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伊佐物語  作者: かしも りお
第一章 だれもいない町
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2.無線室(シャック)


 見慣れた住宅街を歩く。少し汗ばんでくる。

(あとでまたシャワーあびるかな)

 やがて前に目をつけていた1軒の家の前で立ち止まった。

 普通の住宅にはそぐわない色々な形のアンテナが、屋根の上と、専用のタワーの上にならんでいる。アマチュア無線用だ。


 高校時代の友人の父親がその筋の人で、無線機も何だか格好よく見えて、よく遊びに行き、挙げ句、その友人と二人で免許を取ってしまった。友人の父は大層喜んでくれて、仲間と一緒に尚樹の家に押しかけてアンテナと無線機を据え付けてくれた。「免許」なるものをもらったのはもちろん生まれて初めてで嬉しかったし、携帯電話の普及で誰もいなくなった田舎の電波空間は居心地が良かったから、毎日のように夜中まで友人とバカ話をした。たまにふざけ過ぎて先輩(OMさん)に怒られたりしたけれど。


 この家を訪ねた理由はもちろん無線機だ。

 友人と遊んでた時の機材は友人の父親に借りたもので、就職で都会(まち)に出るときにお返しした。 持って行け、と言われたが、遊んでいた周波数帯(バンド)では、田舎に残る友人宅に電波が届く距離ではなかったし、遠くまで届く周波数帯(バンド)で全国におふざけを公開する気もなかった。というか、そもそも都会のアパートで大きなアンテナを上げるのは難しい。


 そのアンテナタワーを横目に玄関の前に立ってチャイムを押す。予想通り音は鳴らない。

 ノックをして声を掛ける。

「ごめんくださーい」

 数度声を掛けるが(いら)えはない。これも予想通り。尚樹は、そう予想はしていても礼儀を欠いてはいけないと思っている。

 応えがないのでノブに手を掛ける。鍵はかかっていない。これは予想外だった。

 そっと中を覗くと、玄関の先に2階への階段があり、その脇の柱に紙が貼りつけてあった。

「おじゃましまーす」

 声を掛けて三和土に踏み込み、紙に書いてある文字を読んだ。

<無線機は2階だ。遠慮なく上がれ。>

(よくご存知で…)

 家の主は、誰かがそれを目当てに訪ねてくることを予想していたらしい。玄関を施錠しなかったのもそのせいだろう。

 続きがある。

<可能ならば、他の部屋には立ち入らず、また他のものには手を触れないでおいて頂けるとありがたい>

(おっしゃるとおりに)

 尚樹は苦笑しつつそう思う。

 遠慮なく、ということなので、靴を抜いで、あがり口に丁寧に並べてあったスリッパを拝借して階段を登る。


 2階に上がると、廊下に面した扉が3つあり、ひとつにまた貼り紙があった。

<無線機はこの中だ>

 扉を開けると、そこは見事な無線室(シャック)だった。

 壁に向かった大きな机の前に棚があり、そこには無線機が所狭しと並んでいる。圧巻だ。

 近づくと机の上にノートが置いてあり、表に<これを読め>と書いてあった。

 ノートをとり、ぱらぱらとページをめくってみる。無線機を使うにあたっての注意事項が書いてあるようだ。恐れ入る。

 最初のページには、大きく<車庫に発電機がある。まずそれを回せ>とあった。

 1階から外に出て、車庫を開ける。車はなく、真ん中にポツンと小さな発電機が置いてある。

 ここにも貼り紙があって、<燃料は空だ。ガソリンが棚に置いてある。>

 壁沿いの棚を見ると、携行缶が3つあった。持ってみるとみなほぼ満タンの様だ。

 確認だけして、そのまま持ってきたノートを読む。


 発電機を回して家の分電盤のブレーカを入れれば、無線室の電源は確保されるようだ。無線機は調整済みであり、電源を入れればそのまま使えるはずとのこと。加えて、どの周波数帯にどの無線機をどう使うか、アンテナタワーの回転機(ローテーター)の使い方など、細かいことがきちんと書いてあった。

「よし」

 ひとりごちて再び無線室にもどり、ノートと機器を見比べつつ、これからの計画をたてていく。


 しばらくして、無線室にあった新品のノートと鉛筆を借用して書いた計画を眺めてうなづく。

「こんなもんか」

 まだ陽は高い。さっそくとりかかることにした。


 車庫の発電機ガソリンを入れて始動する。玄関でブレーカを入れてから、無線室で中波の無線機の電源を入れる。懐かしの周波数を見ながら、ダイアルをグルグル回してみるが、だれかがしゃべっ(ラグチューし)ている気配はなく、ノイズしか聴こえない。予想はしていたものの少し寂しい。

 気を取り直して、ダイヤルを適当な周波数に合わせると、マイクの前にカチコチと律儀に時を刻む時計を置き、マイクのスイッチを入れたままにしておく。そして手のひらサイズの小さな無線機を持って部屋の外に出て電源を入れる。周波数を合わせると、無事にカチコチ音が聴こえた。

「おおっ、OKOK」

 尚樹はひとまず満足した。

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