プロローグ
初めまして、変態紳士といいます、これは以前ハーメルンで書いていた小説を再編集。再構成、タイトルも変更したものになります。順調に行けばハーメルンでも再掲載しようかなぁと考えています。
プロローグですが異世界要素はありません。次ぐらいからになると思いますのでよろしくお願いします。
西暦20XX年、ひとつのゲームが世界を変えた。VRを利用した新しいネットワークシステムである。人とゲーム機を神経上で直接つなげ、ゲームの中をまるで実際の光景のように体感できる。また、脳への体感を調整することにより時間の概念も変えてしまう。たとえばリアル世界1時間をゲーム中だと1週間と体感させてしまうほどだ。
このシステムは瞬く間に世界へと普及することとなる。そしてそれは多くのVRゲームを生み出すこととなった。
たとえば剣と魔法の物語。恐怖とパニックの物語。恋と青春の物語。そんなさまざまなゲームが登場しては消えていく中であるひとつのゲームが人気の一角となっていた。
「テイル・オブ・ウォー」
戦場を舞台とした多人数参加型大規模戦争シミュレーションだ。架空の世界を舞台にプレイヤーは一人の兵士となって戦争を戦い抜いていくゲームだ。一人で戦うも良し、独自の部隊、傭兵会社を設立して戦うも良し。陸海空すべての兵器に搭乗できるなど自由度の高い戦い方が楽しめる。また登場する兵器も現実にあるものに加え、プレイヤー自らも開発することが可能となっている。リアリティーも高く、各国の軍がこれを訓練用として正式に採用しているほどだ。
そんなこのゲームだがあるひとつのうわさがあった。
「このゲームは異世界とつながっている」
うわさの出所は分からない。いつの頃かゲーム内でうわさされるようになったのだ。もちろん運営はこのうわさを否定している。だがこのうわさは今でも語り継がれているのだ。
そんな世界であるひとつの物語が始まる。それはとある戦場から始まった……。
とある小規模な孤島に建てられた巨大な建造物。超大型の砲身を備え、多数の冷却装置や稼動する防衛用の装備を備えたそれは、最初隕石迎撃用に作られた巨大レールガン発射施設であった。しかし今ではここをテロリストが占拠。各国に対しての破壊活動を行う拠点となっていた。レールガンはその威力を存分に見せつけ、今なお多数の都市がその攻撃で大きな被害を生み出している。
そんな場所で今、大規模な戦いが繰り広げられていた。海では多数の艦船が海上の敵、そして味方の援護のために砲撃を続け、空では何百もの戦闘機や攻撃機や爆撃機、そして軍用ヘリが空を舞い、地上では戦車や装甲車、はては大型ロボット、そして歩兵部隊が施設を占拠するために戦いを繰り広げられている。
そしてそんな中、この施設の重要区画である地下施設を占拠するべく、1大隊規模の部隊が施設を駆け抜けていた。各々の武器や装備はそれぞれ違うが共通の部隊章が彼らが共通の部隊であることを示していた。
そんな彼らを妨害しようとテロリストたちが通路から飛び出し射撃を行う。中には空中を飛び回るドローンが味方に対して特攻を仕掛けたりする。しかし彼らは冷静に反撃に移る。
同行していたゴリラのような体系のパワードスーツが前に出ると小銃の攻撃を身を以て防ぐ。そして手にした12.7mm機関銃を両手もちで構え放った。あっという間に肉片も残らなくなるテロリスト。そしてその陰からも味方が小銃でアシストし制圧を行った。
1分にも満たずにそこを制圧すると、彼らは周囲に散っていた敵兵を撃破すると周囲を警戒していった。
「HQ! こちらチームK-1。現在A-3ポイントを占拠完了!」
そんな中、一人の歩兵がヘルメットに付けられた通信装置を使いHQに連絡を取る。年は20代前半ぐらいだろう。日本人らしい顔つきに蛇というべきだろう鋭い目つきをしている。
『了解しましたK-1。後残りはA-1ポイントのみです』
「良し。これで首謀者を確保すればこの戦いは終わりだ! みんな行くぞ!!」
そう彼はほかの皆に聞こえるように叫ぶ。その声にほかの隊員も了解と大声で返事をした。そして彼らは引き続き警戒を続けながら通路を駆け抜けていった。
上空でも戦いは繰り広げられている。常に攻守が入れ替わるドックファイト。普通なら撃破されるミサイルの軌道をこれまた異常な機動で回避する戦闘機たち。そんな中にこれまた異常な機動を行う戦闘機たちがいた。機種はF-15J、そのエンジンをF-22の形に変化させたその機体は推力変更ノズルを利用し、巨大なレールガンに備え付けられた多数の機銃やミサイルで作られた弾幕を次々と回避する。
ほかの機体も同じように弾幕を回避しながら彼らはレールガンへと近づいていた。レールガンは今にも発射をしようと多数の発電機が稼働を始めており、多数の冷却装置がその稼働を支えるためにフル稼働していた。
「HQ。こちらライトニング1。これよりライトニング隊はレールガン破壊を開始するよ」
そんな中にいる一機の機体がHQに通信を送る。その姿は小学生かと思われるもので、強いGに耐えれるのかと思うほど華奢な体をしていた。そのかわいらしい声からして女の子だろうか。
「わかりました。ライトニング1。まずは冷却装置を破壊してください。そうすれば発電機は熱に耐えられなくなり暴走。レールガンの発射はできなくなります」
「了解!」
そして攻撃が開始される。それぞれの機体は四方八方に散らばりそれぞれに散らばった冷却装置に向かっていく。しかしそれを妨害しようと多数の戦闘機が攻撃を仕掛けてきた。
「ちっ! しつこい男は嫌われるよ!!」
彼も又エースと思わしき特徴的な塗装をしたF-22に狙われていた。しかし、それもつかの間、別の味方の機体F-35が同じく背後と取りミサイルを放つ。放たれたミサイルはF-22に命中、撃破した。
「グッドキル!!」
そう通信で返すとその機体は左右に翼を振り返事を返す。あまりしゃべらないのだろうか。そのまま機体は別の敵を狙いに行こうとするがその瞬間、どこからともなく飛んできたミサイルに命中、火災が発生した。
そのまま撃破されそうな時、初めてその機体から声が発せられる。
『アルファ1、イジェーークト!!』
その言葉と共にコックピットガラスが吹き飛びパイロットが放出された。……その言葉から彼は無事だろうとライトニング1は思い、そしてそのまま攻撃を続行した。
レールガンの攻撃はいまだ続き砲撃により発せられた衝撃波は近くを飛んできた味方や敵を関係なく破壊する。そんな状況下でもライトニング隊、そして数多くの味方の支援で冷却装置は破壊されていく。そして最後の一機を破壊した時、レールガンはその活動を止めた。
「やった!!」
ライトニング1はそう喜ぶ。ほかの味方達にも歓喜の声を上げていた。これで終わった。そう思われていた。
だが地上では最大の試練が降りかかろうとしていた。
「ちっ!! まさか最後にこういうのが残っているとはな」
そうK-1は最後に制圧した指令室でそうつぶやく。何人かいたテロリストたちはすでに死亡しており、そしてそこいたはずのテロリストの指導者はすでに事切れており、その場には最後の悪あがきとばかりに最終プログラムに移行したと表示されたコンピューターが残されていた。
「こちらK-1。最悪の事態だ。テロリスト首謀者はすでに死亡。レールガンの発射停止だが不可能だ。レールガンが壊れるまで放つのを止めない最終プログラムになっている。システムの停止も行えなくなっている」
『……了解、K-1。それでは撤退してください。すぐに巡航ミサイルで撃破を』
「いや、俺たちはこのまま地下の発電施設を破壊する。発電施設さえ破壊できればレールガンの発射を止められるかもしれない」
『……分かりました。K-1はこのまま発電施設の破壊を行ってください。どうかご無事で……』
「ああ。わかった」
K-1はそう言うと通信を切る。その前に通信からちょっと! と呼ぶ声が聞こえたが無視をした。
「よし、これから発電装置を破壊する。行くぞ!!」
そうして彼らはこの地下にある発電機を破壊しに地下へと降りていった。しかし彼らの予想に反し、戦いは予想外の展開を迎えているのだった。
「まだこんな手を残していたの!!」
そんな風に悪態をつきながらライトニング1は荒れ狂う弾幕を回避していく。その弾幕を発しているのは10機もある大型の巨大兵器だった。まるで5階建てのビルにも匹敵するような巨体は4本もの厚い装甲に守られた巨大な足で立っていた。そしてその兵器は足の上部に取り付けてあるレーザー発射装置を使い地上、そして空中の敵に攻撃を仕掛けていく。
また地上では大量のドローンが放出され地上部隊を襲っていた。多くの兵士がドローンの猛攻に耐えられずに倒されていく。そして地上兵器も対応に四苦八苦されていた。
そんな状況でレールガンは姿を変える。放熱を行うためなのかレールガンの砲身が上下に開かれ、そしてところどころの装甲版が吹き飛ばされる。そこからは大量のタービンが現れ空気を取り入れたのだ。
そんな状況の中HQから全部隊に通信が入った。
「こちらHQ。作戦はプランBへ移行する。すでに首謀者は事切れており、発射プラグラムは最終段階へ移行された。レールガンを破壊しない限り砲撃はやめられることは無い。衛星からの情報によるとそばにあるタービンが冷却装置の役割を果たしているようだ。だがその護衛にあの大型兵器が周囲を守っている。全部隊は早急にタービンと大型兵器を破壊せよ」
「了解! ライトニング隊、行くよ!」
ライトニング1がそう叫ぶとほかの隊員たちも了解、と返事を返した。そして彼らとほかの味方達は上空から急降下で大型兵器を狙った。そして大型兵器もそれを破壊しようと重火器をライトニング隊へと向けた。
そんな状況の中でK-1率いるチームも、最後まで抵抗するテロリストやドローンを排除しながら発電装置へと到着した。装置は限界まで発電を続けており大量の熱を発し続け轟音を響き渡らせている。
「HQ、こちらK-1。発電施設に到着」
そうK-1は通信を行うがつながらない。どうやら発電施設から発生する大量の磁気が通信を阻害するようだった。
「通信がつながらないか。まぁいい。工作兵、C-4を設置してくれ」
そうK-1が言うとチームの一人がC4を持つと発電機に次々と設置していく。そして最後のC4が設置された。
「C4設置完了!」
そう工作兵の一人が叫ぶ。それを確認したK-1が撤退の指示を出そうとしたその時だった。突如天井が破壊されるとパワードスーツをきた兵士が落ちてきたのだ。突然の事態にK-1達はあわてる。
そんな様子をしり目にそれは持っていたミニガンを構えるとところ構わずに放ったのだ。荒れ狂う弾幕、それにより何人かの味方が犠牲となる。すぐにK-1が散開を指示すると持っていた89式小銃を構えミニガンに向けて放った。本体を狙うよりも攻撃できないようにすることが重要だと考えたからだ。
甲高い発砲音と共に放たれた5.56mm弾はミニガンに命中。大きく損傷し破壊された。しかし敵のパワードスーツはすぐにそれを放り投げるとまっすぐK-1に突進してくる。そのスピードは搭載されたブースターによりすさまじく、K-1は対処する間もなくあっという間に組みつかれてしまう。
「くっ、放せ!! このっ!!」
K-1は必死に振りほどこうとするがパワードスーツの力はすさまじくびくともしない。そしてそのままパワードスーツは腕に搭載されたナイフを構えるとまっすぐと振りほどこうとする。まさに万事休すだった。しかし……。
「兄さん!!」
その言葉が響くと同時に強烈な炸裂音が発せられる。その瞬間、パワードスーツの頭部は残らずに吹き飛ぶ。そしてそのまま倒れ込んでしまった。K-1がその炸裂音の発せられた方を見るとそこには一人の女性兵士が大型のアンチマテリアルライフルを構えていた。その姿は雪のような白銀の腰まで届くロングヘアーの髪。コバルトブルーの瞳とやや釣り目の顔つきは凛とした印象を与えるとともに相手を魅了する美しさがあった。
そして兵士としてベストというべきかスラッとしたバランスの取れた体つきは同時にモデルのような美しさをあらわしている。そんなある意味で兵士としては似つかわしくない彼女はK-1と同じような装備に身を包んでいる。
K-1は覆いかぶさってしまうことになったパワードスーツの兵士の亡骸を力いっぱい持ち上げ空いた隙間からはいずり出る。そして軽く埃を落とすと彼女の方に向かい合った。
「よっと…。すまないなK-2。助かった。しかしお前の部隊は撤退の指示を出したはずだが?」
「私だけこっちに来た。部隊の撤退はすでに完了している。安心して」
そうK-2は少しだけ胸を張る。その様子にK-1は少し呆れながらも周囲を見渡す。幸いにしてまだある程度の味方は残っていた。そんな彼らにK-1は撤退の指示を出す。
「良し、全部隊撤退するぞ。C4は時限装置とセンサーの両方をセットしておけ。行くぞ!」
その言葉に全隊員は了解、と返事をする。そして工作兵がC4に設定をすると同時に彼らはその場を後にする。そしてそれから3分後、大規模な爆発音とともにその施設は跡形もなく吹き飛ぶのだった。
レールガン周囲での戦いも大詰めを迎えようとしていた。護衛をしていた大型兵器も残り一機のみとなり、レールガンに残された防衛装置、そしてタービンも残り一機となった。
しかしまだ厄介なことに、最後の大型兵器の中心部には巨大で威力が高いレーザー発射装置が残っている。どこからそのエネルギーが残っているのか、それらを左右、そして上下に振り回して攻撃する。その攻撃により回避できず墜落した機体も数多く存在した。しかも最悪なことにタービンはその大型兵器の真下にあったのだ。
「ライトニング1、ミサイル残弾なし……。機銃も残り500発……」
ライトニング1は計器を確認しながらそうつぶやく。その額には焦りの色が見えていた。
ライトニング隊の仲間も全員が撤退しているか地面へと落とされてしまっている。その間にも攻撃は続き今もまた一機の機体が地面へと叩き落されてしまった。
一時撤退して補給を受けるか? いや、そんな時間も猶予もなかった。すでにレールガンの発射予測時間はわずかと迫っている。すでに数発を撃たれてしまい、またいくつかの都市が大きな被害を受けてしまった。これ以上被害を増やすわけにいかない。
その時ライトニング1は一つの決断を下そうとした。
「ライトニング1、フォックス4」
フォックス4。それは主に特攻を意味する言葉として使われている。ライトニング1はそれしかない、と思いスロットルを全開にする。だがその時だった。突如発電施設から巨大な爆発が起きたのだ。そしてそれが引き金となりレールガンにも爆発が起きる。どうやら発電施設の爆発により放熱が出来なくなったのだろう。レールガンも爆発によりその身を崩壊させることになった。
そして広域回線に無線がつながった。
『ライトニング1、発電施設を破壊完了。レールガンは破壊した。繰り返す、レールガンは破壊した』
突如何者かが通信を入れたのだ。そしてその声にライトニング1は聞き覚えがあった。
「そこ声、ヤマト!!」
『残るはそこで防衛している巨大兵器のみだ。だがあれは俺達が片付ける。後のみんなはパーティの準備をしておいてくれ』
そう巨大兵器の近くにあるコンテナに隠れながらK-1、いやヤマトは通信をしていた。その隅でパワードスーツを着た兵士が集まって何かを組み立てていた。
「隊長、準備できました」
すると一人の兵士がヤマトの下に駆け寄ってきた。その手にはロケットランチャーを持っている。
「ああ。よし、行くぞ!!」
その言葉を聞いてヤマトは命令を出す。コンテナから飛び出した彼らはまず持っていたロケットランチャーで巨大兵器の足を狙う。一つ一つの足に取り付けられた防弾版が破壊されて内部の機構をあらわしていく。しかし巨大兵器は取り付けられた対人装備を使って反撃する。いくつも取り付けられたミニガンは大量の弾丸を放っていく。
「ちっ、アイアン!! あれをやれ!!」
そうヤマトが命令すると、パワードスーツを着た兵士が前に出る。その手には一般の兵士とは違い大型のロケットランチャーと炸裂弾頭を放つ大型の重火器を持っていた。それらを使い彼らは巨大兵器を丸裸にしていく。そしてヤマトは次の命令を出す。
「工作兵、C-6だ!! やつの足にありったけ貼り付けろ!!」
それを聞いた工作兵は起爆装置がすでに取り付けてある小型爆弾を取り出す。そして一気に巨大兵器の足の一本にそれを貼り付ける。
「設置完了!!」
「良し、アイアン、ヒートマインだ!!」
そして次はパワードスーツの兵士が持っていた火器で何か細かい物体を発射する。それは巨大兵器のところどころにあたりくっついた。
「ヒートマイン設置良し!!」
「良し!! 離れるぞ!!」
返事を聞いたヤマトは急いで撤退の指示を出す。大急ぎでその場を離れる彼ら。巨大兵器が残った火器で反撃を行うもののしんがりを勤めるパワードスーツ部隊が盾となりそれを防ぐ。そしてある程度の距離が離れたところで…
「起爆!!」
「了解、起爆!!」
その命令と同時に援護兵が持っていた起爆装置を起動させる。すると巨大兵器の足元から大きな爆発が起こる。それだけではない。爆発と同時に起きた高熱が金属を溶岩のようにどんどん溶かしていく。そしてそれはまるで生き物のように巨大兵器を侵食して行った。ものの数十秒で巨大兵器の大部分は熱で溶かされる。そして自分を支えることのできなくなった巨大兵器はついにバランスを崩し崩壊を始めていった。
「撃破完了!!」
時間はあの戦いから数時間後。ここはとある空母の中、その広い船室の一室を借り切って祝勝パーティーが開かれていた。
そのなかにいたのはあの戦いで発電施設を破壊、最終的な戦いに終止符を討ったあのK-1率いる部隊だ。思い思いに料理や酒に舌鼓を打つ中、K-1と言われた男、ヤマトが声を発する。
「さて、今回の大規模イベント。俺達がMVPに選ばれた。これにより俺達の部隊『黒兵団』はチームランクAに昇格。また得点として運営からの部隊用のプレゼントを受領した。これで俺達もトップチームの仲間入りだ。次のイベントも全力で勝ちに行くぞ!!」
その声に会場にいた全員が声を上げるのだった。
それからまたしばらくあと、ヤマトは自室へと戻っていた。それなりに良い椅子に座りながら酒で酔った体をミネラルウォーターで冷やし、持っていた携帯用端末を開いていた。そこには先の戦闘で得られた報酬などが表示されていた。
「なかなかに良い戦果だな。これだけあれば今回の戦闘で消費した資源を差っぴいてもおつりが来るな」
そう笑みを浮かべ端末を覗いていると扉からノックをする音が聞こえた。ヤマトがどうぞと声をかけると扉が開き、一人の女性兵士が中へと入ってきた。それは先の戦闘でK-2と呼ばれた女性兵士だった。その手にはコーヒーが入れられたカップを持っていた。
「兄さん、お疲れ様。コーヒーを入れてきたんだけどどうかな」
「ありがとう、ユイ。飲ませてもらうよ」
アバター名、ユイ。リアル世界ではヤマトの義理の妹である。女子高生でありながら、兄が好きなゲームだからとこのゲームをプレイし始め、ヤマトと同じく嵌ってしまった者である。普段はクールな装いでいるのだが、兄のいる前なのか、やさしい笑みを浮かべていた。
さてヤマトはK-2、ユイからコーヒーを受け取るとそれを飲んだ。それは自身が良く好む味だった。
「ところで兄さん。今回の戦闘、収益はどうなの。結構弾薬とか資源を消費した感じだけど」
そうユイが言うとヤマトは端末を見せる。
「まぁ、消費も多かったがな。見入りもデカイ。これだけあれば久々に装備の更新や新兵器の生産にも当てられるしな。いやぁ、MVPの実入りって本当にでかいな」
そういっていると端末にメールが入った。メールボックスを確認する。そこにはこんな文章が表示されていた。
『ヤマト様、日ごろより「テイル・オブ・ウォー」をプレイしていただきありがとうございます。
このたびの大規模侵攻作戦MVPを記念し弊社から記念アイテムをお送りさせていただきます。詳しい内容はアイテムに記載されていただきます。それでは今後ともよろしくお願いいたします』
それはこのゲームを運営しているメーカーからだった。ヤマトはメールに添付してあるアイテムをクリックする。すると端末のモニターが光り、そこから何かがあらわれた。
それは古臭い木製の鍵だった。中央には木をくり貫きそこに六角形の形をした紫色の宝石らしきものが埋め込まれている。それはこの薄暗いテントの中でも不思議なほどに光り輝いていた。
「なんだこれ? こんなアイテムこの世界じゃ見たこともない…」
「これ、宝石なのかな? きれいだけどなんかへんな感じがする」
ヤマトは疑問に思いながらもアイテムウィンドウを表示させた。アイテムウィンドウにこう表示されている。
『名称:ゲート。特殊アイテム、用途:その他。説明文…まったく新しいバトルフィールドにご招待します。『ゲート展開』とアイテム使用と同時にコールすることで展開されます。展開時移動用のゲートが広く使用されるのでなるべく広い場所で展開させてください』
ヤマト達が手に入れたアイテム。これが後に大和たちの新たなる戦いへと導くものになるとは、この時の彼らには知る由もなかった。