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不条理な殺人 6

「確かに、柳原道夫による返り討ち殺人だとすると、納得できる。

 小平幸助が車を使って尾行し、復讐の機会を狙っていたのは間違いなさそうだ。包丁まで用意している。

 やはり、奈美の言うように、何らかのアリバイトリックを使ったと考えるべきか……」


 小泉加奈はアルコールに睡眠薬を混ぜて飲まされ、酩酊状態であった。

 彼女の証言は当てにならないと考えた方がいい。

 動機の面から言っても、柳原道夫が殺人犯だ。


「いいえ。論理的に考えれば、柳原道夫さんが犯人である可能性は極めて低いと言わざるを得ません」


 サングラス越しのメイは無表情にそう答えた。


「……え? そうなのか?」

「小平幸助さんは車の中で、脇腹を刺されています。

 おそらく、助手席に乗っていた人物に襲われたのでしょう。

 これから殺そうとしている人物を車に乗せるでしょうか?」

「……ないとは言えないのじゃないか? 持っていた包丁で脅したとか」


 容易に想像できる。そのための凶器だ。

 メイは何を気にしているのか?


「もしそうなら、一方的に刺されるでしょうか? 

 小平さんは凶器を持っていた。

 刺された後でもしばらく生きていたぐらいですから、抵抗の一太刀くらいできたのではないでしょうか? 

 なのに、包丁はきれいなまま。柳原さんも無傷です」


 健一は想像してみた。

 包丁を片手に助手席の人物を威嚇する。その時に、脇腹を刺される。


「反撃をかわされたとか? でも、なんらかの痕跡が残るか……」


 持っていた包丁を取りあげない犯人も不思議だ。


「そもそも、なぜ柳原さんはナイフを携行していたのでしょうか?」

「命の危険を感じていたから……じゃないか?」


 当然、そうなるだろう。


「命の危険を感じている人間は、そもそも夜遊びなどしないと思います。

 人を刺しておいて、女性を抱ける神経も異常です」 


 確かに、不可解な感じがする。


「柳原さんの準強制性交等を未遂にした、匿名の電話は誰がしたのでしょう?」

「柳原自身……殺人罪を逃れるため」


 小平を殺したのが柳原なら、当然、アリバイ工作に利用したととるべきだ。

 どういうトリックなのかは分からないが……。


「もしそうなら、やはり不自然です。

 小泉加奈さんの証言とラブホテルの防犯カメラだけで十分なはず。わざわざ逮捕されるようなことするでしょうか?」


 確かにそうだ。

 これほど高度なアリバイ作りができるくらいなら、逮捕されない方法だってとれるはずだ。

 強姦や強姦未遂だって、かなり重い罪になる。

 殺人を逃れるためだとしても、甘んじて受けるほどの軽い罪ではない。


「柳原道夫さんが犯人だと仮定すると、あまりにも疑問点が多すぎます。

 それよりも、不起訴になって間もないのに、次の性犯罪をしでかす危機管理能力の低い男。

 自分の命が狙われているのも知らず、遊びに出かけてしまう能天気な男。

 従って、ナイフなど持ち歩かないし、アリバイ工作など考えもしない。

 そのような人物だと仮定したほうが、しっくりきます」


 性犯罪を犯し逮捕されているくらいだから、自分本位で後先考えないタイプ。

 綿密にアリバイ工作を考えたり、緻密な殺人計画を立てる人物とは思えない。


「なるほど。確かに、柳原道夫ではないようだ……」


 となると、真犯人は誰?


「小平幸助さんが殺人を計画中に、助手席に乗せても構わないと考える人物。

 あっさりナイフを刺されていることから、信頼していたであろう人物」


 健一はメイの言葉から、ある人物の名前が浮かんできた。


「まさか……あり得ない。殺す動機がない」

「殺す動機はなかった。でも、そうせざるを得ない状況になった」

「……どういうことだ?」

「これはとても悲しくて、残酷な事件なのかもしれません」


 殺人事件なのだから、残酷な事件であることは当然である。

 だが、メイの言っているのは、そういう意味ではないのだろう。

 悲しくて、残酷……この事件の真相とは、どういったものであるのか?


「メイ、指示してくれ。次は何を調べればいい?」

「……をお願いします」


 健一はパソコンの画面を見ながら、キーボードを叩いたのだった。

 




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