先読みの久我
ポケットからスマホを出し、久我のおっさんに電話をかける。
「おいおっさん。この事件俺要らなかったろ。」
「颯のクソガキから聞いたか。」
「何も聞いてないんだが…」
なんでこいつ颯のこと知ってんだ?
「あいつな、俺に条件付きで自首してやるって電話してきたんだよ。」
「条件?」
「あぁ、有栖と一対一で話をさせろってな。どこ情報で俺とお前が繋がってんのがバレたのかまでは教えちゃくれなかったけどな。」
「あんたなら平気で嘘ついて騙すだろうに、何でわざわざ…」
「俺はあいつの事情を大体知ってたからな。お前に出てってもらった方が都合が良かったんだよ。」
「そうなんか、まぁもう終わったことだから良いけどな。颯なら今裏山で寝てる。さっさと所まで連れてってやれ。」
「なんだお前、情でも湧いたか?」
「まぁな、あんな話聞かされたら…ってあんたはどこまで知ってんだよ。」
「さぁな。それより早くこっち戻ってこい、彼女が泣いてんぞ。」
「なんだよ、あんた結局こっち居んじゃねぇかよ…」
「お前さんが銃で撃たれた時は俺も流石に冷や汗掻いたけどな。」
最初からいたな、こりゃ。
「わかった、それと夢衣は彼女じゃねぇ。」
久我のおっさんに夢衣との関係をしっかり教えてから俺は電話を切った。
とりあえず颯をここに置きっぱなしにしておく訳にもいかないので、颯を引きずりながら倉庫の入り口まで戻った。
倉庫の入り口まで戻ると、颯の手下共が覆面パトカー六台にパンパンに詰め込まれていた。
こりゃスゲーな。
車の様子に感心していると、スーツ姿で厳つい顔の人が近づいて来た。
「いや~ご苦労ご苦労、おかげでこの辺の治安も安泰だ。」
「お互い仕事が減って良い事だなぁ、おっさんよ。」
「なんだ、満足してなさそうだな。」
「当たり前だろ、銃出してくるわ、昔話聞かされるわ…、男なら拳で語ってほしかったね。」
「相変わらずお前さんは見た目に対して言うことが漢だな…」久我のおっさんは声を出して笑う。
「さっきこいつにも言われたわ。」と颯を指さす。
「そろそろ姉さん達が心配するだろうから、お前さんはもう帰って良いぞ。後はこっちに任せろ。」
「おっさん、それなんだがよ。」夢衣の事を言い出そうか迷ったが、姉にはもう隠しきれない状況なので、この際おっさん達との関係を姉に言おうか相談しようとしたのだが、「夢衣の事だろ。」と見透かされていた。
「大丈夫だ、うちで預かる。」
「でも…」颯に頼まれた事を気にしている訳ではないのだが、せめて夢衣の望みを聞いてほしかった。
だがそれすら見透かされていた。「夢衣に決めてもらうか。」
この一言を聞いて改めて俺はこのおっさんに出会って良かったと思った。
俺とおっさんは夢衣のいる車に行き、夢衣の気持ちを聞きに行った。
夢衣の目には光は無かった。絶望した目だ。
だが久我のおっさんはそんなことを気にする様子もなく、いきなり夢衣に現実と選択を渡す。
「嬢ちゃん、あんたの兄貴はこれから長い間務所行きになったんだが、うちに来るかこのクソガキの家に行くか、どっちがいい?」
「クソガキってなんだよ。」どうしても気に食わなくてツッコむ。
「お前も殴り合い大好きなクソガキだろうが。」
「やられたからやり返してるだけだっつの。正当防衛だ。」
やれやれ、という顔をするおっさん。
そのやり取りを見て、夢衣がこっちに戻ってきた。
「俺が分かるか?夢衣。」
夢衣はコクンと頷く。
「俺の家とこの気持ち悪いおっさんの家どっち来たい?」
「お前、このダンディが分からんのか!かぁ~、まだまだ餓鬼だなぁ~。」
煽ったつもりが煽り返された。
「…がいい…」
夢衣が喋った。
「いっぱい迷惑…かも…けど…かのとこがいい…」
ん?どっちだ?
下を向き、小声でぼそぼそと喋っていた夢衣は顔を上げ、「いっぱい迷惑かけるかもしれないけど涼花君と一緒に居たい!」と言い切った。
「フラれちゃったなぁ~!」とおっさんは言ったが、俺はそんなことより下の名前で呼んでくれた事に感動していた。
「夢衣…ありがとう…下の名前で呼んでくれて…」
とここで俺も重要なことに気が付く。
颯と話していたせいで、いつの間にか自然と夢衣と呼んでっきり、倭鳥さんをずっと下の名前で呼んでいたことに気が付いた。
お互い恥ずかしさで顔を真っ赤にしている。
「若いっていいなぁ~」久我のおっさんはにやにやして俺らをからかった。