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第45話 「あーよかった。これはラブコメじゃないから、大丈夫だな」

あらすじ

みかんの日

 携帯のアラームのよって心地よく目覚める。

 特に眠気も感じないし、身体も軽い。軽くストレッチをして、身体をほぐす。とてもいい朝といえるだろう。

 そのまま上機嫌で洗面所へと赴き、ドアを開ける。


「――なっ!」

「あれ? 兄さん?」


 ユニットバス兼用の洗面所には、一糸纏わぬ、生まれたままの姿をした晴香が顔を洗っていた。

 ちょっと、どういう意味か分からない。


「すまん!」


 とっさに洗面所から飛び出る。

 少し前から奇行が増えていたが、こんなタイミングで全裸なのは初めてだ。


「兄さんなら、もっと見てもいいですよ」


 妹がそのまま洗面所から出てくる。

 俺は急いで自分の寝巻きを晴香に被せる。


「ふぅ……朝からそういう事をするのは、不謹慎だぞ。やるなら別の時間帯にしなさい」


 晴香をたしなめると、不承不承ふしょうぶしょうに洗面所へと戻っていった。

 全く、これからはもっと言い聞かせないと駄目だな。




 防衛所に出勤して、居間で時間を潰す。ただ、こたつに入っているだけだが。

 もしかしたら、ここでこうしてくつろぐ事ができなくなるかもしれないと思うと、物悲しくなった。

 今後の判断で、防衛所は解体される。そんな事になって欲しくはないが、世論には逆らえないのだろう。


「おはよー大吾ちゃん。寒くなってきたねー」


 10時手前に、雪絵さんが出社してくる。

 かなり寒くなってきたので、コートを羽織っている。


「コートを預かりますよ」


 室内では必要のないものなので、預かろうと腰を上げると、足が滑った。

 そのまま、雪絵さんの足元へと滑り込んでいく。しかも、何故か、上向きでだ。

 つまり、俺は雪絵さんのスカートを覗いている。


「そぉい!」

「!!」


 雪絵さんが全体重をかけて俺の顔を踏みつけてくる。

 顔が潰れて、脳みそが飛び出るかと思うほどの威力だった。

 さすがは雪絵さん、ヘビーだ。


「何してるの、大吾ちゃん!」

「あ、足が滑ったんです!」

「下手な言い訳!」


 罵声を浴びせられながら、身体を起こす。

 まさか、こんな事になるなんて……大体、スカートの中が暗くてよく見えなかった。

 いや、もしかしたら黒い下着だったから見えなかったという可能性も……。


「変態ー」

「ごめんなさい」


 素直に謝っておく。これは全面的に俺が悪い。反省しなくてはならない。


「何か大きな声が聞こえてきたけど?」


 居間に愛子が入ってくる。

 凍結されているとは言え、ボウエイオーが気になって毎日点検しているらしい。

 もしかしたら、愛子が一番ボウエイオーに思い入れがあるのかもしれない。


「聞いてよ、愛子ちゃんー! 大吾ちゃんがスカートの中を覗いてきたのよー!」

「うわ、大吾最低だな」


 それは、足が滑ってからで、と説得しようとした瞬間、足がもつれて前に倒れそうになってしまう。


「痛っ!」


 何か壁のようなものにぶつかってしまった。

 こんなところに壁なんてなかったはずなのに……。

 顔を上げると、そこには、半笑いの愛子の顔があった。


「どういう意味!? 普通、胸に飛び込んできたらそんな感想にはならないよな! 『痛っ』って、『板』とかけてんのか!」


 いやいや、誤解ですって。

 それは、本当に痛かっただけで、板とは無関係です。本当です許してください。


「ぐ、ぐるじい……」


 結構な身長がある愛子に胸元をつかまれ、持ち上げられる。

 生命維持に必要な空気が足りなくなってきた。


「最低、だなっ!」


 そこからの、ボディーブロー。

 防ぐ手段の無い一撃は容赦がなかった。慈悲はないんですか?


「また、同じようなことをしたら、分かってるよな」

「そうだー、そうだー、最低だー」


 お腹の痛みに身体を九の字にまげているだけで、酷い言われようだった。

 ボディブローが決まったせいなのか、なんだかトイレに行きたくなってきた。


「トイレ!」


 ここは一時退散ということでトイレに逃げることにする。


「あ! 逃げた!」

「許しませんよー」


 罵声を浴びながら、トイレへと駆け込む。

 全く、ついてないと、思いながら個室に入ろうとドアを開ける。

 と、そこには天地博士がいた。

 洋式の便器に座っている天地博士はスカートを下ろしているわけで、もちろん、ショーツまで下ろしているわけで……。


「あ……う……」

「なんでいるんですかー!」


 なんか、博士もギリギリっぽかったけど、俺はそれ以上にヤバイ。

 これ以上、失態をしたら女性陣に殺されてしまう。


「失礼しました!」


 凄い勢いでトイレから飛び出る。

 もしかして、女性のトイレに入ってしまったのかと確認したが、やはり男子トイレだった。

 しかも、今は10時くらいで、博士は出勤していないはず……。

 一体、何が起こっているのだろう。

 少しして、天地博士が男性トイレから出てくる。


「やっぱり、男子トイレじゃー……」


 唐突な無言ドロップキック。

 俺は吹っ飛びながら、意識を失うしかなかった。





 居間のこたつに、女性3人が入っている。

 そして、俺は入ることを許されず、立っていることを強要されていた。


「スカート覗きにー、おっぱい埋めにー、トイレ覗き……最低のオンパレードですねー」

「本当に最低だな! 女の敵だ」

「あ……うう……」


 俺に罪状を言い渡す雪絵さん。語彙力の低い愛子の罵声。恥ずかしさの限界で声も出ない様子の天地博士。

 処断されるために存在してる俺にとってはかなりの苦痛を伴う。

 本当に何が起こっているのだろうか。

 さっきから酷い目にしか遭っていない。


「いい訳させてもらいますが、今日はおかしいですよ。特にあんなに早い時間に天地博士がいて、しかも男性トイレにいるなんて、普通ありえない」


 言い返されるのを覚悟して、こちらの主張を口にする。


「これは、ラッキースケベ症候群だな」


 唐突にイケボが聞こえてくる。

 センセイの声だけが、俺の心を癒してくれる。


「なんですかー? その病名はー……」

「聞いた事がある。ある日突然、ラッキースケベに見舞われるのだ。それも、スケベを起こすならどんなことも起こる奇病だそうだ」


 ラッキースケベ。

 それは、自分の意思とは関係なく、エッチなシチュエーションになれるという全国男子の憧れ。

 だが、俺はそんな素敵シチュエーションに遭ったとは思えない。


「この奇病はラブコメにしか発症しないと聞く」

「あーよかった。これはラブコメじゃないから、大丈夫だな」

「本当によかったですねー」


 そうか。

 俺はそんな病気ではなかったんだ。

 ラブコメなんてものは現実にはありえないから問題ないな。


「じゃあ、お詫びも兼ねて、お茶でも淹れてきますね」

「私も手伝うよー」


 俺と雪絵さんはコンロ程度しかないキッチンへと向かうその途中、手が滑ってそのスカートを下ろしてしまう。

 手が滑るとか意味が分からないが、とにかく起こったのだ。

 なんと、微かな可能性だったはずの事象は、黒色の下着を導き出した。


「「「成敗!」」」


 3人から袋叩きに会い、あっけなく意識を失った。

 どうやら、三途の川に行ってきたらしかったが、一命は取り止めた。。




 今日は本当に災難だった。

 家に帰ればもうこんな不幸は起こらないだろう。


「ただいま」


 元気がのない挨拶を口にして、部屋に入っていく。


「おかえり、兄さん」


 そこには、朝見たのと同じ、生まれたままの姿をした晴香がいた。

 なんて、ことだ。

 ここでもこんな事が起こってしまうとは――


「ほら、晴香。そんな格好じゃ風邪引くぞ。全裸も程々にな」


 着ていたコートを晴香にかけてやる。

 全く、本当に風邪を引いたら駄目だろうに。


「兄さん、大好き」

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