麻の中の蓬
これはとある異世界での話。
ここは、魔王軍VS帝国と勇者の戦いが日々続いている、異世界転生したらこんな世界に飛ばされるであろうテンプレな世界。
しかし、そこに魔王では無い別の敵が現れた。
「お、おい……なんだあれ……人が消えていっている」
「魔王様!突如暗闇が現れ、1部隊が消滅しました!」
何もかもを消滅させる暗闇。
魔王軍、帝国、どちらにも甚大な被害を出してそれは無慈悲に全てを飲み込んでいった。
帝国では、世界中の人脈を使いすぐさま情報の収集に入った。多数の専門家の知識を使い、あっという間に発生源を特定した。
「勇者とその仲間達よ、この事態に一刻も早く対処せねばならぬ。発生源はこの森の奥のようじゃ。何とかして原因を突き止めに言っておくれ」
魔王軍では、高い魔力を持つものを総動員し、暗闇を破壊できる魔道具、発生源を突き止める魔法を開発した。
「魔王様……申し訳ありません。制作した魔法なのですがあまりの魔力消費に、どうやら世界中で貴方様以外に使用出来る者がいないようです」
「ならば、我が直々に出向いてやろう」
こうして戦争を行っていた両者が1つの場所へと集結する事になった。
「お前は魔王!こんな所になんのようだ!まさか……この暗闇は魔王軍の仕業か!」
「………勇者か。そうであれば良かったのだがな。残念ながらこちらも甚大な被害が出ている」
戦争を続けるにしろ、辞めるにせよ、この問題を片付けるにはどちらの力も必要不可欠だった。
短い話し合いの末、ひとまずは休戦と言うことになったのだ。全員がそれに納得……はしなかった。
唯一、勇者ひとりが最後まで反発した。
「おかしい!ここで魔王を倒し、その上で領土を占領した上で、開発者から情報を聞けばいいだろう!」
「……そちらの仲間たちよ。せめてこの事態が収束するまではそこの勇者を監視しておけよ」
しかし、それ以上会話をすることを時間は許してくれないようだ。勇者らの気配を察知したのか、止まっていた暗闇が再び動き出した。
「急ぐぞ!ここで止まっている訳には行かない!」
「勇者さん、ここは我慢しましょう」
仲間の声に何とか気を落ち着けた勇者は、魔王の後に続き森の奥へと入っていった。
しばらくすると、かなり開けた場所に出た。
ドーム型になっているその場所は、周囲の暗闇がやけに濃い。中央には、それらしき真っ黒の木が生えていて、その下にはローブを被った何者かがたっていた。
「おや、随分と早い到着ですね。魔王と勇者が一緒ですか、フフフ」
不気味な声で笑ったローブの男は、手を前に掲げる。すると、暗闇の中から人の形をした影が浮かび上がってきた。
「時間を稼ぎなさい」
「来るぞ!」
あまりの急展開に、勇者達一行は後ろからの攻撃に対処しきれなかった。
「危なっ……」
「"魔王の領域"」
危うく全員が呑まれる寸前、魔王が放った魔法により、これまたドーム型になった防御壁によって防がれた。
「大丈夫か、気をつけろ。周囲全てからこうげきが来るぞ」
「………何故助けた」
当たり前のように勇者を助けた魔王に、勇者は戸惑うように問うた。
「俺はお前の敵だ。そして今は絶好のチャンスだ。なのに何故!」
「何故?愚問だな。ここでどちらかが倒されれば、あいつを倒す事は出来ん。俺が望むのは、平和だ。誰も苦しまない世界を創る。そのためには、お前の力が必要だ、勇者」
「っ……だが!お前たち魔族は人間を殺してきた!結局終わっても戦争だ!なら……」
「なら何だ?ここで同士討ちを初め、残った方がこの世の終わりを見届けるか?有り得んな、同種を見捨てる手段などありえない」
魔王は、そう言うと巨大な黒い木を見つめ、勇者に投げかけた。
「結局戦争……魔族が人種を殺した……確かにそうかもしれぬ。だが、お前たち人間も魔族を殺してきただろう。種族が違う、歴史がある。それだけで…魔族と言うだけで一体どれだけの数を殺してきた!」
そう声をあげると、一息つき、言葉を繋ぐ。
「俺が望むのは平和だ。誰も苦しまない、死なない世界にを創る事だ。それを覚えておけ」
その言葉は勇者だけでなく、仲間たちにも突き刺さった。そして、それに反論出来る者はいなかった。
「話し合いはここまでだ。次が来るぞ」
魔王はそう言うと、1人で敵に突っ込んで行く。
「"死霊覇気"」
すると、周囲に迫っていた影の動きが止まる。
更にはその影をも飲み込む魔力の霧が辺り一面に立ち込める。
(しかし、これ以上は……)
動きを止めはできたが、既にかなりの魔法を使用した。これ以上使うと、最後の切り札が放てなくなる。その一瞬の隙を敵は見逃さなかった。
「やれ!」
その一声が聞こえた時、気が付けば魔王のすぐ後ろに敵の攻撃が迫っている。
(まずい……)
どうしようも無く、防御魔法を使おうとすると、
「輝け!"エクスカリバー"」
敵の攻撃のみを的確に吹き飛ばす光が、魔王の横を通り過ぎて言った。
「よそ見をするな魔王、お前に死なれては困る」
剣を担いだまま、勇者が近くに寄ってきた。
「考えれば簡単な話だ。今の俺たちの敵はあいつ、そして戦争の原因は全ての人間と魔族。人間と魔族が協力したっていいじゃないか、絆があってもいいじゃないか!それを今ここで示して見せよう」
「都合のいい話だな……」
「分かっているさ、だから行動で示す。戦争だって帰ったら俺たちが王に直接話をつける。誰も苦しまない世界、俺達も手伝ってやる」
魔王は、少し口元を緩め、立ち上がる。
「最後はお前の攻撃頼りだ。あの木の根元に、切り札をお見舞いしてやれ」
「了解した、そっちもミスるなよ魔王!」
と、同時に2人は駆け出した。原因の木の根元に。
周囲の暗闇は、勇者の仲間が抑えている。
「行くぞ!"闇死封印"」
魔王の放ったそれは、暗闇に包まれた木に、明かりが灯ったように見えた。
当たった部位から、闇が剥がされていく。
しかし、それも圧倒的な闇がそれを阻止しようと再び動き出す。チャンスは1回。
「俺の……俺たちの全力だ!"絶光斬・閃"」
それは一瞬だった。一筋の光が灯った光に導かれるように気の根元へと吸い込まれ、気が付けば中央の木が音を立てて倒れていた。
「そ、んな……バカな……」
発生源を切り倒した事で、辺りに広がっていた暗闇が剥がれ落ちていく。
「勝った……終わったぞ!」
勇者は、急いで魔王へと歩み寄ると、膝を着いていた魔王に手を貸し、肩へ捕まらせる。
「ここで倒れるな。俺たちのやる事はまだ残っているだろう」
「そう……だな。俺たちの望みのために」
「ああ」
森を抜けた先に待っているのは明るい未来だ。
しかし、それを見据えているのは、この中で2人だけだった。
数百年後、街には魔族と人種とが笑い合い、苦しまない世界があったとか。
元魔族領と元帝国領との境界線には、とある人種と魔族の像が建てられ、平和な世界を見守っていた。
麻の中の蓬 : 麻のように真っ直ぐなものの中に混じって生えれば、蓬も自然に曲がらずに伸びるということ。善良な人と交わっていれば、感化されて、自然に善人になるということの喩え。
「蓬」は曲がったものや捻じれたものを比喩する。
蓬、初め蓮と読んでしまったのは言わないでおこう。
どうも、深夜翔です。
漢字って難しいね……(笑)
ほとんどの人は、これでよもぎも読めるようになったはず。やったね!知識が増えたよ!
……えっ知ってたって?やかましい。
長くなったせいで投稿時間が遅れましてすみません。こんなんでも読んでくれる方がいて、大変嬉しみの極みです。
これからも投稿していきますので、次回も読みに来てくれると嬉しいです。
それではまた明日……さらば!