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ことわざ大百科 ver.短小説  作者: 深夜翔
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溺れる者は藁をも掴む

「はぁ…はぁ…」

僕は必死に暗い森の中を走っていた。

後ろを振り返る余裕はない。足を止めてはならない。手にあるのは折れて使い物にならなくなった剣の残骸。

「どうしてこんなことにっ」

それは遡ること数時間前のできごと………。


「やばいっ。今日試験の日だ!寝坊したっ」

急いで階段を駆け下りると、部屋の隅にある服掛けから上着を剥ぎ取る。

「なんで起こしてくれなかったのさぁ!」

「あら…分かったって返事したわよね?」

「それはっ!僕がっ!悪かったです!」

大急ぎで身支度を済ませると出されたパンを牛乳で流し込み勢いよく外に出た。

今日は学院入学の試験日。

せっかく偶然知り合った貴族さんに紹介して貰ったのに、試験受けられなかったは洒落にならない!

既に太陽は木々の隙間から顔を覗かせている。

受付終了は朝の10時。

この角度だと後数十分。

「このままじゃ間に合わないよ!」

あまりに焦っていた僕は、普段危険だから立ち入らないようにしている森の近道に足を踏み入れてしまった。

そこは死人が出るほどの魔物が住んでいると言われる森。そのテリトリー内でしか行動しないようで、森を迂回していれば被害に会うことはないらしい。

「頼むから間に合ってくれぇ」

この時の僕にそんな事まで考える余裕は無かった。

大きな木々が覆うこの森はほとんど日が差さず暗い。かろうじて確認できる光で太陽の位置を確認し、方角を見失わないように気をつける。

しばらく森を走ったところでふと違和感に気がついた。

僕の足音の後ろから、何が追ってくる音が聞こえてくる。

明らかに人の足音ではない何か。

そもそも冒険者ですら立ち入らないこのエリアに音がすること自体有り得ないと言うのに。

少しは楽観的に考え走り続けたけれど、どう見てもこのままでは追いつかれる。

勇気をだして腰の剣を抜きながら背後を振り返った。

「出て来いっ!」

無我夢中で叫ぶと、声に反応したように暗闇からのっそりと何かがはい出てきた。

「…く…ま?」

パッと見は熊そのもの。

しかし見上げて目に入るそれは明らかに知っているそれとは別物だと理解出来た。

2メートルどころでは無い。

4……いや5メートルはあるだろうか。

超巨大な熊だった。

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

気を緩めれば気絶しそうな程の雄叫び。

一瞬怯んだ瞬間に、その巨大な腕が僕目掛けて振り下ろされる。

「まっ……」

咄嗟に剣でガードできたのが奇跡。

衝撃で剣が折れ、吹き飛ばされてしまったが生き残った。勢いそのまま飛ばされた方向の木に激突し、背中から激しい痛みが全身を伝う。

「に、逃げなきゃ」

しかし止まってはいられない。

痛みに悶えている場合ではない。

飛ばされて距離ができたことを良いように急いで立ち上がり、遠ざかるように逃げる。

とにかく走る。それしか考えてはいなかった。

「はぁ…はぁ…」

不幸中の幸いか、たくさんの木々が邪魔をして巨大な熊はすぐにはおって来れないらしい。

とにかく夢中で走った。

消えない足音。

いや、むしろ近づいてくる。

「やっぱりダメなのか…」

すぐに追っては来れなくとも、あれだけの巨体であれば走る速度は僕の何倍もある。

追いつかれるのは不思議ではない。

ボロボロになった僕は木に絡まった蔦が多くなったエリアで足を止め振り返る。

疲れて近くの気に寄りかかる。

「痛った……」

背中の怪我には木々の硬さは厳しい。

慌てて木を見た時、その下に一本の折れた枝が視界に入った。

無駄な足掻きかもしれない。

けどただでやられる訳にはいかない。

「っぐおぉぉぉぉぉぉぉ」

響く唸り声。

迷っている時間は無い。

僕は向かってくる熊に折れた剣の残骸を投げつけた。

熊は突然迫ってきた残骸を容赦なく手を振りかぶって叩き落とした。

「そこだっ」

一度きりのその隙。

見逃してたまるか。

僕は落ちていた枝を拾い上げると、叩き落とした反動で動きが鈍った熊の顔面に飛び乗ると、持っている枝を思い切り眼球に差し込んだ。

「ぐっあぁぁっ」

それは熊にとっても激痛であったよう。

ものすごい勢いで顔を振り回し俺はたまらず吹き飛ぶ。

「こ、これで……なんとか…」

まだ立てる。

よろめく足を踏ん張り、その場から逃げる。

しばらく悶えていた熊は、怒り狂って僕を再び追い始めた。

「光がっ!」

よろよろと走っていたその時、正面の木々の隙間から一際明るい光が差し込んでいた。

森を抜けたのだ。

背後から迫る熊を気にせずにその光に飛び込んだ。

ガサッ

そこは見慣れない景色。

舗装されていない通路。

明らかに森とは違う、人が通っているような道。

「太陽だ…」

その明るさに目を細める。ここで倒れていれば見つけてもらえるかも。

そんな期待は地面を響く大きな足音によって絶望に変わる。

「ダメ……だったかぁ」

なけなしの剣と枝を使ってここまでこれた。

今は何も無い。

終わりか……僕はもう精一杯足掻いた。

「ぐぉぉぉぉぉぉぉおおおっっっ」

木々をなぎ倒して熊が飛び出す。

「僕の命でお前は最後だ。お前なんて討伐されてしまえ!」

最後の強がりで転がっていた石を投げつけた。

熊が手を上げる。

ダメだ。諦めがついた僕は目を閉じる。

(どうしてこんなことに……)

死を覚悟した僕。その瞬間、キンっと言う金属の甲高い音と強い衝撃波、そしてほのかな甘い匂い。

「何がっ?!」

閉じていた目を開けた。

そこには。

「あなた、森を抜けてきたの?一人で?!」

熊の一撃を軽々しく受け止め、こちらに声をかける余裕まであるらしい、一人の赤髪の少女。

「へぇ……あの熊相手に逃げ切ったんだ…よっと!」

いとも簡単に弾き返し、体に似つかない大きな大剣を肩に担いで振り返った。

「根性あるのね!あなた」

綺麗な瞳。

「あっ……」

感想も分析も、今の僕ができるはずがない。

助かったという安心が身体の疲労を一気に押し出し僕はそこで気絶してしまった。

でも、助かったのだ。

眠ってしまった僕は、その事だけが頭の中で理解していた。



溺れる者はわらをも掴む : 非常に困難な状況に陥ったときは、藁のような頼りになりそうもないものまで頼りにしてしまうものだ。

ずっと休みで家にいると、曜日感覚がおかしくなってきますね。

日にちは覚えていたのですが、今日が祝日である事に朝妹が家にいるのを見て初めて知りました笑。


どうも、曜日感覚は捨てました、深夜翔です。

一日の初めにカレンダーでも確認してみましょうかね……。

なんの意味もないですけど。


ではまた明日……さらば!

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