第一話 パート1
第一話何とか書きあがりました。
何だこの景色は…。それがヤマトが思った最初の一言だった。その景色はそれまで戦ってきたいかなる戦場と違っていたからだ。確かにこのような森林風景はヨーロッパ風の戦場、日本の山林風の戦場などいくつもあった。しかしそれとはまったく違う空気がここには流れていた。そう、ここは戦場ではなく戦争とは無縁の平和な風景だと感じたのだ。
「とりあえず入ってみるか…、各部隊前へ」
ヤマトの号令に皆が出す。それに従いおのおの武装した隊員、そして車両が扉へと進んでいく。そしてヤマトも扉の中へと入っていった。一瞬、体へ感じたほのかに暖かい感触の後に感じたの穏やかな風と草のにおいだった。そして視界には先ほどドアのところから眺めた風景が視界全体へと確認できた。
「きれい…」
そばにいたユイがつぶやく。改めて全体を見渡すとその言葉にもうなずける。周囲をよく見るとそこは小高い丘の上なのか周囲が確認できる。丘の周囲には青々とした草原が広がっている。そして丘を少し下ると一面が深い森となっており様々な高さの木々が連なっていた。周囲からは野鳥と思われる物からのさえずりが聞こえ、今もすがすがしい風が穏やかに吹いていた。
「確かにな。ここはまるで御伽噺の風景だ。それにしてもここが新たな戦場だとはな。運営はここでどんな戦いをさせたいんだか」
とその時、PDAにまたしてもメールが入った。ヤマトはすぐに確認をする。そのメールに書かれていたのは次の内容だった。
『アイテム起動ありがとうございます。この場所の目的は探索及び開拓です。特に制限はありません。自由にこの世界を戦い抜いてください』
「これがこの場所での目的か。まぁ、目的がわかっただけよしとするか」
ヤマトはPDAを閉じると各部隊の隊長を呼んだ。この場所の目的などを伝えるためだ。
すぐさま後方から数人の隊員が駆け寄ってくる。その階級章はそれぞれ尉官の階級であった。彼らはヤマトの前に止まると一斉に敬礼を行う。それにヤマトも答礼した。
「各中隊偵察準備完了しました。いつでも活動を行えます」
そう一人の隊員が答える。
「了解した。それではここでの目的などを説明する」
そう言ってヤマトは先ほどのメール内容を説明するとともにそれぞれの部隊の行動を指示した。
「第一小隊、第二小隊はここ周辺を偵察。第三中隊、第四中隊はそれぞれ空から偵察を実施せよ。施設及び後方支援隊はここで指揮所及び防御施設を建設。現在、ここがどういう所かまったくわからない。警戒は厳にせよ。なお、俺も第五中隊とともに前進し偵察活動を行う。なにかあったら俺に直接連絡せよ」
その言葉に隊員たちは了解と敬礼で答え各部署に戻っていく。それを見届けるとヤマトは第五小隊の長と一緒に行動を開始するのだった。
「ハッ、ハッ、ハッ!」
少女は走っていた。日がほとんど入ってこない薄暗い森の中を全速力で。そして彼女の後方からは何人もの男たちが大声で叫ぶ声が聞こえていた。
"絶対に逃がすな!" "捕まえたら大金が貰えるんだ!" "追え! 追いつくんだ!"
そしてその声はだんだんと近づいてくる。
少女はさらに急ごうとする。しかしロングスカートのドレスとロングブーツではこれ以上のスピードは出せない。彼女がこれまで逃げられていたのも子供のころからここ一帯で遊んでいたことによる土地勘と森の性質を理解していたことによるアドバンテージがあったからだ。しかしそれもなくなりつつあった。
そして決定的なことが起きる。少女が木の根っこに足をとられ思いっきり倒れてしまったのだ。思いっきり走っていた反動により少女は勢いよく転がり近くの木に背中をぶつけた。
「ガハッ!」
肺から一気に酸素を吐き出してしまう少女。彼女は急いで立ち上がろうとするが足を挫いてしまったのかうまく立ち上がれずその場を動けずにいた。そして彼らが現れる。この森の中を走り回るための軽装備。手には刃渡り15cmほどのナイフや弓矢などさまざまなものが握られており、それらを少女に向けかまえていた。そしてそんな彼らの目はまるで獰猛な肉食動物のように血走っていた。
そしてそんな彼らの中から一人の男がゆっくりとこちらに近づいてきた。そして男は少女の胸倉をつかむと一気に自身の目線へと持ち上げた。
「やっと捕まえたぜ。嬢ちゃんよ」
「くっ…あなたたちは何者です。なぜこの様なことを…」
少女は胸元を締め付けられる苦しみに耐えながら男に質問をした。そんな姿に男は獰猛な笑みを湛えながら答えた。
「ふん。そんなこと言えるわけないだろ。それにどうせ嬢ちゃんはこれから死ぬことになるんだ」
そう言って男は腰につけていたナイフを取り出すと少女の首元に刃先を当てた。そのことに少女は恐怖を覚え顔面を蒼白し目を閉じてしまう。全身もガクガクと震えてしまっている。
そして男は少女に最後の一言を告げる。
「まぁ、俺から言えることは一つだ。……あばよ」
そして男はナイフを一気に引こうとした。その時少女は願った。
"神様! どうか助けて!"
普通なら届かない願い。しかしこの時は別だった。
"パァンッ!!"
突如何かが破裂するような甲高い音が聞こえた。そして一瞬感じる風の勢い。その瞬間、胸元をつかんでいた力が抜け少女は勢いよく地面へとしりもちをついてしまった。
何事と思い少女はあたりを見渡す。そこには先ほどまで少女を殺そうとした男が腕を抑え倒れこんでいるという衝撃的な姿があったのだ。そして少女がそれを見た瞬間、またしてもあの破裂音、しかも今度は連続して起きた。そしてそれは起きるたびに一人、また一人と男たちを吹き飛ばしていく。それを見ていた無事な男たちは恐怖を覚え一歩も動けずにいるもの。逆に警戒を強め、持っている武器を構えるものなど様々だった。だがそれもあの音が鳴るたびに倒れこんでいく。
そして数が数人なったころ状況が変わった。突如茂みから斑模様の、少女には見たこともないような服装をした男女数人の集団が、見慣れる物を構えながら男たちに向かっていったのだ。
彼らは持っていた不思議な形をした杖を構える。すると先から一瞬光ったかと思うと先ほどから聞こえた破裂音とともに煙が立つ。するとそれと同時にバタッとまた一人の男が吹き飛ばされていく。
"これは何…。なにか魔法でも使ったの…?"
そう少女は考えていると未知の武器を使う集団の中の一人がこちらに駆け寄ってきた。
"この人も私を殺すの…?"
少女はそう思ったが男は少女を抱きかかえると必死な声でこう叫んだ。
"おい! 大丈夫か! おい!"
必死な表情で呼びかける男。少女にとってはわけがわからないめまぐるしい状況の中、彼女は思った。
"助かったの…"
そう思いながら少女の意識は暗闇に落ちていった。
ヤマトたちは長く続く森の中をそれぞれ観察をしながら進んでいた。全員が森林迷彩へと変更し周囲に溶け込むような姿となっていた。
森は人の手がそれほど入っていないのか、ひざまで伸びきった草や地面にまで伸び出た根っこなどが大和たちの進行を阻んでいた。そんな道を大和たちは黙々と歩いていく。彼らにも疲労が見えてきた、そんなときだった。ヤマトが持つ無線機から突然通信が入った。
『聞こえますか、隊長。こちら第四中隊、長谷川です』
ヤマトはそれに気づくと喉もとの無線通話機のスイッチを入れる。
『ああ、聞こえるぞ。何があった』
『はい。先ほど無人偵察機を打ち上げ上空を偵察していたのですが、隊長たちの付近で数十人の人らしき熱源を確認しました。そちらに偵察機を中継してデータを送ります』
それから数秒後、ヤマトが手に持っていた端末に上空に打ち上げていた偵察機からの赤外線映像が届く。そこには1個の熱源に対し数十個の熱源が追いかけている。それらしき様子が映し出されていた。
『どうやら何か起きているようだな』
『はい。今現在ここで何が起きているかわからない状況です。隊長たちは警戒をお願いします』
『了解した。通信終わり』
そうしてヤマトは通信機のスイッチを切ると仲間たちを呼び寄せる。それに従い全員がヤマトの近くに集まると、ヤマトは先ほどの会話と映像を説明する。
「というわけだ。我々は一旦偵察活動を中断。警戒態勢に移行する。行くぞ」
そしてヤマト達はそれぞれ周囲に溶け込めるように隠れると端末の情報から光源が向かってくる方向をそれぞれの銃を構え警戒した。ヤマトは自身の背丈ほどの草の中に身を潜めると開いた空間から前方を確認する。
そしてその数十秒後、数十人からなる大きな怒声と足音が聞こえてきた。
『みんな、来たぞ』
通信機を使い小声でヤマトは手にした89式小銃に付けられたスコープで目標を確認する。やがて映し出される光源の正体。その姿にヤマトは驚いた。
『マジかよ!』
ヤマトが確認したその姿。まずは一つだけ離れていた光源の正体。それはまるでファンタジー世界の貴族が着るようなロングドレスに身を包んだ少女の姿だった。とは言っても歩行を邪魔しないような丈と幅であったが。その姿に強烈な違和感をヤマトは覚えた。
そして何よりヤマトを驚かせたのはその後ろ、何十個からなる光源の正体だった。それらはまるでファンタジー世界で着るような皮製の装備。ナイフに弓矢など、ヤマト達の世界とはまるで違う世界の格好をしていたからだ。その男たちはまるで野生の肉食動物のような目をしており、それもまたヤマトに強烈な違和感を覚えさせた。
『ヤマトちゃん…。私たちいつから別のVRに入ったんだっけ…。ソフト入れ替えた?』
『安心しろメグミ。俺たちが今やっているのはTOWだ』
ヤマトはそう言って望遠機能を少女のほうにロックする。どうやら武器らしきものを持っているように見えなった。
(どういうことだ。このゲームには戦闘中にNPCの民間人が登場しないようにしてあるはずだ。スパイ? にしては姿がおかしい。民間人を登場させることにしたのか? それに彼らの服装。本当にRPGの世界にでも迷い込んだか?)
そう考えていたときだった。急に少女が勢いよく倒れ転がり、木のほうに背中を打ちつけたのだ。少女は立ち上がろうとするが怪我をしたのかうまく立ち上がることが出来ない。その背後から男たちが先ほどとは違いゆっくりと歩いてきた。獲物を視界に捕らえたトラのように。
『兄さん。民間人らしき人物が危険にさらされています。どうしますか』
スナイパーとして茂みに隠れていたユイが俺に無線で話しかけてきた。たしかにこのままではあの民間人は…。
ヤマトは男が少女に向かっているのを確認した。
『確かにまずいな。だが念のためだ。ここの情報を調べるためにも襲っているやつらも生かす必要がある。全員、弾丸を非殺傷弾に変更。ユイ、狙撃を頼めるか。一番民間人に近い男を狙ってほしい』
『了解。射撃に入ります』
『他はユイの発砲を合図に各個に射撃を取れ。絶対に民間人らしき人物には当てるな』
ヤマトはそう言って持っていた銃を構える。敵が近いためスコープは使わず、ドットサイトに切り替えた。
ヤマトたちがそうしている間にも事態は進んでいく。男は少女の胸倉をつかみ自身の顔まで持ち上げるとなにやら話を始めた。そして男は持っていたナイフを少女の首元に突きつけた。狙うは今しかない!
『よし、撃て!』
ヤマトがそう号令を発すると同時、ユイが狙撃を開始、破裂音と共に放たれた弾丸はまっすぐと男がナイフを構えていた手へと命中した。突如与えられた強烈な衝撃に男はなすすべもなくナイフを落としてしまう。
それと同時にまたユイが放った弾丸は男のわき腹へと命中、軽く男を吹き飛ばしてしまった。
それと共にその場にいた隊員全員が一斉に攻撃を開始した。目標へ正確に射撃を加える彼ら。あっという間に戦える男たちの数は激減し、すでに10人前後しか残されていなかった。
「よし。これより少女の救出に当たる。突撃!」
そう発するヤマトの号令に了解とおのおのから無線が入る。そしてヤマト達は今までいた場所から一斉に身を乗り出し、男たちに最後となるであろう攻撃を加えていく。
わけもわからない攻撃に次々と仲間がやられ逃げる考えすら思わないほどに動転していた彼らに、突如現れた謎の服と装備を着たヤマト達の姿はもはや恐怖としか思えなかったはずだ。一人、また一人と逃げ出していく。
ヤマトはその追撃を部下に任せると一人、少女のところへと駆け寄る。すぐにヤマトは少女を抱きかかえると彼女の耳元で呼びかけた。
「おい! 大丈夫か! おい!」
すると少女は少し身じろぎしたかと思うとカクンと倒れてしまう。慌ててヤマトは端末の簡易生体スキャンで容態を確認してみる。
(…どうやひどい疲労と軽傷以外、異常は見当たらない。単に緊張の糸が切れて眠っただけか)
ヤマトは俗にいうお姫様だっこで少女を持ち上げると少し離れた安全な場所で少女をおろした。そして隊員全員に通信を入れる。
「各員、少女の救出に成功した。追撃は中止。警戒態勢に移行する。各員異常の有無を点検した後、戦闘不能にしたやつらを捕縛してくれ。尋問にかけてみる」
そしてヤマトは指揮所へと通信を切り替える。
「HQ、こちらヤマト。さっきの戦闘はモニタリングしてたろ。急いで応援をよこしてくれ。ついでに逃げたやつらの探索もだ」
『了解しました。1個中隊でそちらに赴きます。探索には偵察活動についてる無人機を1機向かわせます』
「了解だ。通信終わり」
そしてヤマトが通信を切ると同時にユイとメグミ、そして第5小隊長がヤマトのほうへ駆け寄ってきた。そして第五小隊の隊長が報告を行う。
「報告します。第5小隊、人員・装具・火器異常なし。捕縛も完了しました」
「わかった。それじゃ応援が来るまで警戒しつつ待機だ。以上」
こうしてヤマト達黒兵団の異世界初めての戦闘は幕を下ろすのだった。