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プロローグ

 山奥、鬱蒼とした森に炎の魔の手が襲う。月も出ぬくらい夜が炎によって赤く照らされる。

 山も朱に染まり、火の手は衰えることを知らない。

 炎の中心には巨大な人影。それはあまりに巨大で木々の高さをはるかに超え、燃え盛る炎に包まれている。

 巨大な人影はロボット。どんな火炎も寄せ付けぬ装甲、手からは勢いよく火炎が吐き出される。この山火事を起こした火炎放射器を両手に備え、胸には炎を連想させるシンボルが輝いていた。


「燃えろ! 燃えろ! この日本は我らロボット愛好会のモノ! 白旗を上げ、ロボット文化の復権を認めよ!」

「まてぇい!」


 荒ぶる怒声を遮る声。それは炎の機械の頭上から聞こえてくる。


「その声は!?」


 月の無いはずだった夜空には、大きな満月が輝いていた。それは、真なる月ではなく、より輝きを持つ人の月。その月は燃える山に落下した。

 否、それは月に非ず。空より飛来した人型の頭に光る人工の満月だった。はるか上空より飛来した満月は激しい衝撃と共に着陸する。

 武者の兜をかぶり、頭に満月、胸に星、右手に薙刀を持つ武芸者。それは巨大なロボット、白く輝く正義の姿。


絶対堅守ぜったいけんしゅ ボウエイオー! 見参!」

『大吾、思い切り暴れてやれ! あたしが直してやるよ』


 着地の姿勢から立ち上がる。炎を物ともしない強固な鎧は赤く照らされる。

 白き武芸者は炎の魔人と対峙する。


「来たなボウエイオー! わが、火車かぐるまの炎に焼かれるがいい!」

「ロボット愛好会の好きにはしない!」


 炎のロボットから吐き出される山を薙ぎ払うほどの火炎がボウエイオーを焼こうと襲い掛かる。


『ボウエイオーの装甲ならこの程度問題ありません』


 だが、白い鎧はその熱を物ともせず涼しい顔をしていた。


「ボウエイグレェェイブッ!」


 襲い掛かる炎は回転する薙刀により、拡散され鎧を焼くことはできない。

 炎を払った薙刀は次に火車の右腕を切り落とす。返す刃で左腕まで切り落とす。両腕を失った火車は攻撃手段を失い無力化されたかのように見えた。


「まだだ! 喰らえ! ファイアーハリケェェェェェーンッ!」


 胸に燃え盛る炎のシンボルから、白く輝く光があふれ出す。あまりに高温な炎はプラズマと化す。白熱したプラズマを竜巻のように発射する、火車最大最強の必殺技『ファイアーハリケーン』

 必殺にプラズマがボウエイオーを襲う。


『兄さん! 危ない!』


 だが、それは薙刀の閃き一つで霧散する。プラズマを超える衝撃がそれを無効化した。


「日本を襲う悪党め! こちらから行くぞ!」


 一足で火車との距離を詰め、薙刀の石突で思い切り突き上げた。


『今よ! 大吾、必殺技を見せ付けてやりなさい!』


 突き上げられ宙に浮かぶ火車に、胸に輝く星のシンボルを向ける。眩い星の輝きがどんどん強くなっていく。


「必殺! ボウエェェイィビィィィームゥ!」


 星から放たれる空へ向かう流星。一筋の光が火車を貫き進む。

 圧倒撃なエネルギーの奔流が、どんな熱も耐えうる装甲を粉砕し破砕する。


「おのれ、ボウエイウォォォォォォ!」


 夜空が明けた一瞬に、火車は姿を失い爆散した。

 それの爆発にボウエイオーは背を向けその光を浴びていた。




 毎朝の日課である郵便受けの確認をすると、味気ない薄い封筒が入っていた。

 またかと思いながらも、その中身を確認すと、予想通りの見慣れた文面が、羅列されていた。


山本やまもと 大吾だいご 様

 この度は当社の求人募集に対し、ご応募ありがとうございます。

 慎重に検討した結果、誠に残念ながら貴意に添えない結果となりました。

 末筆にはなりますが、貴殿の今後益々のご健勝をお祈り申し上げます」


 お決まりの畏まった文章。ご健勝をお祈りするぐらいなら雇えと言いたくなる。『誰が貴様なんぞ雇うかボケ』ぐらい書かれたほうがせいせいする。


 俺はついさっき不採用が決まって、就職活動真っ最中の身となってしまった。

 職を持たない俺は生活していく為に金が要る。金を得る為には就職する必要がある。では、その職に就けない人間はどうすればいいのか、死ねと言うのか。

 今まで碌に就職できなかった俺が悪いのか。

 とにかく、このままでは一家諸共路頭に迷う。金が無ければ生きて行けぬ何とも世知辛い世の中だろうか。

 不採用通知によって、ささくれ立った心をなだめる為、その辺を散歩しようとアパートを後にした。

 アパートの周囲はよくも悪くも、下町のような雰囲気が漂っている。民家ばかりで、背の高い建物は見当たらない。商店もちらほら見かけるが、営業中なのか、準備中なのか良く分からない店がほとんどだ。


 その散歩の途中、平屋建てのプレハブ小屋に妙なポスターが貼り付けられているのを見つけた。

 八十年代を彷彿とさせる、微妙なリアルさを持った人々。古臭いデザインのロボットが描かれたポスターだった。

 何十年前にデザインされたかわからないポスターは、貼られてから数日しか経っていないように新しい。

 そのポスターには『来タレ若人、日本ヲ守ルノハ君ダ!』という文字が躍っていた。

 この令和の時代に、昭和を感じるポスターに場違い感を覚えながら、内容を読んでみた。


「募集職種・ロボットパイロット 未経験者可

 募集条件・二十歳以上で普通自動車免許所持、心身ともに健康な方

 場所・日本防衛所……」


 日本防衛所など聞いたことが、どこにあるのだろうと、周りを見渡した。

 それは、意外と身近にあった。目の前のプレハブ小屋には『日本防衛所』という看板がくっついていた。

 まさかと思いながらもプレハブ小屋を覗いてみると、長机にパイプ椅子という殺風景な部屋があった。

 本当に使われているか分からないが、放置され打ち捨てられたものではなさそうである。


「このポスター……本気なのか?」


 再びポスターに目を戻す。

『ロボットパイロット』

 見間違いでは無いようで、しっかりと描かれている。ただの冗談だと切り捨てることもできるが、ポスターにはロボットの絵もある。

 俺の知るところ、ロボットなんて創作上のものであり、人が乗れるほど大きなものは存在していないはずだ。

 人と同等のサイズなら歩行程度は出来る。

 人は乗れないが、とある場所で実寸のオブジェも存在している。あれは完全な張りぼてだが、もしかしたら本当に動くロボットが存在する――訳ない。


 俺はそのポスターに興味を持ちながらもただの悪戯と思いその場を後にした。

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