医者の不養生
季節は春、例年よりも少し早く咲いた桜が舞っている3月下旬。
入社が決まった新人達がやってくる。
俺と同僚の齋藤、矢賀は同じ上司の部署に付き、その上司から新人達の面倒を見てくれと頼まれた。
朝、新人達は緊張と不安が入り交じった顔で会社の扉をくぐる。初めは、時間よりもかなり早く来る。これはどこの新人も同じ、かく言う俺も入社当初は予定よりも20分ほど早く来ていた。
「初めは業務と言うよりも、他人への気遣いを学ぶところからだな。作業が出来ないのは当たり前だが、先輩や上司への気遣いや礼儀は、営業なんかにも影響してくる。頑張って覚えような」
初回は会社での一通りの動き、自分たちの席の確認、その他諸々を教えた。
俺たちは3人交代制で教える事にしたので、1日目の俺はこんな感じかな。
「そんで最後に、困った事があったらなんでも相談してくれ。分からないは、いけない事じゃ無い。もっとダメなのはそのままにして後にミスに繋がることだ。聞くのは1人の迷惑で済むかもしれないが、ミスは大勢の迷惑になるからな」
大事な事は最後に話す。今日は俺からはこんなもんだ。
明日の齋藤に託そう。
そして3日後、もう一度俺の担当が回ってきた。
まだ全員が早く出社してきている。いい心掛けだ。
「んー今日はそろそろ仕事内容も教えておきたいんだけど……昨日、一昨日は何を教えて貰った?」
あいつらがどこまで教えたのかは把握しておきたい。同じ事を教えるのは時間の無駄だ。
「齋藤先輩からは1日のスケジュール管理と、今後どんな事をするかを教えて頂きました」
「なるほど、矢賀からはどうだ?」
矢賀の名前を出した途端、新人達の空気が少し重くなる。次いでに言うならば、こうなる事は予想していた。矢賀はこの会社でかなり厄介な奴だ。
特に仕事に関して、上司には怒られてばかり、ミスは目立つ、口は悪い。
正直新人と大差ないレベルだ。
問題児と言うやつだ。
「そ、その……実は…ほとんど何も教えて貰ってなくて…」
「マジか、んじゃ昨日は何してたんだ?」
「………えっと」
少し言いにくそうだな。
俺は察して耳を近付けると、小声で話すように仕向ける。
「その、矢賀先輩の…雑用というか……書類の整理を頼まれたり、買い物に行かされたり」
「それで…自分は別の仕事があるからと、定時ギリギリまで戻ってこなかったです」
「分からない事があって聞きに行ったら、そんな事も分からないのかと追い返されてしまって……」
昨日、俺は矢賀が廊下の椅子で休んでいるのを目撃している。つまり、まだ何も分からない新人達に仕事を押し付けて休憩していた訳だ。
しかももう少し聞いた所、自分はすぐに聞くなんて甘えは許されなかった、自分達だけで何とかして見せろなどと言っていたらしい。
言っている本人ができていないのにな。
「分かった。素直に教えてくれてありがとな。とりあえず今日は軽く仕事内容について触れていこうか」
新人達には勘繰られないようにして、まずは俺の任務を果たす。
昼の休憩時間になった時に、先輩には俺から伝えておいた。今更だが、先輩も気がついていたらしい。
珍しく怒らない先輩から怒りを感じた。
その日の業務を終えて、新人達を帰した後、自分も帰宅するために片付けをしていたら奥の部屋から怒鳴り声らしき声が聞こえた。
怒られているのはもちろん矢賀だ。
わんちゃんクビまで有り得るか……まぁ自業自得だな。そもそも自分が出来ないことを他人に、まして新人に押し付けるなんて先輩のやる事では無い。
俺は聞かなかった事にして出口へと向かい、そのまま帰宅した。
その後矢賀がどうなったのかは……俺の口からは言わないでおこう。
医者の不養生 : 患者に摂生を薦める立場の医者が自分では意外に不摂生なことをしているという意味で、一般に、他人には立派なことを教えておきながら実行が伴っていないこと。
この時期は布団に入ると一生出られなくなる呪いが蔓延していると思います。モゾモゾ…
どうも、布団は最強、深夜翔です。
朝の布団は、その辺の異世界の魔王よりも強いと思っていますね。思わぬ所で引っ付いて、離れようとしない……湿布か何かですかね?
という事で今日はこの辺で。また明日……さらば!
体調と朝の時間には気をつけて。




