退院、復学一発目
「涼花!朝だ!」
「うっるせぇ!!!耳元で叫ぶんじゃねぇ!」
驚きとイライラでベッドから飛び起きる。
「なんだよ美鈴!まだアラーム鳴ってねーよ!」
と言いつつもスマホを確認する。
「もう八時じゃん。」
正気に戻る。
「アラームセットし忘れてたんでしょ~。起こしてやったんだから感謝しな。」
「起こすのが遅いんだよ…」
遅刻確定の俺はトボトボと学校に行く支度を始めた。
一時間目は間には間に合いそうにないので、二時限目開始前までには着くように家を出た。
九時半。
学校に着いた。
校内に入り、まだ一時間目の授業中の教室の前に立つ。
一呼吸おいてドアを開ける。
「というからして…えーと、君は?」
担任から何も聞かされていないのか、おじさん教師が俺を睨む。
「おい、ジジイ、初対面の相手にガン飛ばしてんじゃねぇぞ。」
ついイライラして反抗的になってしまった。
だが俺の言葉は耳に入らなかったようで、「き、君男なのか?」と怖気づく。セーフ。
「そうです。ここのクラスの有栖涼花です。」
「あ、あぁ、有栖さんか…へぇ…ちょっと職員室行ってくるから大人しくしてて。」
そういうと先生は走って職員室に行った。
「ヒーローの帰還だ!」
すると唐突に誰かが意味不明なことを言い出した。
「倭鳥さんを救った伝説の…男?」
「おいおい、本人が男って言ってるんだし男だろ!」
「それにしても無事でよかったな!」
クラス中からいろんな声があがった。
だが俺は少し気に食わなかった。
「何がヒーローだ。亡くなった人間に対してそれはちょっと失礼すぎじゃねーの?」
嬉しくはあるが、俺を轢いて亡くなった人の家族の事を思うと、俺は少し気分が悪くなった。
話を聞いた限り、俺を轢いて来た人はブラック企業で働いていて寝る時間すらまともに与えられなかったという。
だがここにいる大半の人間はそんなことなど知らずに言ったに違いない。
でも。俺は少しがっかりだった。
俺が放った一言でクラスの雰囲気は一気に悪くなった。
だがそこにエアーブレイカーが登場。
「涼花ちゃん…!本物だよね!?お見舞い行けなくてごめんな…病院の場所わかんなかったぜ…」
「白、お前も元気そうだな。心配させて悪かった。」
「涼花さん、恵梨さんに話聞いたんだけど、行ったら迷惑になるかなって思って…」
マリアが涙目で俺に寄って来る。
「お前な、確かに俺らまだ出会って数回しか話したことなかったけど、俺あの時言ったよな?俺と白はもうお前の友達だって。」
「え!?うち聞いてないんだけど!」
「お前はちょっと黙っとけ!」
「別に来てほしかったわけじゃないけど、心配してくれてたなら嬉しいわ。」
「だって約束守らないで死んじゃったらいやだもん…」
いや、そこかよ。
今のはにこって笑って『うん!』っていうところだろうが。
「俺も変なこと言ってごめん、でもクラスの皆心配してたってことはわかってほしい。」
確かコイツ、クラス委員長の前田何とか…
「おう、俺も言い過ぎた。心配してくれてありがとうな、前田。」
「いいってことよ!まあ俺は成沢だけどな!」
名前を間違えたが、クラスは笑いに包まれた。
「有栖さん!?」
なかなかいい雰囲気に戻ったところで、氷川先生が息を切らして教室に入ってきた。
「はいはい、有栖です。」
「本当に有栖さんなのね!よかったわ…」
俺の顔を見て安心したのか、氷川先生は教壇に寄り掛かる。
「もう、本当に…担任もって一発目から生徒が死んじゃったら私もうこの仕事やっていけなかったわ…」
あー…確かにそれはトラウマになりそうだ。
「わりぃ。今度から気を付けるわ。」
学校復帰一発目。
なんだかんだハッピーエンドだった。