命あっての物種
商人の朝は早い………らしい。多分。
少なくとも俺が護衛依頼を受けた商人は、その部類に入らない。なんせもう昼時だというのに依頼書の場所に現れず、ギルドに行って宿泊場所を尋ね、宿屋の部屋前まで来てみれば、今起きたとか。
「ん、君が護衛依頼を受けた冒険者か……すぐに準備する……から待っていてくれ…」
「そ、そんなことよりもしっかりと服を着てください!!」
パジャマが崩れたままの格好で俺のノックに反応して廊下に出てくる。そもそも女性だなんて聞いてないぞ。勝手に男だと決めつけていた俺も悪いが。
慌てて扉を閉め、ため息をついた。
あれだけ適当そうな人でも商人が務まるのだろうか。何より報酬金はしっかりと 払えるのだろうか。
疑問を頭に並べながら待っていると、数分で再び扉が開いた。
「遅くなったね。出発しよう」
小柄なその女性は、その姿に似合わない大きなリュックを背負って出てきた。重そうな割に慣れているのか重さを感じさせない足取りで進んでいく。
「昼ごはんは食べないのか?」
部屋を出るとすぐに街を出発した彼女は、入口で馬車を借りるとそのまま目的地まで移動し始めたのだ。
「あ…昼ごはん食べてないや」
彼女は思い出したかのようにつぶやく。
それに反応するかのようにお腹が可愛い音を立てる。
「はぁ…これ食べるか?」
俺は持ってきていた弁当を渡す。
俺は冒険者では珍しく自炊ができる。今日は朝早いと思っておにぎりにしてきたが、こんな時間なら普通に弁当でも良かったな。
「いいのか」
「いいよ、俺おにぎりひとつでも割と満足できるから」
「ん、遠慮なくいただく」
ぼけーとしているようだが馬の扱いはかなりの練度のようだ。片手で手綱を握っているのに安定している。
「おいしい」
「そりゃどうも」
淡々としたやり取りをして数時間。
馬車が渓谷に入り道が険しくなる。
こういう危険な場所には良く盗賊が現れる。索敵を怠ると痛い目にあう。ちなみにモンスターも渓谷等に住み着くから、警戒するのは陸だけではダメだ。空、渓谷の底、もちろん崖上。
本来は護衛は1人でするものでは無いのだが、こちとらソロですから。彼女には申し訳ない。
見た感じ気にしていなさそうだけど。
渓谷に入ってさらに数時間。
ようやく渓谷を抜け、長い道のりも残り半分となった。
すると突然馬車を停め、手綱を馬車の中にあった杭にに結びつけた。
「索敵ありがとう。今日はこの辺で休憩しよう」
「まだ半分あるけど…今日中に着かなくていいのか」
「急いでモンスターとか盗賊に襲われるのは嫌だし。この辺は暗くなるのが早いから」
「じゃ、遠慮なく」
彼女は馬車の中にあった毛布を取り出すと、道上に広げて横になる。
まだ寝るのか。
俺は仕方が無いので魔法で火を起こす。
ガサッ。
焚き木用の枝を集めていると、草の隙間から音がする。盗賊かと身を構えると、出てきたのは少し大きめの兎だ。正確にはうさぎ型の魔物。
馬車を荒らされる訳にはいかないし、実は結構美味しい。敵意が無いように振る舞い、スキをついて首元にナイフを突き刺した。
「今日の飯は確保っと」
兎1匹に薪をもって帰ってくると、無防備に寝ている彼女の姿が。良くもまぁ寝ていられるよ。
俺は持ってきた調味料を鍋に入れてスープを作り、狩ってきた兎を捌いて中に入れる。
肉に火が通るまで待機。いい匂いが漂って来た頃、匂いに反応して彼女が目を覚ました。
「飯食べるか?」
「私、何もしてない…」
「いいよ、好きでやった事だし」
「…分かった…ありがとう」
そこそこでかい兎だったから1人では食べきれない。無理やり食器を押し付けて食べさせる。
商人なんてワガママな奴らばかりだと思っていたけど、そうでも無いらしい。
食事を作った時に礼を言われたのは初めてだ。
次の日はさすがに朝早く起きた。
宿でもない場所で昼まで寝られたらどうしようかと思った。
ただ今回の山場は昨日の渓谷だったから、あとは道なりに沿って目的地に行くだけだ。少しはのんびりできるかもな。
だが、その油断がいけなかった。
目的の街まで後少しというところで有り得ないモンスターと鉢合わせてしまった。
『ランペイジタイガー』
Aランクに匹敵する魔物で、普通は冒険者数人で相手をする。決してソロで戦う相手ではなかった。
「くっそ……ついてないな」
1人なら見つけた段階で速攻逃げているが、今回はそうもいかない。
「とりあえず馬車をあっちに止めて……」
「ごァァァァァァガァァァ」
「まずっ」
馬車の指示を出そうとして一瞬目を離した瞬間、凄まじいスピードで馬車に飛びついてきた。
俺は咄嗟に彼女を引っ張ると馬車から飛び降りる。
ぐしゃぁと嫌な音を立てて馬車が押しつぶされたが、かろうじて脱出する事には成功した。
以前問題は解決していないが。
「さて…どーすっかな」
街まで走るには少し距離がある。
だからといって隠れようにもこんな草原の真ん中で鼻のいいあいつから隠れきれる場所があるとも思えない。仕方ないか。
「なぁ、俺があいつの気を逸らす。その間に街まで逃げてくれ」
モンスターと睨み合いながら背後の彼女に向かって言う。チラと背後を見れば、首を横に振る彼女と目が合った。
「…それは出来ない」
「たがこのままでは2人とも死ぬ」
「…倒す算段が…あるって言ったら?」
「………あるのか?」
間を置いて聞き返せば潰された馬車を指さして言った。
「今回運んでいた物の中に火薬の袋があった。それも結構沢山」
「っ!!」
それはつまり、せっかく持ってきた商品を丸ごと爆破していいと言っているのだ。商人が最も大事としている商品を。
「だけどっ!」
反論しようとして存外真剣な眼差しとぶつかり言葉に詰まる。既に彼女の中では決定しているようだ。
「分かった。後は任せろ」
俺は背中にかかっていた剣を引き抜くと、大声で叫ぶ。
「おらっ!お前の相手はこっちだ!」
時計回りに大きく旋回しながらモンスターの気を引く。位置的には馬車の真上にいるから移動されたくない。気を引きながらもこちらから間合いに入る事で動きを阻止するしかない。
「グォアァァ」
ほとんどドラゴンのような咆哮で前足が飛んでくる。剣で防ぐも腕へのダメージは計り知れないが今は痛みを感じている暇はない。
もはやダメージ覚悟で馬車まで近づくと、散らばった袋が沢山見つかった。
「これか……」
激痛が走る腕を必死に動かしてひとつの袋を取り出す。これに着火すれば大丈夫そうだ。幸いモンスターのヘイトはこちらに向いている。
俺は目の前の巨大なモンスターに笑みを浮かべて魔法を使う。
「消えなデカ物」
俺が唯一使える火魔法が手から離れると同時に俺は全力で後方に走る。
「グァァァァァァ」
意識があるうちの最後に聞いたのはその咆哮だ。
その後辺りの音が一瞬で消え、巨大な爆風と爆発音が俺を襲った。中心にいたモンスターは一溜りも無いはずだ。
爆風で数十メートル飛ばされた俺は痛みが限界に達してそのまま意識を失ったのだ。
「だ、大丈夫っ?…起きて!」
誰かが呼ぶ声がする。
朦朧とする意識の中で腕を動かそうとして激痛が走る。
「うがぁっ」
声にならない痛みを抑えながら考える。
確か俺は……モンスターを爆破して…。
そこまで考えて、ふと頭の下に感じる柔らかな感触に疑問をもった。
吹き飛ばされたのなら俺は地面が草の上のはず…。なら一体俺はなんの上に寝ているんだ?
そもそもこの考えが既に体が限界に達している事を入念に表していた。
恐る恐る目を開くと、心配そうにこちらを覗く1人の女性と目が合った。子ども……?
「起きた?!大丈夫?」
「な、なんとか」
違う、依頼主か。あの小柄な商人か。
声に出さなくて良かった。
なんとか、本当になんとか彼女に手伝ってもらい立ち上がると、そこにはとんでもない光景があった。
半径10メートルくらいが真っ黒に焦げ上がっていて、中央にデカすぎるモンスターが丸焦げで倒れていた。
「そっちも無事だったか」
「まぁ…ね。君が助けてくれた、ありがとう」
晴れやかに笑う。
あれ、この人こんなに可愛かったか?
「ただ…商品は全部燃え尽きちゃったな。これじゃ護衛も何も無い、ごめんな」
護衛とは、依頼主と商品を無事に目的地まで運び込む事だ。商品が何一つ残っていないこの状態では依頼失敗だ。
謝ると彼女は全力で首を横に振る。
「違う、君は…私の1番大事な物を守った。お礼はちゃんとする」
「1番……?」
「そう、私自身。それから2人の命」
「そっか……良かった」
最悪な奴だと、商品がダメになった弁償しろとか、お前がいなければこんな目に合わなかったなどと言ってくる輩もいる。
俺は随分良い奴と出会ったらしい。
ぐうたらしている割に真面目で優しい、そんな奴に。こんな商人もいるんだなと感心した。
「それに、商品以上の収穫もあった」
「?」
俺が首を傾げると、綺麗な細い指が正面の黒焦げになった物体を指さす。
「ランペイジタイガーの素材。高く売れる」
「ふっ…ハハハハっ!」
「……なんで笑う」
「いや、しっかりお前も結局商人なんだなってさ」
「嫌味?」
「褒めてるんだよ」
やっぱり良い商人だよ!
命あっての物種 : 何事も命があってこそ成し得るのである。命がなくなればお終いだということ。
「物種」は、ものの元となるもの。
動画見て、アニメ見て、寝る。
結局これが最高の休みだと思うのですよ。
もう一生こんな生活していたいです。無理ですけど。
どうも、怠惰でいたい、深夜翔です。
今回の話、割と満足いく内容になりました。
最近本当に少しずつですが完成度が上がってきているのではと個人的に思っております。
これも読んでくれるみなさんのおかげです。毎日書くモチベーションに繋がっていますので。
これからも是非読みに来ていただけると嬉しいです。
それではまた明日……さらば!




