第27話 【システム #コ■ノ$ニ】
あらすじ
刃雷に乗るイワマ
ずんと遠くから地響きのようなものを感じた。それは、戦場から少し離れた街一帯が爆発したためだ。遠くから黒煙が昇るのが見える。
イワマが人質としていた街が全て焼き払われた。
避難ができていない状態での爆発。住民は生きてはいないだろう。
「残念でしたねぇ。でも、これで理解できたのではないですか? あなたは英雄でもなければ、ヒーローでもない、弱いただの1人の人間だということが」
イワマの手段が、卑劣な罠が、逆に冷静にさせた。こいつは目的のためにはなんでもやる奴だと、はっきりとわかった。こいつは倒さなければいけない相手なのだと。
「そうだな。俺は人間だよ弱い人間だ。だけどな、お前を倒す程度その人間で十分だ」
前を見て、現実を直視する。前にあるのは、倒すべき敵がいる。
なら、倒せばいい。やることは今までと変わらない。
「速攻だ!」
ボウエイグレイブを手放す。これは邪魔だ。
「言っていることと、やっている事がぎゃ――」
「フルムーンフラッシュ!!」
ボイスコマンドを入力する。それは、強いエネルギー波と、全機能を最大にするボウエイオーの必殺技の1つ。
計器が軒並み急上昇し、振り切れるといわんばかりに限界に達する。ボウエイビームのエネルギーだけは動かないが、これは想定済みなので、問題はない。
刃雷との距離はボウエイグレイブの先よりやや後方。その距離を全力で詰める。
薙刀を手放したことで油断していたイワマの懐へ簡単に潜り込めた。そして、刃雷を捕獲した。
「何の真似ですッ」
「こうするんだよ! スクリュードリルパンチ!」
左の腕が高速で回転する。指先をそろえたそれはまさにドリル。コックピットにまで回転音が聞こえる程のハイスピード。
「初めて見る武器は対策できないだろ!」
前の戦いで失った左腕を武器として改造した、秘蔵の一撃。
ドリルと化した左腕は刃雷の右腹にめり込んでいく。まるで紙のようにねじ込まれ、簡単に穴が開いていく。素早い奴は装甲が薄いというのはお約束通りだ。
「中々やりますねぇ。こちらが手玉に取られるとは」
「お前の敗因は、人質を使ったことだ。覚えておけ」
『よく言ったわ、大吾! 泣き言を言わなかったのは褒めてあげる!』
スピーカーからやたらに上から目線な声が聞こえてくる。最近、よく聞くようになった天地博士の声だ。
今まで何も発言しなかったのに、どうしてこのタイミングで?
『人質は全て救出し終わった。お前はそのままいけ!』
今度はナイスイケボなセンセイの声まで聞こえてきた。
『何とか間に合った。ギリギリセーフだな』
『兄さん、私も手伝ったのよ!』
愛子の声に、晴香の声まで聞こえてきた。
『あの程度のセンサー、私にかかれば障害にもならない。人質は解放させてもらったわ。つまり、誰も犠牲になっていないって事よ! 行きなさい!!』
気にしていないというのは嘘になるが、人質が無事なのはいいことだ。このまま心置きなくやらせてもらおう。
レバーを押し出し、さらにドリルを刃雷の中へ押し込んでいく。このままなら右腹を抜けて左の背から突き出るだろう。
「いやいや、すっかりやられてしまいましたねぇ。完敗です。また、別の手を考えなくてはいけなくなりました。それでは、これでお暇させていただきますかねぇ」
イワマが言い終わるのと同時に、ディスプレイが真っ白に光り、目を開けていられなくなる。と、次の瞬間、激震の小槌を受け止めた以上の衝撃がコックピットを襲う。
ガガガガという音に激しく上下左右、全方向へ揺れ動く。こちらは気を失わないように気を強く持っていることしかできない。
やがて、揺れが収まる頃には、景色が爆雲へと変わっていた。またも、シートベルトに助けられた。運転する時はシートベルトをお忘れなく。
どうやら、刃雷は自爆したようで、ボウエイオーを中心に巨大なクレーターが出来上がっていた。それも、かなり広範囲だ。
計器を見ると、全てが正常値に戻っていた。さすが、ボウエイオー、なんともない。
『隠していてごめんなさい。言うと気にしちゃうと思ったからー』
雪絵さんのナビゲータが聞こえてくる。
つまり、天地博士たちはこちらが出撃する前に人質の救出に向かっていたのだ。それで、まんまと人質を救って見せたのだ。
きっと、こちらに気を使って言わなかったのだろう。何にも気を使わず刃雷と戦うために。
本当に気を使いすぎなんだよ。
『まあ、私ほどの天才になってしまうと、これぐらい朝飯前だったけどね!』
自衛隊に協力してもらったけど、と天地博士は付け加えていた。
はぁと、息を吐き出した。思った以上に緊張していたようで、ようやく一心地ついた。これで、今回の出撃は終わりだ。刃雷を撃破、人質も救出、文句のつけようがない程の大勝利……
『待って! レーダーに反応! この前に現れたロボット……コードネーム「黒曜」です!』
雪絵さんに言われて初めて気が付いた。50メートル強の巨体がそこにいるのを気付けなかった。
それは確かにいた。黒いボディーに青く光るツインアイ、虹色の光を背負う巨大ロボット。ボウエイオーの左腕を奪った張本人。こちらでは黒曜と呼ばせてもらっている宿敵ともいえる相手だ。
「またお前か。もう二度と顔は見たくなかったけどなぁ!」
そう言いながら、目でボウエイグレイブを探す。あの虹色の光を使われたら、また腕が持っていかれるかもしれない。対抗できる武器が必要だ。
「やっぱり、だんまりか。いいぜ、今度こそ返り討ちにしてやるぜ!」
相手が無言を貫く限り、独り相撲状態だが、相手の気をひきつければそれでいい。
爆風により遠くに飛んだボウエイグレイブへと飛び込み、手に持ち一回転して、切っ先を向けた。
こちらの動きを気にしていないのか、無反応だった。やけに静かでこちらも緊張してしまう。
黒曜がこちらに手を伸ばす。前と同じように虹色の光が伸びて――来ない。
光が途中で途切れ、剣のように黒曜の手に合わせて動く。
前回はあの光を放った後、背後の虹が点滅し、撤退していった。つまり、あの光を発射する事ができないのだ。なら、次はこちらに接近してくる筈だ。
ふいに黒曜が視界から消えた。レーダーですら捕捉できない超スピード。
「左!」
左に向けて薙刀の切っ先を突き出すと、その先には、はやり黒曜がいた。
前回と同じ動きだ。どれだけ素早くても、動きを読めればどうということはない。このまま、黒曜を貫けば――と、刃が切断された。
黒曜が虹色の剣を振るっただけで、ボウエイオーと同じ金属を使った刃が、簡単に切断されてしまった。
つまり、相手の攻撃で装甲が貫けるということだ。
「くそっ! 駄目か」
とっさに後方へ退き、距離を取りつつ黒曜を正面に捉ええる。このボウエイグレイブの柄で相手の接近を阻止しなくてはならない。
リーチの長さを利用して、こちらから打って出る。長期戦を挑めば相手が不具合を起こすかもしれない。だが、しないかもしれない。
なら、攻めつつ不具合を起きるのを期待する。
剣で切られるなら、体を叩けばいい。剣と打ち合うのではなく、剣を避け、本体を狙う。
突きを主体に、隙を見つけ横に薙ぐ。が、剣によって柄はあっさり斬り捨てられる。
こちらが剣を警戒するあまり、積極的に攻められない。それに加えて、黒曜が飛行しているのも相手が有利になってしまっている。
真ん中で切られて役に立たなくなった柄を全力で投げつけてやる。本体には当たらなかったが、背中の虹に当たったが――消えた。
「なんだ……これ?」
虹に触れると同時にボウエイグレイブの柄が溶けるように消えてしまった。
つまり、羽の付属品、もしくは飛行ユニットだと思っていた虹色の光はこちらの想像を超えていた。
何が起こっているかわからない。これはもオカルトめいた何かとしか思えない。
『大吾ちゃん!』
雪絵さんの声にはっと気付く。ボウエイオーの動きが止まっていたことに。
あの虹の刃はヤバイ。装甲もバターのように切断されてしまう。
こちらに飛び込んでくる黒曜に対して何の手立てもない。
『レバーの右下にある取っ手があるわ。それを右に回してから引いて!』
天地博士の声が耳に届く。目の前に迫る黒曜を捉えながら、右手をレバーから離し、その下にあった取っ手を言うとおりに動かす。
すぐに変わった事がわかった。
黒曜を映すディスプレイに激しいノイズが走る。
ビーという警告音が鳴り、コックピット全体が揺れる。
【システム #コ■ノ$ニ】
ディスプレイに赤い文字化けしたメッセージが表示されると共に、各計器が限界を振り切った。
限界を超えた出力にボウエイオーがついていけない。この揺れ、この映像はそのせいなのだろう。
ノイズ越しに見えたのは、虹の剣を掴む黒く染まったボウエイオーの腕。異常な出力の腕は虹の剣を握り潰した。
『なんですかこれ! 計器が滅茶苦茶です! 何が起きているんですか!?』
ナビゲートをする雪絵さんがパニックしてくれたお陰で、少し事態を整理できた。
理由はわからないが、黒曜に一矢報いられる。
黒曜にむけて一歩踏み出すが、あまりの出力に全身が矢のように射出された。その勢いに拳を振るう力を加え、殴りつけ――れば良かったが、こちらが制動できないために、虹の羽を砕くに留まった。
放たれた矢は地面に落ちるのが理であるのと同様に、ボウエイオーも地面に激突してしまう。
『こ、黒曜……ロストしました……』
時間が経過したのか、限界を迎えたのか、限界を超えた出力は収まった。
乱れていたディスプレイは元に戻り、文字化けしたメッセージも消えていた。
ディスプレイから見えるボウエイオーの握りこぶしは元の白に戻っている。
「ボウエイオーには、まだ俺の知らない機能があるってことか」
完全に動かなくなったボウエイオーのコックピットの中で呟いた。
今にして思えば、俺は天地博士から教えてもらった機能しか知らない。
意図的に隠されたシステム、なのかもしれない。なら、何故、そのシステムは搭載されていたのか……




