なかよしきょうだい
夕暮れの街、黄昏時。西の空が妖しい色に染まってゆく。
「すーみーちゃーん! はーやーくー!」
「スーパーポケットマン始まっちゃうよー!」
そうだよね、早く帰らなきゃ。お母さんとお父さんが待ってる。空は端の方から夜の色に塗りつぶされてゆく。こちらを振り返って手まねきする希花と花月の顔も、影が差してよく見えない。少し身震いして、澄花は歩みを早めた。帰ろう、帰ろう、早く帰ろう。夜になってしまう前に。
しばらく行くと、道が二手に分かれている。片方は綺麗に舗装されてはいるが、うねうねと曲がった遠回りの道。もう片方は、真っ直ぐに伸びたやや薄暗い道。後者の方が早く家に辿り着くのだが、三人は迷わず曲がりくねった道を進んだ。
――あの道、なんだか怖い気がする。
いつだったか、希花がぽつりと呟いた。怖いの。なんでかはわからないけど、と。
澄花も何となく、希花と同じ思いでいた。あの道は怖い。できる限り通りたくはない、と。
だから二人はその道を通らない。まだ幼い花月は
「ぼくもこわぁい」
と、わからないままで姉ふたりの後についてゆく。そして刷り込みのように、その道を通らなくなった。
夕焼け小焼け。空にはもうちらりほらり、かすかな星が瞬いている。帰ろう、帰ろう、早く帰ろう。お腹が空いたらかーえろう。
三人は手を繋いだ。帰ろう、帰ろう、歌を歌って家路を急ぐ。いちばん上の澄花を真ん中に、ひとつ下の希花が右側。まだ五歳の花月が左側。仲良く寄り添って歩いてゆく。
そんな、仲の良い三人の姉弟の話。
***
その前の晩は嵐だった。風が、自動車よりもうるさい音を立てて駆け抜ける。木々が揺れ、空が揺れ、澄花たちの家の窓もガタガタと揺れた。花月は怖がって、澄花と希花の足元にまとわりついて離れなかった。
「すみちゃん、きはなちゃん、こわいねぇ」
幼い花月はそう言って、甘えるように澄花に抱きつく。
「大丈夫だよ、かづくん。きっともうすぐ止むからね」
本当は澄花も、ごうごうと唸る風の音が怖かった。まるで、動物園で昔聞いた、獣が発する威嚇の声のようにも聞こえたからだ。けれど、私はもう十一歳なのだ、しっかりしなければ。そう自分に言い聞かせ、澄花は優しく弟をなだめる。
「やだやだ、こわいよぅ。ききたくない」
聞きたくない。花月の言葉が何を対象としたものなのか、澄花にはわからなかった。
「何を?」
すると、希花が後ろから澄花に抱きついてきた。その身体はぶるぶると小さく震えている。怖がる弟妹に挟まれて、澄花はひとり首を傾げた。
「すみちゃんは聞こえないの? ほら、声が聞こえるよ」
希花がそんなことを言ったので、ごうごうと吹きすさぶ風の音に澄花は聞き耳を立てた。けれども、何も聞こえなかった。希花が指さす方向には何があったか、澄花は記憶を辿ってゆく。あっちの方にはたしか、あの道があるのではないか。
澄花が形容できないものにぞわぞわと肌を粟立たせた、その時。
「三人とも、早く寝なさーい!」
母親がそう言って三人を寝室へと追い立てた。澄花はどこかほっとして、希花と花月と手を繋ぐ。寝てしまおう。きっと大丈夫、何でもないよ。朝が来れば、もう何も怖くないよ。
そして、三人はぴったりと身を寄せ合って眠りについた。
三人はまだ気づかない。窓の外から手招きをする、小さな黒い影の群れに。