必殺技じゅげむ
ビリビリと空気が震える。周囲に満ち満ちた気が、天高く突き上げられた彼の右拳に集約され、眩いばかりの輝きを放った。
「見せてやる……これが俺の、新たな必殺技!」
宿敵に笑みを見せた彼は、脚を開いて腰を落とし、青白い光に包まれた拳を、ダイナミックに振りかぶった。
そして、漢は大きく息を吸い込み、吐き出すと共に、その技の名を高らかに叫んだ。
「必殺──ブラック企業に勤めるサラリーマンの忍者が文学少女にフラれたショックでボロアパートに引き篭もり、ブラウン管を眺めながら暇つぶしで作ったおにぎり──に使われたお米を育てた幕末の農民が、森のドラゴンと共に必殺技を放ち、大魔王を倒して聖女を救い出した──と思ったらそれは偽物で、しかもおねえだったことを知り、やるせない気持ちをコントロールする為に見上げた空に浮かんでいた入道雲──のように白い、伝説の──牛乳!」
彼は噛むことも言い淀むこともなく、やけに長々しい技名を、見事言い切った。
が、しかし……。
何も起こらない。
それどころか、「牛乳!」の叫びと共に打ち出された途端、その拳は纏っていた光を、失ってしまったではないか。
「……あれ? ……なんで?」
「……もしかしてだけど」対峙していた宿敵は、何かを思い付いたような顔で、指摘する。「お前、一つ忘れたんじゃね?」
「あっ!──さすが!名推理!」
「いや、名探偵な」