表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伊佐物語  作者: かしも りお
第一章 だれもいない町
28/30

27.田んぼ2

 暗くて広いおもちゃ屋は、なかなかに不気味だった。

 ホームセンターにしろスーパーや農協にしろ、それなりに明かりが入ってきていて、程度の差はあれど、薄暗い程度に留まっていたが、巨大ショッピングモールの中にある全国チェーンの大きなおもちゃ屋は、外光の入る隙がなく、しかもやたら広い。

 店内の案内看板も見えないのでヘッドライトと懐中電灯で棚をひとつひとつ見ていかざるを得ないのは、なかなかの神経戦だ。何も出ないのはわかっているが、つい、びくびくしてしまう。

 やっと自転車やら三輪車やらのコーナーに辿り着くと、めぼしいのを数台抱えてさっさと店を出た。店を出ると天井の明かり取りから光が差し込んでいて、通りの真ん中を歩くくらいならライトに世話にならずに済む。

「ゲームとかもうちょっと持って帰りたかったけど、そういう雰囲気じゃなかったね。」

 芽がまだ出ないので着いてきていた奈美は、そうはいうものの、通りがかりに見つけたオセロとトランプをしっかりゲットしていた。電池の要らないおもちゃは貴重だ。それに、さっき化粧品店で日焼け止めを調達していたので、少しは慣れてきたみたいだ。

 持ち出した三輪車の中から、良さげなのを2台選んで持って帰ることにする。


 戻ってから二人で田んぼを耕す。おっかなびっくりだった奈美も、しばらくするといい感じでトラクターを動かすようになってきた。途中でガソリンを調達したりしながらなんとか耕し終えた。

「あれ、(くわ)とかでやってたら相当かかるね。」

「だろうな。昔の人はえらいよなぁ。」


 もちろん、その夜は、オセロとトランプでそこそこ盛り上がった。


 翌日は、ちょっと気が引けたが、学校にあったトンボで田んぼを(なら)すのを奈美にお願いした。籾はいい感じに膨らんできているが、芽が出るまでもう少しな感じらしく、それに甘えて、ホームセンターで三輪車を加工することにする。

 三輪車に取り付けるべく、溝を掘るに使えるものはないかと農機具コーナーを探検していると、「手押し種まき機」なるものを見つけてしまった。箱の中にあった取説を眺めると、まさに作ろうとしていたもの、いやそれより格段に進化したものだった。溝を掘り、いい間隔で種を蒔き、土をかぶせてくれる。ベルトを交換すれば、種の大小や間隔も調整できる。もちろん手押しだから動力は要らない。なんだよこれ、完璧じゃん。

 三輪車はそこへ放り出したままにして、そのスーパーマシンを車に積んで飛んで帰った。

「なにこれ、すごいねぇ……」

「あやうく無駄なものを作っちゃうとこだったよ。」

「三輪車は取りに行っちゃったけどね。」

「まぁ、これであそこも入れるようになったから。」

「日焼け止めとオセロもゲットしたしね。」


 早速、塩水選で取り除いた籾でテストをすることにする。ベルトを調節して、田んぼの均し終わった場所で何度か動かしてみた。。

「悪くない。」

「全然いいじゃん。」

 これなら種まきは1日あれば充分終わりそうだ。

「あとは、水平か……。」

「墨出器はあとで取りに行くから、とりあえず均しちゃうよ。ちょっとゆっくりしてな。」

「うん、ありがと。洗濯が溜まってるからやっつけてくる。」


 とりあえず均し終わって、会社から墨出(すみだし)器を持ってくる。

 田んぼの隅に置いてスイッチを入れてみるが、持ってきた板切れには何もうつらない。持ってくるときに会社で確認したから、壊れてるってことはないはず。

(まてよ? あ、外じゃ見えねぇんだった。)

 滅多に外で使わないから忘れてた。受光器を使う。ちゃんと反応する。しかし、端までは距離がありすぎて無理そう。中央付近に置けば距離はなんとかなりそうだ。が、この、光が見えないままで全体を均すのはどう考えても無理だ。測量して水糸を張らないと駄目か? 面倒で泣きそう。杭打って板を張って、墨出器で墨出し……できるかな?

 このあたりが所詮(しょせん)電気屋の限界だなぁ。土木屋たち、いったいどうやってたんだろう?

 試行錯誤するうちに夕方になったので一旦引き上げる。


 晩飯を食いながら奈美に愚痴ると、あっさり言われた。

「図書館行ってみれば?」

 あ。盲点だ。現場のことは大体知ってると思い込んでた。思い込みは敵。

 うむ、素直に先人の知恵を借りよう。


 翌朝、奈美が籾の芽がいい感じに出たと言う。

「乾かさないといけないんだけど。」

「雲行きが怪しいね。」

「体育館にでも広げてみる? 」

「教室のが風通し良くないかな? 」

 教室の窓を開け放してみると、いい感じに風が通る。

 椅子と机を端に寄せて、ブルーシートを敷いてばら撒いてみたのだが。

「水溜りみたいだな。」

 とても乾きそうもない。

「どうしよう?」

 布を張っても(たる)みができて固まってしまいそうだし、板の上でも水溜りができるだけのような気がする。どうしようかとあたりを見回し、あ、っと気がついた。

「網戸は?」

「あ、それいけるかも。」

 校舎の網戸をじゃんじゃん外して、教室の机で支えて籾を撒く。水滴は下に落ちるし、空気も程よく通りそうだ。

「いいじゃん。」

 教室を3つ使ってようやく干し終える。

「はぁ、疲れた。」

「ねぇ、扇風機あると早く乾かないかな?」

 それはいい考え。でも電気は……、公民館から電工ドラムで引っ張れるかな?

 公民館にあった、ちょっと大きめの扇風機3台を教室に運び込み、電光ドラム5台(公民館から校舎まで2台。校舎から教室3つに分けるのに3台)を駆使した。もちろん手元にあるものでは足りなくて会社から持ってきた。そのうちケーブルでつないでしまおう。てゆうか、いっそ、屋上に太陽電池つけちゃうか。

 雲行きが怪しいので、中間のドラムにはブルーシートをかけておく。


 籾が乾くまで1日はかかると言うので、昼飯のあと図書館に向かう。

 「水盛り」という手があるらしい。なるほど、これなら水平が取れる。

 ホームセンターに行く。30mのホースリール2台,ジョイント,透明なホース10mくらい,三方分岐,バルブ,1m弱の杭を30本,大きめの木槌、水糸(迷って蛍光ピンクのにする)、ポリタンク2個。

(こんなもんか?)

 公民館に戻る。

「おかえりー。寝ちゃってたよ。」

 庭でなにやらはじめた尚樹に奈美が声を掛ける。お疲れの奈美は和室でゴロゴロしていたらしい。

「おう、いろいろ買って来た。」

 いや金は払ってないけど。

「なんとかなりそう?」

「うん、多分。」

「おお、さすが。」

 昨日の愚痴などどこへやら。


 庭の水撒き用の蛇口の脇で作業を始める。ホースリールの両端を切り落としてバルブと透明なホースを1mくらい間に挟む。蛇口につないで水を出し、シャワーヘッドからしばらく水を出して気泡を抜き、バルブを閉める。これを2台。

(重っ)

 水を満タンにしたホースリールは結構重かった。10kgくらい?

 バケツと水で満タンにしたポリタンク、ホースリールを車に積んで田んぼへ向かう。

 バケツを田んぼの真ん中からちょっとずれたあたりに置いて、ポリタンクから水を入れ、縁に杭を渡して紐で縛る。

 田んぼの隅に杭を打ち込む。

(端から500[mm]も空ければいいかな?)

 続いて、四隅とその中間、それから真ん中にも杭を打つ。

 真ん中の杭にホースリールのシャワーヘッド側の端の透明部分を縛る。ちょっと高めの位置に。ホースリールをバケツまで持って行って蛇口につなぐ側の端をバケツに漬ける。上を向けて空気を抜き、端を水に着けたままそっと持ち上げて縁に渡した杭に縛ってバルブを開ける。真ん中の杭まで戻り、ホースの端を持ち上げて、バルブを開ける。透明ホースの中の水面が動いて、バケツの水面と同じになる。

(よし、いけそうだ)

 杭に水面の位置で印を付け、念のためバルブを閉めた上で杭から外し、田んぼの隅の杭まで引きずっていく。そして水面の位置で印を付ける。隣の杭で同じことをする。これを繰り返すこと都合9回。最後に、もう一回、真ん中の杭で印と水面がずれてないかを確認する。まぁ、そんなにずれてない。上出来だ。

 田んぼの表面は、足跡とホースの跡で酷いことになったが、まあ、これから均すんだし、勘弁してもらおう。

 ホースリールやらの道具を回収し、バケツの水を田んぼに空けてこれも車に積むと、杭につけた印の高さで杭同士を水糸で結ぶ。田んぼの中に、田の字に×を書いたようなピンクの糸が張られた。

 結局この日はここまででタイムアウト。


 翌日はついに小雨が降ってきた。

 籾が乾いたので、二人で袋につめる。

 それから合羽を着て、もう2枚の田んぼに水糸を張る。雨でバケツの水面が変わると水平じゃなくなるので、ブルーシートをかぶせるが、他は昨日と同じ事を繰り返す。慣れたのと、奈美も手伝ってくれたのとで午前中に片付いた。

 シャワーで温まってから、二人で和室でビデオをみながらゴロゴロする。久しぶりの休みという感じだ。

「ちゃんと育つかな?」

「どうだろうねぇ、そうあって欲しいけど。」

 籾が見つかってから、ほぼ一週間。結構働いた。せめて何かしら収穫できてくれないとちょっと、いや、かなり悲しくなりそうだ。

「あと、何しなきゃいけないんだっけ?」

「芽が出て、いい感じに育ったら水を張って、水位に気をつけて、そこそこ伸びたら一回水を抜いて、根が張ったころを見計らって穂が実るまで水位に気をつける。あ、あぜを作らないと。」

「あぜって、田んぼの周りの?」

「そう、冬の間に草とか虫とかモグラとかが穴を開けてるかもしれないから、毎年作り直すらしいよ。」

「作るってどうやって?」

「なんか泥で固めるらしいけど、あぜ板ってのを埋めてもいいみたい。」

「泥で固めるのは大変そうだなぁ。その板を探しに行かねぇ?」

「いいけど、疲れてない?」

「晴れたら種まきだろ? 出来ることはやっとかない?」

「うーん、それより、もうお魚ないけど。」

 やはりたんぱく質は重要だ。

「あ、それもあったか。じゃ、両方。」

 雨は小雨だし、風はない。意外と釣れるかも。

「じゃ、まずはホームセンター」


 あぜ板は、ブルーシートっぽいペラペラのから、厚さ5ミリもありそうな分厚い樹脂のものまで色々あった。シート状のを除いて、成型してあるのはみな波形だ。

「ペラペラのは張りにくそうだなぁ。かといって分厚いのは絶対重いぞ?」

「埋めるのかな?」

「だろうなぁ。 この幅っていうか高さ? ちっちゃいのでも50cmはある。てことは掘らないといけないのか。」

「あぜの高さって30cmくらいだった?」

「そんなもんだろう。」

「てことは20cmくらい掘るの?」

「あれ? それってトラクターで耕した深さか。」

「うん、なんかぴったりな感じ。」

「そういうことなんだろうなぁ……」

「よし、とりあえず、この丸めてあるやつでやってみよう。」

 迷っていても仕方がないので、丈夫そうで運びやすそうなのを選ぶ。折衷案というヤツだ。

 厚さ0.5mmと書いてある。ひと巻き20m。結構かさばる。持った感じは5kgくらいか。えーと、外周全部で360mくらいだから、18本いるのか。ここにはそんなに置いてないぞ?

 とりあえず、ちょっと種類違いで4巻きあったのを持って帰る。足りない分は他で探そう。足りなければ、分厚いのやシートも動員して、最後は泥で固める。やり方なんか知らんけど。

「よし釣りだ。」

「わたしも行く?」

「どっちでもいいよ?」

「帰るのも面倒ねぇ、いいよ、つきあったげる。」

「はいはい、ありがとうございます。」


 結局、この前よりすこし時間がかかったが、同じ魚が2匹釣れた。

 帰って、ちょっと気が早い気もしたが、種まきの前祝を兼ねて、久しぶりに祝杯を挙げた。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ