表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伊佐物語  作者: かしも りお
第一章 だれもいない町
9/30

8.海

 翌朝。

 カセットコンロで温めたミネストローネを飲み下しながら、地図を広げて、段取りを考える。

 車のナビは、数ヶ月前から現在位置がデタラメで、地図としてしか使えない。

(高速、通れるかな?)

 とりあえず、テーマパークまでは前にも行ったことがあるから、なんとかなるだろう。近くまで行けばこれでもかと案内板があったはず。まぁ、わからなくなったら止まって地図を確認すればいい。渋滞を引き起こす心配はない。

(うん。じゃあ、行こう)

 テーマパークまでは順調だった。

 開きっ放しのインター入り口を通り抜け、誰も走ってない高速を快適に走りぬけ、案内通りに走って、午前中にはネズミーランドの駐車場前に着いていた。

 駐車場の入り口のひとつが開いている。だれかが無理やり開けたようだ。ファンが最後にと、ここまで来たのかもしれない。

 中には入らず、車を動かしてナビを北に合わせてから、大きい地図を取り出して、明りの方向を道路地図やナビの地図と見比べる。

(えーと)

 駐車場からは周りがよく見えそうだ。もしこのあたりで光るのならここで夜を待つのも良いかもしれない。でも、もっと先で光っているんだったら海際まで行かないと確認できないだろう。海に光が見えなければここに戻ってくればいい。そのときは高いビルにでも登ったほうが良いかもしれない。

(お姫様のお城って登れるのかな?)


 テーマパークの周りの海沿いの道を走る。途中で車を降りて堤防まで歩いてみた。海だ。潮の香りがして、陽光に波がキラキラと光っている。

 テトラポットの間際まで行って水の中を覗いてみる。

(あれ?)

 小魚がいる。

(魚は生きてるの?)

 驚いて、ほっとして、涙がにじんできた。

(みんな死んじゃったんじゃないんだ……)

 何万年だか何億年だかすれば、また、地上にも命があふれるかもしれない。なんだか希望が見えた気がした。

「がんばってね。」

 思わず小魚に声をかける。


 顔を上げ、目的を思い出して遠くに目を凝らすと、なんだか塔のようなものが2本見える。

(あれが光ってたのかな?)

 とりあえずその辺りを目指してみることにする。

 車で地図を見直すと隣の埋立地に「クリーンセンター」があるらしい。

(ゴミ処理場か……)

 それなら煙突があっても不思議じゃない。

(匂いがすると嫌だな。仕方ないけど。)


 クリーンセンターの入口を超えると堤防で行き止まりになった。大きな鉄塔が立っている。

 2本見えた塔の内、1本は処理場の煙突。もう一本は、これだったみたいだ。

 見上げると、パラボラアンテナがいくつも付いている。電波塔の類だろう。

 コンクリートの建物が土台になっているが、鉄塔には階段も見えるので、建物に入れれば登れるかも知れないと思って、近寄って周囲を歩いてみたが、もちろん、周りの柵の入り口には南京錠がしっかり掛かっていた。

(残念)

 道具もないので壊すわけにもいかない。それ以前に器物は損壊してはいけない。

(よね?)

 歩いて海に向かう。歩道の様に整備されていて東屋まで作られていた。そういえばゴミの臭いはまったくしない。上手に処理されていたんだろう。

 東屋の向こうの堤防は腰くらいの高さしかなく、その向こう側に青い海が遠くまで広がっている。堤防の下に、海まで20メートル程の奥行きのコンクリートの床が左にずっと続いているが、地面より何メートルか低くて降りられない。がんばれば飛び降りられないほどではないが、戻ってくるのが難しそうだ。見渡すと手作りっぽい梯子が掛かっていた。

(用事がある人がいたのね。)

 実はそこは有名な釣りスポットで、きっと釣り人のだれかが勝手に作ったものだったのだが、それは奈美の知るところではない。ありがたく使わせてもらって、堤防を降りて海際まで行く。ちゃぷちゃぷとテトラポットに波があたる音がし、ここにも小魚が泳いていた。

(うん、これなら、光ればなんか見えるんじゃないかな?)

 しかし、海の向こうはぼやけた水平線が広がるばかりで、光りそうな何かがありそうな気配はない。地図で見ると、正面からやや左手には新都心のビル群や工場などもあるはずなのだけれど。

(暗くなれば、どうだかわかるよね)

 日が暮れるまで、まだしばらくある。ちょっと遅めの昼食を取ることにして車に戻った。


 スマホのアラームが鳴って目が覚めた。

 昼食の後、車の中でビデオを見ていて眠ってしまったらしい。ビデオを見ると眠ってしまうように条件付けされてしまっている気がしなくもない。念のためにスマホでアラームをセットしておいてよかった。これがなければ、朝まで眠ってしまったかもしれない。何もせず朝を迎えてしまってはここに来た意味がない。1日無駄にしてしまうところだった。

 スマホは、何かの役に立つかも、と持って来たものだ。とっくに電池が切れていたそれを、運転しながら車で久しぶりに充電した。アニメ映画キャラの壁紙が懐かしかった。


 外はもう真っ暗である。

 助手席に置いたリュックサックからヘッドライトを取り出して頭にセットし、ちゃんと明かりがつくことを確認して車を降りる。

 今は月明かりもなく、風の音とかすかにちゃぷちゃぷと海の音がだけが聴こえる。昼間もきっと聴こえてたのだろうれけど暗いと際立って聞こえる。

 ヘッドライトをつけて、梯子のあったあたりを目指して歩く。低い堤防に近づいてふと顔を上げると、

「あっ!」

 海に向かって左側にぼぉっと赤い光が点滅していた。マンションで見たのより幾分はっきり見える。

 あわてて梯子を降りて、海の間際まで歩いていく。真っ暗な中にそれだけがぽつんと明滅している。

(まだ向こうだったかぁ。)

 そこにはだれかがいるのだろうか?

 奈美は、暗い海の音とゆるい風の吹く中、しばらくそれを見つめた。

(どの辺なんだろう。)

 と思って気が付いた。

(あ、地図。)

 車に戻って、地図を取ってくる。

 大きな地図にはこの先ほとんど載っていないので、頼りは道路地図だ。

 使いにくいが仕方がない。

 丁度、今いる辺りから明かりの方向が見開きになっていた。ページの端に、大きな地図から剥がしたコンパスを貼り付け、北を合わせる。

 風でページがめくれるのを抑えながらコンクリートの地面に寝転がって片目を閉じて光の方向をにらむ。定規をなんとかその方向に合わせて押さえつけ、がんばって線を引く。

(うーん。)

 港の辺りか、その向こうの市内のどこかか、港の周りには工場もあるようだから、そのどこかか……

(近くに行ってみるしかないかなぁ……)


旅のはじまり。


※★、ブクマ、ご感想など、絶賛募集中です。

 「悪くねぇな」と思ったら★を、「次も読んでやっか」と思ったらブックマークを「ここ良いじゃん」とか「なんだよこれ」と思ったら感想を、是非ともお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは。 ツイッターのほうから作品を知り、ひとまずここまで読ませて頂きました。 日常が消えてしまった世界で、それでもできる限りの日常を送る主人公たちの姿が丁寧に描かれていて、落ち着いた…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ