衣鉢を伝う
(全く……優秀な弟子を持つと苦労するね)
私は目の前に倒れている二人の弟子を見下ろして、苦笑しながら家へと運び込む。
私が住んでいるのはとある田舎の森の奥深く。
木々に囲まれたその影にひっそりと佇むログハウスが私の造った家だ。
家は魔術を使えばあっという間だ。特段苦労はしなかった。何故こんな場所に一人で住んでいるのかは聞かないで欲しい。
それなりの理由があるからね。
「う、うーん……」
ソファに寝かせている二人の弟子。
どうして一人で居たかった私が弟子を持っているのか。
こいつらとの出会いは本当に驚くものだった。
ここに住み始めた当時から、人との遭遇を避ける為に森全体に結界魔術を張り巡らせ、森の奥深くに踏み込ませないようにしていたのだ。
後で弟子たちから知った話によれば、ここは迷いの森と呼ばれているらしい。
この森に住み着いてから一年がすぎた頃。
人が近づくなどありえないと内心気を緩めて居たのは悪かったと思う。
しかし、あれはさすがに驚いた。
いつものように庭で本を読んでいると
「おばさん……誰?魔女?」
真後ろから声が聞こえたのだ。
「うひゃっ?!」
実際に飛び上がる程驚いた。
そして一気に距離を取ると魔術を構築する。
「……子供?」
そこに居たのは二人の子供だったのだ。
白髪で青い目の少年と、黒髪で赤い目の少年。
まず思い至ったのは、近くに二人を連れてきた大人がいるはずだ、ということ。
落ち着いて探索魔術を展開させる。が、反応は無し。
ならば…迷って偶然?
ありえない。
偶然で辿り着けるような作りにはしていない。
1歩間違えば私ですら迷う。
まさか……。
その考えが頭をよぎった時、再び声がする。
「あの魔術だったらもう効かないよ。1歩進む事に東西南北の方角を狂わせて、森の外に出るようにしむけられているだけだもん。1ヶ月もあれば突破できる」
黒髪の少年は真顔でそんな事を言う。
手には少年の腕と同じ長さの枝が握られている。
それをこちらに向け、威圧的な態度で威勢を張っている。
「こんな所に引きこもっているなんて絶対に魔女だな。怪しい実験でもしているんだろう」
「えっ……りょうくん…危ないから近づかない方が」
対して白髪の少年はかなり怯えている。ように見えた。黒髪の少年の後ろに隠れておどけているが、いつでも魔術を発動できるように構えているのだ。
この少年2人はどちらも魔術の才に優れている。
そう思った。
「そうだね、確かにここは君たちが来るような場所では無い。早く帰るがいい」
「……それは出来ない」
正直本当に早く帰って欲しかったのだが、適当に返すと存外真剣な目とぶつかった。
「この森全体にあんな魔術を仕込める実力がある。だからおばさんの弟子にして欲しい」
そして意味の分からないことを言う。
「………は?弟子?」
「なんだよ!悪いか?」
「りょうくん!人にものを頼むたいどじゃないよ」
「わ、分かったって、ギル」
私はぽかんとしていた。
たった子供二人で私の魔術を破って現れたかと思えば弟子?
しかし、なぜだか頭の中で出てきたのは、"面白い"だった。そんな私自身に苦笑する。
「何笑ってんだよ、おばさん」
そんな私を見て警戒する少年2人。
「いいだろう、弟子になる為にわざわざここまで来たのだからな」
「ほ、本当かおばさん!」
「だが、その前にそのおばさんは辞めろ。私はまだ20代だ」
そして紆余曲折を得て、ようやく今に至る。
弟子入りを許してから知ったのだが、2人は村の外からやってきた、いわゆる『他所者』らしい。
田舎の村だ。地域内の繋がりが強い分、他所から移動してきた人達は嫌がられやすい。
このふたりは偶然そんな他所者同士で仲良くなった友達らしい。
毎日のようにやって来ては私の教えを良く吸収して強くなっていった。
1年が経過した頃にはもはや教えられる事はほとんど残っていなかった。
更に悪い噂を耳にする。
"森の奥に魔女がいる"。さすがにこれ以上この場所にはいられなくなった。いつ村人達がここに踏み入れるか分からない。
私は2人に最後の教え、私の教えられる1番の技を話す事にした。
「"三重構築"。キミらが今使える"二重構築"のさらに上の技術だね。私からの最後の教えだ」
「「はい」」
私の事情を何となく察していた2人は悲しげな表情ながらも真剣な目で頷いた。
実際に使い、見て覚えさせる。
猶予は1日しか残されていなかったが、2人は一生懸命覚え、練習し、結果は成功。
そして同時に魔力を使い果たして倒れたのだった。
家の中に運び込んだ私は、魔力補充の薬を飲ませ、再び外に出た。人の気配がする。
村人たちか。
ここで見つかるのはまずい。私一人ならばともかく、2人が見つかれば迫害が進むに違いない。
二人を抱えて飛び出すと、ありったけの魔力を使いログハウスを爆破。逃走用に仕掛けておいた設置型魔法陣"転移"で森の外に移動した。
ちょうど良い木陰に二人を寝かせると、私は黙ってその場を後にした。目を覚ましてしまえば何を言い出すか分からない。
"三重構築"を覚えた2人ならば私は用済みだ。
"変身"で姿を変えた私は、結局何も残さずにその村から姿を消したのだった。
その後の出来事は、残念ながら私には分からない。
どこかで元気にしている事を願っているよ。
衣鉢を伝う : 師から弟子へその奥義を伝える。
今日からまた五十音です。
まだあ行のい段。
果たして最後まで書ききれるのでしょうか……。
気長に見てってくださると嬉しいです。
どうも、今更ながらアホなことをしたものだと思う、深夜翔です。
後悔はしてませんけどね。
ではまた明日……さらば!




