーミーの手を取り、部屋の隅まで引っ張っていった。
険悪な状態になるかと思われたが、俺がラウムさんに応対していた間に状況が変わったのか、現在は二人で何やらこそこそ話をして戯れ合っている。
あの時の殺気は何だったのだろう?
いつも思っていたが、女性の考えることは理解できないことばかりだ。
それは、この世界のエルフも同じみたいだ。
キーファさんに真相を聞いてみたいところだが――触らぬ神に祟りなし――面倒な事になる予感しかしないので、俺はこれ以上考えるのを止め、なかったことにしようと決めた。
いつも日曜日に1週間おきに投稿していますが、仕事が忙しいので、年末まではとうこうがおくれるかもしれません。




