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見えないところは意外とハイテクだったらしい



 顔をぺちんぺちんと叩かれる。

 それも、絶妙に痛くはないが音だけは高く鳴るように。


「う、むぅ……」

「おはようございますっ、夜月様っ!」


 低血圧で上手く頭が回らないところに、元気に頭に響くリリアの声が。

 起こし方は……昨日頼んだ通りだな。うん。


「おはよう…………水はあるか」

「はいっ!」


 パッケージに「八甲のおいしい水」と書かれたミネラルウォーターを受け取り、蓋を開けて飲み始める。

 慣れない環境で寝たからか、何となくでしか状況を思い出せないが……


「ス魔ホを見てくれ。今、何時だ?」

「えーと……朝の6時です!」

「オーケー」


 とりあえず思い出せたのは、起こしてくれるように頼んだのは「朝の8時」だという事だ。

 しかし、見るからに「ちゃんと仕事しましたよ!」と言わんばかりなリリアの満面笑顔を曇らせるのもアレなので、違うぞ、と言いたくなる口に水を流し込み、よくやったと頭を撫でる事にした。









「よし、今日も片付けから頑張ろう」

「おー!」


 朝ごはん(おにぎりにミネラルウォーターだけだが)を済ませ、寝る時に使ったベッドの掛け布団を畳んでおく。外に干しておきたいのだが、この場所の外はまだ手付かずなので準備が出来ていないのだ。

 まずは、昨日はちゃんと把握出来ていなかった『部屋の間取り』を確認しなければ。


「リリア、昨日調べてくれた部屋はどんな感じだ?」

「はいっ、お風呂とトイレ……あと、キッチンがありました!」


 ビシッ、と敬礼をするリリアに微笑ましさを覚えながらも、俺は魔帳に「風呂、トイレ、キッチン」と書き込む。


「水は使えたか?」

「ダメでした、蛇口回しても出てこなかったですー」

「元栓から閉めてあるかもしれないな、後で探してみよう」


 こういう場合、水道の元栓は大体、外の敷地にあったりするものだ。それを探せばいいのだが──


「……? 元栓、ってなんですか?」

「え?」


 リリアが首をかしげた事で、俺も首をかしげる事に。


「流れてくる水をせき止めるための栓の事だよ。魔界には無いのか?」

「はい。基本的に家庭用の設備は『魔石』をはめ込む事で使えるようになるんですよ?」

「へぇ……」


 魔界では常識だ、という表情のリリアに俺は改めて「ここが異世界である」という認識を強めるしかなかった。

 後で実物を見ながら教えて貰ったが、蛇口やコンロの部分に対応する魔石をはめ込む事で、俺の知っている家電のように水や火が出るそうだ。


 イメージ的には、乾電池のようなものらしい。


「魔石や設備の事は分かった。それ以外に何かをあったか?」

「特にありませんねー。夜月様が調べた部屋みたいに、それ以外の物は置いてありませんでしたー」

「……なるほどな」


 ペンを走らせ、最低限の文化的な生活設備は可能、と書く。

 服はどうにか出来るとしても、トイレと風呂は大事だ。特に、女の子であるリリアに対して、だが。


「こっちも、ベッドに執務に使ってたらしいボロ机くらいしか見つかってないからな……」

「どうします?」


 間取りとしては、4LDK。

 それも、1部屋が10帖ほどの、日本だったら月10万は確実にかかるであろう有用物件。

 机に関してはそのままにしておくとして、それでも3部屋。


「リリアは、自分の部屋は欲しいか?」

「あんな広い部屋に1人きりは嫌ですよぅ」

「それもそうか」


 こう見えてもリリアは寂しがり屋なのか、昨日も床で寝ようとした俺を「ベッドもありますし、私は小さいから一緒に寝れますよ!」と、その筋の人なら喜びそうな誘い文句を言ったのだ。


 ……実際のところは、寝転がろうとした俺を何度も引っ張り起こすので、俺が根負けした上に抱き枕にされた……というのが現実だが。


 それは置いておくにしても、もう少し、この場所に人が増えたら相部屋なり何なりで考えるとしよう。それまでは倉庫として使えばいいのだし。


「それじゃ、予定だと昼に設置業者が来るらしいから、それまでは掃除だな」

「掃除なら任せてください!」


 拳を握って、高く突き上げるリリア。

 出会って数日も経っていないが、彼女のバイタリティー溢れる姿は見ていて飽きない。

 ケガはしないようにな、と俺も拳を作ってリリアの拳と突き合わせると、どちらからでもなく自然とニッカリ笑い合ったのだった。







 ──そして、お昼。



『アリがとうございましたー!』


 アリの胴体に、人の上半身が生えたようなモンスターの男達──ジャイアントアント、というらしい──が設置業者だったらしく。

 ボロボロになった机だけが置かれていた殺風景な部屋に、あれよあれよと物が置かれては不要なものが運び出されて。


「……なんという事でしょう。パソコンや本棚が整えられた、立派な執務室の出来上がりです」

「誰に言ってるんですか、それ?」


 その部屋だけは内装こそそのままではあるけど、設備に関しては新品同様になっているのです。

 あと、こういうものは「お約束」というものなんだよリリア君。そう説明したら、ちゃんと理解してるのかは分からないけど「へぇー」とは言ってくれたが。


 ボロボロだった執務用の机も、新品と交換されている。……壁や床を見ると、明らかに部屋の中で浮いてしまっているが。

 本棚も「設置しただけ」で「本は入っていない」のだ。埋まるかどうかはこれから次第、ということなのだろう。


「パソコンも凄いな……見たことない技術ばかりだ」


 形状的にデスクトップ型なのは何となく分かったのだが、明らかにマザーボード等が入っているタワーが『薄い』。

 更に言えば、モニターは『形すらない』。


 電源を入れたら『3D立体映像のように出てきた』のだ。


(そりゃあ、ゲーム内でも立体映像TVとか出してたもんなぁ……それだけの技術はあるよな)


 ちなみに、生産場所は「MADE IN HEAVEN(つまり、天界製)」と書かれていた。

 使ったら体感時間を加速させられないか不安になったが、そこは大丈夫らしい。


「基本的なソフトウェアに関しては、そんなに変わらないのな……」


 立体映像のキーボードと、指で直接操作できるモニターを触りながら、機能を確かめていく。

 ハードウェア面ではかなり先を進んでいるようだが、内部機能は慣れ親しんだものが多いのはこちらへの配慮だろうか。

 ドット絵の、ゲーム内で登場したキャラクター達が画面内をリアルタイムで行進していく壁紙に関しては、気付いた瞬間に驚いたものだが。


 そんな風に、色々と触っていると──



 ──プルルルル。


「夜月様っ! お電話ですっ!」


 ブルブルと震えているス魔ホをワタワタしながら持ってきてくれたリリアから受け取り、着信相手を覗き込むと。


「おいおい……こっちを見計らってるレベルで『都合の良いタイミング』じゃないか……」


 かけてきた相手の名前に、俺は思わずぼやいてしまう。

 何故なら、それは──



 △着信相手:魔王



 自分をこの「異世界に導いた、張本人」なのだから……。

何かしらの問題がなければ、週2回ほどの更新速度で続けていきたいです

もう1つの連載については…2度目のリメイク予定がありますので、それは改めて告知致します

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