燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らん
この時代にお金持ちも何も無いと言うが、そんな事は無いと思っている。貧乏な人が減ってきているだけで、金持ちが居なくなった訳では無い。
私は成績普通、学校も普通、家族から親の給料まで全てが普通のザ・ノーマル人間。まぁ学校に関しては中学だしほとんど強制のようなものだけれど。
そんな私の学校に、最近転校生がやってきた。
財閥の令嬢で、超お金持ちの娘。見た目も気品がありすぎるくらいで、太陽が出てなくても眩しい。
しかも勉強も運動もできると来た。
なんでも親の仕事の都合で1年だけこの学校にいるらしく、神は何を思ったか私のクラスの隣の席に彼女を降臨させたのだ。いくら普通の私でも、彼女が隣にいるととてもダメな人間に見えてくるから不思議。
「おはようございます、奏さん」
「おはよう、いつも早いね」
縁とは不思議なもので、たまたま朝早い私の席の隣で、彼女も朝が早く2人きりで教室にいることが多いため、よく話をするようになっていた。別にコミュ障では無いから、話しかけてきた彼女を拒む理由も無かったし。
「宿題終わってませんの?」
「そうなんだよね…ここ難しくてさ」
「ここでしたら、この公式を使って……」
なんともありがたい事に、天才がそばに居る恩恵は大きい。もしかしなくとも先生よりも分かりやすい。
お金持ちでありながら努力を忘れず、親しみやすい。相手を気遣う姿勢もあり、ここまで完璧な人間はそう居ないだろう。
私は仲良くできて嬉しいが、残念ながら人間とはくだらない生き物で、その完璧さをよく思わない生徒も少なからずいる。直接何かを言ったりはしていないが、一人の時に陰口を聞いた事は一度ではない。
「本当にありがとう。いつも助かるよ」
「いえ、転校してきたこんな私に仲良くしてくださるのですから、当然の事です」
どうも、親の都合上同じ学校に何年もいることはできず、せっかくできた友達もすぐにお別れしてしまうらしい。何よりお金持ちの令嬢と言う肩書きだけで、近寄り難い空気を出しているのか、話しかけてくれる人も多くないとか。
私は転校してきた初日、放課後図書室に行く途中で、廊下をウロウロしていた彼女を見つけ、学内を案内したキッカケもあったのが原因ではある。
個人的にはあそこで話しかけられたことを嬉しく思った。
「そんな改められてもね、どちらかといえば助けて貰ってばかりだけど」
ちなみに敬語じゃないのは彼女の希望だ。
転校日の次の日からタメ口で話していた私にクラス中がひっそりと驚いていたのは秘密だ。
「まぁもしも助けになれる事があったら言ってよ。絶対に協力するって誓っとく」
「嬉しいです。奏と友達になれて良かったです」
「真面目に言われると照れるんだけど」
にっこりと笑う顔からは直視できない輝きが溢れている(ように見える)。
ここだけ見ていればただの天才美少女なんだけど。
普段関わっていると、彼女が令嬢であることを忘れてしまうほどだ。
けれど、一度、本当に大物人なのだと確信した事がある。
先に言ったけど、陰口を聞いたことがある。
内容は……あんまり思い出したくないけど、一度本人と一緒にいた時に出会ってしまったことが。
その時だね。
傷ついたんじゃないかって心配して、
「大丈夫……?私から先生に言ってもいいけど」
って言った。そしたらさ、彼女すごい大人びた顔で返事をした。
「いいわよ、多分、あの意見も別の面から見たら事実だもの。全員に好かれようなんて無理な話よ。けれどこれが私自身。変えようとは思わない。だから気にしてないわ」
素直にかっこいいと思った。そしてやっぱり私や陰口を言っていた彼女らとは次元が違うと思った。
その言葉には、私たちでは分からない強い意志あるのだと、身をもって感じた。
ならば、私もそこは普通人の私クオリティで行こうって思った。
「そっかー。でも私は好きだよ」
彼女には負けるけど、全力の笑顔でそう言った。
「…!えへへ…なんだか嬉しいです」
次元が違うと思ったばかりだったけど、その時よ笑顔は心の底から出た本心のような気がした。
燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らん : 燕や雀のような小鳥に、菱食や鵠のような大きな鳥のことが分かろうか。つまり、小人物には、大人物の大志を悟ることなどできはしないということ。
どうも、最近読んでくれている方が増えてきて嬉しい、深夜翔です。
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