プロローグ2
数日後、ヤマトは部隊の基地へと戻っていた。この基地は周囲約12kmとかなり広い空間となっており、さらにその外側が市街地になっているのが特徴である。
ヤマトはその基地の中、自室である大隊長室で革張りの椅子に腰掛け机の上にあるあの謎のアイテムを眺めながら考えていた。その部屋はさすが部隊長室らしく応接室もかねているため革張りのソファーが対面に置かれ、床にはカーペットが敷かれている。
ヤマトはふと思い出したように手元にあるノートパソコンを操作し情報を確認する。各部隊からメールで報告された内容を確認するためだ。
あのアイテムだが、まだ起動させずにいる。新しいバトルフィールドとの事だ。何かしらイベントがあるはずなので出来れば部隊全員がいるこの場所で展開したいと思ったからだ。そのため各部隊に時間の調整を行い全PCがログインできるタイミングを整えていた。そして明日、全部隊の準備が整うとのことだ。
さて、ヤマトがメールを確認していると突然、部屋のドアがバタンと大きな音を立て開けられる。何ごとかとヤマトがドアを見るとそこから一人の少女が勢いよく飛び出してきた。
「ヤマトちゃーん!!」
そうかわいらしい声を出しながらヤマトに飛びつく少女。きれいな金髪ロングヘアー、同じ色をした愛嬌のある瞳はまるで猫のようにかわいらしい印象を受ける。そんな少女は小学生と思わせる体格であり、凹凸のない体にぴったりと張り付くハイレグ風の服装。その上には戦闘服の上衣とガーターベルト風に改造された戦闘服の下衣を着ている。
そんな少女に抱きつかれたヤマトはその衝撃にバランスを崩し椅子ごと床に倒れこんでしまった。幸い床は絨毯のためたいした衝撃は来ない。しかしそれによりヤマトは少女に覆いかぶされる格好となってしまった。
「久しぶりー、元気だった!! メグミちゃん華麗に登場だよ!!」
そう言いながら少女、メグミはヤマトの胸に顔をうずめる。美少女に抱かれるという(男にとっては)うれしいシチュエーション。しかしヤマトはそんな状況にいやそうな顔をしながら話しかけた。
「いつっ…。あのな、メグミ。悪いが離れてくれ。アレが当たってる」
「あててんのよ、うりうりっ!」
そう言って彼女はにやりとした表情で自身の下半身をヤマトの下半身に押し付ける。そんな少女の姿に彼は右腕を思いっきり少女の股に伸ばすと"それ"をつかんだ。
「お前な…。いい加減にしないとこれを引きちぎってリアルと同じ性別にしてやるからな!! てか、何大きくしてるんだ!!」
「いやん、そんな風に触られたら気持ちよくて出ちゃうよー!!」
この会話でもうお気づきだろう。彼女、いや、彼は男である。その証拠に彼の下半身は微妙に膨らんでおり、ヤマトのつかんでいる手には小ぶりだが男の象徴があるのが確認できるはずだ。
ヤマトはしかたなく物から手を離すと彼を抱きつかせたまま立ち上がり強引にメグミを引き剥がす。するとメグミは残念そうな顔をし、身なりを正すとヤマトに言った。
アバター名、メグミ。現実世界では彼と同級生の間柄であり同じサークルのメンバーでもある。ちなみにリアルでは女性だ。なぜそれが男(男の娘だろうか)のキャラでプレイしているのか。本人が言うには趣味とのことだが…。
「もう終わりなの。せっかく気持ちよくなってきたところなのに…」
「ハァ…。まぁいい。用件は何だ? メグミ」
ヤマトが呆れたようにそう言うと、メグミは忘れていたことを思い出したようだようで、彼女は笑みを浮かべながら言った。
「ごめん、ごめん。久々にゆっくり会えてうれしいからはしゃいじゃったよ。それじゃ、はいこれ」
そう言ってメグミはどこからともなく液晶タブレットを取り出すとヤマトの前に突き出した。そこにはリアルで見たら頭が痛くなりそうなほどの金額が書かれたデータがびっしりと映し出されている。
「まだ払ってない今回の戦いの総費用。ちゃんと払ってよね。あんまり遅いと契約を解除しちゃうからね」
そう言えばライトニングに支払う報酬を払っていなかったな。そう思い出したヤマトは、
「すまない、ちょっと立て込んでいてな。今払うから勘弁してくれ。今ライトニングと契約を打ち切られたら大変だからな」
そう言ってヤマトはデータを仕舞うとパソコンから振込みを行う。その様子を見ていたメグミだったがふと机にあるアイテムが目に入る。このゲームではあまり見かけないタイプのアイテムに彼女は興味を持ったらしい。彼女はアイテムを指差しながら言った。
「ねぇ、このアイテムは何? 木製の鍵なんて珍しいものじゃない?」
その言葉にヤマトは思った。まだこいつには説明してないし、話してみるか。そう思い彼はこのアイテムを手に入れた経緯を話した。
「それはだな…」
そして数分後。話を聞いたメグミはむぅと顔を膨らませた。そして膨れた感じでヤマトに言った。
「なんで私をのけ者にするのさ。これでも相互契約を結んでいる中なんだよ。仲間に加えてもらっても良いじゃない」
「すまんすまん。そこまで興味を持つとは思わなかった。だが良いのか。部隊を離れても」
「大丈夫だよ。あの作戦の後は部隊のみんな好きなことしてるし。私も久々に陸戦で経験値を稼ぎたいからね」
さて、そんな風に話をしていると、メグミが突撃してきたせいで開けっ放しになっていたドアから俺の知っている声が聞こえてきた。
「兄さん。会議の時間ですよ。各部隊長全員集合したのですが…。メグミさん、来ていたのですか…」
「あっ、ユイちゃん久しぶり! ちょっとこっちの都合で来ちゃったんだ。それで物は相談なんだけど…」
そうしてユイに事情なんかを話したメグミも作戦に加わることとなった。
次の日、ヤマトたちは個人装備一式を用意し、この基地で一番広い場所である広場にいた。ちなみに彼らの装備は自分が使いやすいようにカスタマイズされており、ヤマトは89式小銃を改造したもの。ユイはロシア軍のSVD、メグミはMP7。それに全身が黒の戦闘服にヘルメットを着用。ヘッドマウントディスプレイ内蔵型の特殊ゴーグルにこれまた黒の装具セットを取り付けていた。
普段は運動場として使用しているそこでは、黒兵団の主力戦車である10式戦車改や装甲戦闘車などの戦闘車両及び各種弾薬など補給物資や機材を積載したトラックなどの後方支援車両、そして全隊員が集合していた。全員が新たなイベントに一喜一憂している状態であり、早く開いてくれとヤマトたちに向かって祈っている。
ヤマトたちはその広場中心へ向かう。そしてその場に立つと周囲を見渡して話し始めた。
「さて、これから俺たちは新たなフィールドへと足を踏み入れることになる。運営が事前にほとんど情報を与えなかった場所だ。どんな困難が待ち受けているかわからない。だが俺たちなら乗り越えていけるはずだ。この黒兵団なら!」
そしてヤマトはアイテムを取り出すと思いっきり叫んだ。
「ゲート、展開っ!!」
そしてそう叫んだ時だった。突如ヤマトの地面が青く光り輝くとヤマトを中心になにやら不思議な模様が展開していった。そして展開していった模様、それはRPGに出てくるような魔法陣だった。そしてそれが全部書き終わった瞬間、それは先ほどよりも強烈な光を発する。そしてヤマトの手に持っていたアイテムも反応し同様にまばゆい光を放ち始めた。
「なっ、なんだこれは!! って何!!」
そしてアイテムは勝手にヤマトの手から強引に離れると一気に上空へと舞い上がる。そしてそのままの勢いで一気に落下してきた。見上げていたヤマトは急いで前転してよける。さすがにあれほどの高さから勢いよくきたものに当たったら怪我どころではすまない。
アイテムはそのまま地面へと突き刺さる。よく見ると魔法陣の中心には鍵穴らしきものが描かれておりそこにアイテムが刺さったのが見てわかった。アイテムはそのまま鍵を開けるように回る。その時ガチャリと大きな音が響くようになった。するとそこからさらに不可思議な光景が目に入ってきた。
光り輝く魔法陣。そこから長巨大な扉が地面から生えるかのように現れたのだ。輸送機でも楽に入りそうなほどの大きさの扉は古臭い木製のデザインをしておりそれがまたこの世界とは異質な雰囲気を漂わせている。
すべてをあらわした扉。それと同時に魔法陣はそのまま光が消えていきなくなってしまった。後に残されたのは謎の扉、ただひとつだけだった。
「なんじゃ、こりゃ…」
誰しもが唖然とした。いつからこのゲームはファンタジーになったんだ。そう思っているのも中にはいた。ヤマトもその一人であった。しかし現実にこれは存在していた。
「兄さん! 大丈夫ですか!」
「ヤマトちゃん! 大丈夫!!」
ヤマトが呆然と扉を見ていると近くにいたユイとメグミがあわてた表情でそばに駆け寄ってきた。それに続いて衛生科の隊員も手持ちの医療セットを持ってやってくる。
「ああ、大丈夫だ。それにしてもなんだ、これは…」
大和は立ち上がり埃を払うと改めて扉を見渡した。重厚感あふれるその扉は見るものを圧倒させていた。ふと大和は情報が更新されていることに気づいた。すぐにPDAを操作して最新情報を出現させる。そこには以下のことが書かれていた。
『アイテム起動ありがとうございます。この扉は現時点ではアイテムを起動した人にしか開くことができません。開くに『オープン・ザ・セサミ』とコールしてください』
「また運営からか。まぁいい、言ってみるか。『オープン・ザ・セサミ!』」
ヤマトがそう叫ぶとドアはゆっくりと木がこすれるような音をたてて開き始めた。ドアの隙間からはまばゆいばかりの光があふれ出す。大和は腕で目を隠しながらドアを見続けた。そしてドアは完全に開放される。大和はゆっくりと腕をおろしドアの向こうを見た。そこにはまたしても信じられない光景が広がっていた。
澄み渡った青空。一面に広がる草原とその奥には森林の姿。まるでどこかの高原地帯にいるかのような幻想的な風景。それがドアの向こう側に広がっている景色だった。