二人の朝
リビングに避難した俺はインスタントコーヒーを淹れ、トーストを焼いて朝食の準備をしていた。
だいぶ気持ちが落ち着いたところで階段から夢衣が下りてくる音が聞こえた。
理性を殺した今の俺は最強だ。
とりあえず昨日何が起きたのか夢衣に聞かないと。
足音が徐々にこちらに近づき、少し顔を赤めらせて夢衣がドアを開けてリビングに入ってきた。
「おはよう夢衣ちゃん!今日もいい天気だね!朝ご飯そろそろできるからほら、そこの椅子座って待ってて!」
どこにでもいそうな優しいお父さんのような、見事な対応により完璧に自分を偽った。
すると夢衣は小さく「うん。」と返事を返して椅子に座った。
数分間してトーストが焼きあがる。
それまで俺たちはずっと無言だった。
朝食をテーブルに並べ終えた後、そこでやっと会話が始まった。
「あのさ、昨日俺帰ってきてからの記憶がないんだけど俺、夢衣ちゃんに何にもしてないよね?
というか普通に朝になってたけど姉ちゃん達なんか言ってた?」
お互い席について朝飯を食べ始める前に質問を始めた。
「何もしてない。美鈴さん達も何も聞いてこなかった。」
夢衣はただ質問にだけ答えると、「いただきます。」と朝食を食べ始めた。
まぁ食い終わってから話せばいいか、と思い俺も朝食を食べ始めた。
テレビも点けずに、ただ無言で朝食を食べ終える二人。
大体いつも朝は二人とも朝が早く、一人で食事を摂っていたのであまり気にしないようにしてはいたのだが、誰かと食べているのに無言、というのは俺も中々むずがゆかった。
食事後は食器を下げて皿洗いを始めた俺と、ソファーに移動する夢衣。
多分夢衣は不安で口数が減っている、と勝手に解釈を始め、何から話そうか頭の中で色々整理していた。
だがこの静寂を破ってきたのは夢衣の方だった。
「私これからどうなっちゃうのかな…」
夢衣の口からは今の素直な心理がこぼれる。
当然だ。両親はもう既に亡くなっていて、唯一の繋がりで合った兄貴は捕まって。住む場所も無くて。
まだ十六歳の女の子には厳しすぎる。
俺も似たような経験をしているから分かる。
もちろん全て分かる訳では無いが、そんな彼女を見て俺は無意識に「大丈夫だ。俺がいる。」と言っていた。
「家の事も金の事も保護者の事だって、俺が全部どうにかする。姉ちゃんには全部隠してたことも話して…色々迷惑かけるかもしれないけど、何より俺は君が好きなんだ。大好きなんだ。だから俺に、俺たちに甘えてくれ。今は俺も未成年だし、全部俺に任せろ!って言いきれないのが悔しいけどな!」
この世に平等なんてものは存在しない。
だからこそ自分たちの力で平等を勝ち取る。
それが人生なんだ。
俺ら家族はずっとそうして生きてきた。
「涼花君、ありがとう…私いっぱい迷惑かけるかもしれないけどよろしくお願いします…」
半泣きの夢衣。
まぁ任せろよ!と言おうとしたのだが、まだ向こうは何か言いたげにモジモジしている。
「そんなモジモジしてどうした?感動してトイレでも行きたく…」
夢衣は『トイレ』というワードを俺が発した瞬間全力で首を縦に振り始めた。
やっちまった。
俺は無言で親指を立て笑顔で見送った。
この子に対して俺はどんだけ空回りすればいいんだ…と心の中で号泣した。




