第12話 「話は聞かせてもらった! 君は採用だ!」
あらすじ
ロボット愛好会現る
先日ボウエイオーの出撃があったとはいえ防衛所は平和なものだ。
ロボット愛好会の宣言以来、次のロボットは出てこない。とはいえ、ボウエイオーの登場、ロボット愛好会の宣戦布告と、話題に事欠かない。
結局、ロボット愛好会って何だったんだろうな。
そして、俺は今日も今日とて居間でゲームをしている。
今までやっていた対戦格闘ゲームではなく、老若男女みんなで楽しめるパーティーゲームだ。
もうシミュレータと名乗る必要のなくなったゲーム機は憩いの間に喜びを与えている。
「うんだらだ~うんだらだ~うんだらだった~♪」
「なんですか? そのモンスターを召喚しそうな鼻歌は」
「よくわからないけど、頭に思い浮かんだ」
天地博士はとても気分がいい。ボウエイオーのお披露目ができたことも大きいだろう。
新聞にはいまだに紙面を飾っているし、ニュースでも時折目に入る。ロボット愛好会の目論見――というべきか、ロボットについて注目が集まっている。
実際に巨大ロボットが大立ち回りの大乱闘をしたのだ。その効果は計り知れない。
「誰か来たようだぞ」
センセイが耳を頻繁に動かしながら、来客を知らせる。流石はセンセイ、声だけでなく耳もいい。
「はいはーい。どちら様ですかー?」
雪絵さんはコントローラを置くと腰を上げ、出入り口へと歩いていく。まるでどこかのおばさんのような動きだ。
突如こちらを振り返った雪絵さんと目が合う。いつもの笑顔のはずが背筋が冷えた。
「誰が来たのかなー? やっぱ有名人はつらいなー困っちゃうなー」
どや顔でこちらを見る天地博士がウザイかつ非常に腹が立つ。
「博士の反応はともかく、誰が来たんでしょうね」
「足音からするに、20歳くらいの女性だな。匂いからすると、髪は金髪に染め、デニムの上着にジーンズを履いている」
その格好には思い当たる人物はいるが、流石センセイそこまで詳しくわかるとは。出来る犬だ。
「そこは突っ込んであげて、センセイの渾身のボケだから! まだ見ぬ登場人物を詳細にお知らせするというボケだから!」
「博士、説明は止めてくれないか……」
センセイは耳を垂らし、両手で目を隠している。うずくまった姿が可愛い。センセイは本当に何でも出来るな。
居間に微妙な空気が流れ始めた頃、雪絵さんがやってきた。どうやら誰かのお客だったようだ。
というか、センセイの言葉が本当なら愛子か。
「大吾ちゃーん、お客様がおいでだよー。金髪の怖い娘だけど、知り合いかなー」
「はい。今いきます」
居間を出て、いつもの長机とパイプ椅子だけの部屋へ向かう。
ドアの先には最近再会した女性がいる。サムズアップした手にGoodと書かれた趣味の悪いTシャツを着ている。パイプ椅子に肩身狭そうに座る姿は実に愛子らしい。ああ見えて結構人見知りだったりする。
「愛子、どうした? こんな所に」
俺の顔を見ると、愛子は水をやった後のような花みたいに笑顔になるが、すぐに俯いてしまう。
「彼女が大吾のお客ね」
「どういう関係なのかなー」
愛子の表情が曇ったのはこのせいか。
天地博士と雪絵さんがドアの影から興味満々な視線を送っている。下世話にも程があると思う。
「あー、愛子は俺の知り合いでして――」
「星川 愛子といいます。大吾の彼女です」
先制された。その言葉に天地博士と雪絵さんは完全に氷ついた。時間まで止まったように見える。
愛子は別れたつもりはないと言っていたが、厄介なことになりそうだ。
「今は別れてますよ。勘違いしないでください」
そう言った瞬間に天地博士と雪絵さんのこちらを見る目が変わる。まるで臭いを発し始めた生ゴミを見る時の目に似ていた。
「大吾、最低だな。純情な彼女にそんな口ぶりとか」
「用がなくなった彼女を別れたことにしてるとか、男の屑ですよねー」
こちらのことはそう見えていたわけだ。
恋人を一方的に振った自己中心的な男。自身を振り返ってもそんな事は――あるかもしれない。
「大吾はそんな奴じゃないんです。多少人格に問題はあるけど、悪い人じゃないんです」
人格否定しながら、庇ってもらっても効果は薄いと思う。折角庇ってくれるのなら、もう少しフォローを入れて欲しい。自業自得なので文句を言える立場ではないが。
「はぁ、そう言うのなら追求はしないわ」
天地博士と雪絵さんが部屋の中に入ってきて開いているパイプ椅子に腰掛ける。
突然、足を組み始める天地博士と、おもむろにスナック菓子を食べ始める雪絵さんは、非常に態度が悪い。その姿は嫁を苛める姑そのものだ。
「ところで、この防衛所に何の用ですかー?」
その言葉に愛子は本来の目的を思い出したのか姿勢を正す。着ているTシャツのお陰であまり真面目に見えないのが問題だった。
「あの、大吾がここに勤めていると聞いて、やべ……お聞きして、自分も働きたいと思いまして……」
声の勢いがなくなっていき、ついには聞こえなくなるほどまで小さくなってしまう。苦手な敬語を必死に使おうとしているところを見ると、どうも本気らしい。
「んー、今は特に募集してないのよね」
「そもそも、この場所は大吾ちゃんから教えてもらったのかなー?」
「いえ、場所は自分で探しました。ホームページに記載されてましたから」
ボウエイオー登場により注目を集めるということは、この防衛所を知られる可能性が増える。所在をはっきりさせないことが最近の意向であった。
あれだけの力を持つボウエイオーがこんなクソのようなプレハブ小屋に隠されているなんて、公表できる訳がない。
その為に防衛所は情報を秘匿するようになっていた。
外にあった看板も今は外れている。だが、ホームページがあることは初耳だ。
「そんなのもあったわね。禿狸がどうしてもって言うから、5分で作ったのよ。存在をすっかり忘れてたわ」
この面子なので秘匿なんて出来るはずもなくガバガバである。センセイが情報の管理を行っていたので、情報が漏れることは殆どなかったのだが、この様なこともあるようだ。
「でも、所長が許可しないと難しいんじゃないかなー。大吾ちゃんの時も呼び出しがあったくらいですしー」
ドンという音と共に突然、部屋のドアが勢いよく開けられた。
「話は聞かせてもらった! 君は採用だ!」
「「「なんですってー!」」」
突如現れた禿げ上がった太っいおっさんが許可してきた。その唐突さに天地博士、雪絵さん、愛子までも驚いて声を上げていた。
「驚いたかね! 今日は、偶然ボウエイオーの様子を見にきていて、偶然腹痛に襲われ、偶然トイレに行って、偶然この部屋を通りかかって、偶然声が聞こえてしまってね!」
所長はとにかく偶然を装いたいらしいが、どう考えても作為的な何かを感じる。実は隠れて何度もこの小屋に来ていたのではないだろうか。それは流石に考えすぎだろう。
「博士、オペレータ、妹ときて、元ヤン元彼が登場とは、ニッチな部分を狙ってきたな! 実に私好みだ! いいパンチをくれそうだ!」
所長は興奮したのか、本音が駄々漏れになっていた。
だが、愛子は意外と繊細なので、人を殴るなんて事はまずないだろう。確かに殴ってはいたが、大抵反撃であり、好戦的ではない。そんな彼女が何故レディースをやっていたか俺は知らない。
「君には、所長秘書を――は無理だろうから、何かできることはないかな?」
所長の直感どおり、愛子は頭の回転が遅い。悪いわけではないが、気が付くまでに時間がかかる。スケジュール管理とか無理だろう。
「喧嘩とバイク弄りが得意です」
「うむ! 予想を裏切らない長所で私は安心したよ! どうかな、天地くん、何かないだろうか?」
「そうですね。機械系がいけるなら手伝ってもらうこともあるでしょうけど……」
天地博士の言葉は歯切れが悪い。バイクを多少弄れるくらいでは博士の手伝いはできないだろう。特技のない愛子では荷が重いはずだ。
「お前みたいな特技がない奴だと、入所は難しいかもな」
「「お前が言うなー!」」
天地博士と雪絵さんに後頭部をつかまれ、ドンッと思い切り机へ叩きつけられた。
確かに俺も特に何もできなかった。シミュレータという名のゲームですら駄目駄目だったな。と、机と挨拶しながらそう思った。
「愛子くん、今日から君は日本防衛所の一員だ。奮闘してくれたまえ」
「はい! 自分、精一杯頑張ります!」
こうして、愛子は日本防衛所の一員となった。また一段と賑やかになりそうだ。




