第17話 「え? だって、お前、おばさんの写真を大切にしてただろ?」
あらすじ
病院の結果は正常でした。
眼下には凍りついた街、日光を浴びて薄い青を帯びている。人間が作り出す汚いモノも凍ってしまえば綺麗なものだ。
凍てついた中心には既に冗談でもなくなった巨大ロボがいやがる。奴がその元凶だろうが、どうやって凍らせているかなんて理解もしたくねぇ。
俺の愛機、滑空でコードネーム『氷牙』の周囲を旋回する。目標は微動だにしていない。完全に舐められているな。
「今回は楽な任務ですね。早く終わらせて、あとで1杯どうですか?」
鈴木はいつも何かのフラグを立てるようなことを言う。
今回の任務。それは、氷牙をけん制してあたりを飛んでいればいい。動かなければそのまま、動いたなら座標を報告するだけという気楽なお仕事だ。前回のようにドンパチする必要はねぇ。
「おい、俺も混ぜろよ」
「岸本、お前は駄目だ。てめぇ、前に何やったか覚えてんだろ!」
激震の件で、俺は『スク宮』呼ばわりだ。一部同好の士からはカリスマ扱いだが、それはかなり不名誉だよ。くそっ! 思い出しただけで腹が立つ。
「えーっと、なんでしたでしょうか……ミサイル、あれが氷牙を、なんか、こう、いい感じにやっつけてくれるんですよね?」
「なんだ、鈴木、しらないのか、15ミサイルだよ。15発くらい来るんじゃないか?」
「巡航ミサイルな。ボケが分かりにくすぎなんだよ」
そう、今回の主役は俺たちじゃない。近海に停泊する艦船から射出される巡航ミサイル。威力のほどは分からないが、激震の耐久力を分析して、破壊せしめる威力らしい。真偽のほどは知らんがな。
とにかく、あいつさえ破壊すりゃ任務は終わり。祝杯といける。
「宮本、そのミサイルが氷牙を破壊してくれるのですよね」
「そのはずだぜ」
「凄い爆発するんじゃないですか?」
「あの巨体を破壊するほどだからなぁ」
「俺たちは大丈夫でしょうか?」
「だ、大丈夫だ鈴木、いくら巡航ミサイルでもそんな威力は――」
全力で離脱していく岸本機が目に入る。
「岸本ぉ! てめぇ!」
「さっき通信が入ったろ。逃げるんだよ、全力でな!」
遠くから白煙が見える。おそらくミサイルから発せられるものだろう。数にして5発、これ1つに激震を破壊できる威力があるのなら、空を飛んでいる俺たちもかなりヤバい。もっと早く通信を入れてくれ。
だが、こいつで氷牙は終わりだ。さっさと離脱を――
その時、氷牙がミサイルに向けて右手をかざす。瞬間、巨大な氷の花が咲いた。
右手から発せられた冷気がミサイルを巻き込んですべてを凍らせた。空を飛ぶこちらから見てもその巨大さが分かる。
氷牙のサイズと比べると何倍もありやがるある。いや、比べるのがおかしいサイズだ。物ではなく空間を氷結させている。
「おい、操縦桿が動かねぇ! まさか、凍りついたのか?」
「このままでは墜落ですよ!」
滑空の姿勢を制御できない。エンジンが完全に凍っているようだな。これはマジでヤバイかもしれん。
「さらば、宮本、鈴木。宮本の墓にはスク水DVDを、鈴木には熟女モノの写真集を添えてやるよ」
「おい、鈴木、そ、そんな趣味が?」
「何言ってるんですか! 俺にはそんな趣味ありませんよ!」
「え? だって、お前、おばさんの写真を大切にしてただろ?」
「それは、俺の母親だ!」
鈴木の心の叫びが聞こえる。その気持ちはとてもよくわかる。そんなことより、この通話って録音とかされてる?
あ、岸本の滑空も順調に落下を始めてる。また、3人揃って退場かよ……
※
「それは、俺の母親だ!」
ざわめき出す作戦司令室。
氷牙対策作戦司令室、ロボット愛好会に対する特別な部隊が結成され、常に動向をうかがっている。強大なロボットを打ち倒すために策を弄している。
その結果、巡航ミサイルは氷結し、無効化され、策は破られている。
「くそ! 一体、どういうことだ! ミサイルを迎撃されるのなら分かるが、氷結ってなんだよ! 大体、大気に含まれる水分であんなに凍るわけないんだよ! そもそも、ミサイルの勢いが完全に死んでるじゃねーか! 慣性とかしらねーのかよ! 意味がわからん!」
指揮官らしき男性が奇声を上げながら転がりまわっている。気が動転しているというレベルを超える奇行。隊員はその様子を見ながら、致し方なしと目を逸らしている。自分も立案した作戦がこんな形で終わったら同じ行為をやりかねない。
「落ち着きたまえ! それはあくまで演出であり、そこまで凄いことじゃないから安心して欲しい」
「そ、その声は!」
冷静を欠いていた指揮官は声の方を振り返る。それだけではない、司令室にいた全員がその声に注視する。
そこには、腹がはみ出し、禿げ上がった頭部、どことなく狸の面影を残すとある人物。
「ま、まさか、貴方は天見 管利元国防大臣!」
「イエス! アイ、アム!」
司令室に颯爽と現れる天見。大物の登場に司令室はしんと静まりかえる。
「あ、貴方は、横領、賄賂、揉消し、など、ありとあらゆる犯罪に手をだしたにもかかわらず、任期を全うし、全ての罪状をうやむやにしたあの、伝説の国防大臣!」
「君はもっと言葉を選んだ方がいいし、本人の前で言うセリフではないしね、それ」
突如の来訪に何がしたいのか、全く理解できない隊員をしり目に、天見は部屋の中央へと歩いていく。そして、振り返り隊員すべてに鶴の一声を発する。
「ここは、日本防衛所……ボウエイオーの出番ですな!」
司令室がにわかに活気づく。激震を打ち破った唯一の対抗手段の登場に希望を抱く。
「さぁ、出撃許可をとりたまえ!」
「ハッ! 今すぐ草加国防大臣に連絡をいたします!」
指揮官は早速防衛省に通信を繋ぐ。黒い通話機を天見に手渡した。
そこから、冷静で落ち着いた低めの声が聞こえてくる。
「君の意図は理解している。ここに連絡するということはボウエイオーの出撃に関してだな」
「さすが、草加くん、話がはやい」
「手続きは私が行う。君はボウエイオーを頼む」
想定どおりのやり取りに天見は口角を上げ、高らかに宣言する。
「よし! ボウエイオー発進せよ!」
司令室は今までにない活気を取り戻した。
※
ボウエイオーの出撃が急遽発令された。
パイロットスーツを身に纏い、ボウエイオーの前にたどり着く。コックピットに乗り込もうとすると、作業着を着た愛子がやってきた。
「これから出撃だってな。多少壊れてもあたしが直してやるから、絶対に帰ってこい」
「直すって、ボウエイオーを? そんなこと出来るのか?」
「天地博士から睡眠学習装置とかいうのを貰って、それのおかげかだな。博士に感謝だ」
学習装置とか危険な香りがするのが気になるが、ここは愛子が防衛所に貢献できているのなら、むしろ目出度いくらいだ。
「兄さん! 待って!」
その声に振り向くとセーラー服姿の晴香が駆け寄ってくる。今まで学校だったろうに、急いでやって来てくれたと思うと、目頭が熱くなる。
「はぁ、はぁ、怪我とかしないでね。こんな世界より兄さんの方がよっぽど大切。世界なんて無くなればいいのに……」
俺にしがみついてくる。学校から直行したのに、こんな事を言えるなんて……流石は、我が妹。兄想いのいいやつである。
「行ってくる。帰ってきたら晩飯のリクエスト受け付けてやるからな」
「あ、あたしもいいかな?」
「おう、どんと来いだ」
埃臭いヘルメットをかぶり、コックピットに乗り込む。以前と同じコックピット。レバーを握り、ペダルを踏みこむ。かすかな振動を体に感じつつ、ボウエイオーを起動する。
『大悟ちゃん、乗り込んだ? これから出撃しますよー』
声が素っ気ない。やはり、雪絵さんに避けられている。そんな謂れは無い筈なんだけど……。
とにかく今はボウエイオーの出撃に集中する。
『ぼーっとしてるんじゃないわよ! 大悟が活躍すれば、研究費がガンガンもらえるから!』
『明日の食事代は君にかかっているからな』
こちらの1人と1匹はかなり俗物的だ。確かにそういったことは大切だとは思うが、直接言われると少し世知辛くなる。世の中、金! 金なのか。
『ボウエイオー準備完了、これより地上へ上がります』
少し棘のある雪絵さんのナビを受けながら、地上に出るのを待つ。
頭部が表に出ると、やはりお隣さんの家が真っ二つに分かれていた。未だに民家から出撃するのかよ。
しかも、お隣さん、一家一同で庭から日の丸の旗を振っている。本当にどれだけのお金を握らしたのか、あまり考えたくない。やっぱり、世の中金である。
全身が地上に出ると、町を一望できるのが少し気持ちがいい。これから出撃だという不安が少し和らいでくる。
『ボウエイオー発進!』
パイロットということで、いつまでもゲームをしているわけにいかなくなり。それなりに体力を付けた。業務時間はゲームを強要されるので、空いた時間で自主トレを続けていた。前回のような無様は晒せない。
以前と変わらぬ激しいG。体を押さえつけ、全身の血が足へと移動していくのか分かる。このままだと気を失ってもおかしくない。だが、ここは今までの特訓の成果を見せるとき。奥歯を強く噛み締め、Gに耐える。意識を保ったまま飛んでいくボウエイオーから景色が見えた。
次々に後方へ流れていく景色、それはボウエイオーのスピードを表すもので、どんな景色なのか全くわからない。だが、想像もつかない速度で目標へと向かっていく。
いくらかすると、スピードが落ちてきて、周りを見えるだけの余裕が出てくる。その周囲は蒼く硬く凍り付いていた。1つの街は完全に廃墟と化し、もう生命の息吹は感じられない。
凍りついた街を踏み潰しながら着地に成功する。そして、目標の巨大ロボと対峙することとなる。
これから、日本を賭けた戦いが始まる。




