4、復讐 #3
リーグ=デノンという魔術師がいた。王国のとある貴族の家系に生まれたリーグは、なに不自由なく王国の豪邸で育った。
リーグの生まれたデノン伯爵家は優秀な魔術師を輩出する事で有名な家系だった。その期待に応えるべくリーグは英才教育を受けながらも努力を続け、やがて宮廷魔術師として仕えるほどの魔術師にまで成長した。
そんなリーグには魔術の才能とは別に、もう一つ秀でた才能があった。それは剣術だ。
魔術師として研鑽しながらもリーグは剣の腕も磨いていった。その腕は宮廷騎士としても十二分に通用するほどにまで高められていった。
魔術師というのはどうしても近接戦闘に持ち込まれると対処しきれない場合がほとんどだ。だがリーグの場合、魔術戦と近接戦のどちらにも対応する事が出来る類まれなる存在だった。
ある時そんなリーグの才能が認められ、宮廷魔術師大隊の遊撃部隊長を任される事になった。宮廷騎士大隊にも全く引けを取らないリーグの戦闘力は瞬く間に王国で知られていった。
裕福な貴族の家に生まれながらも努力や研鑽を重ね、圧倒的な力を身につけたリーグは揺るぎない自信に満ちあふれていた。
だがそれも、リネア公国との戦争が始まるまでのことであった。
「あれは……本当に人間なのか?」
思わずそう呟かずにはいられないほど、視線の先の少女は圧倒的であった。一方的にこちらの軍隊を蹂躙していく少女の姿はいっそ悪夢でさえあった。
懸命に自分の部隊が少女に向かっていくも、その眼前に辿り着くことすら叶わず吹き飛ばされていく。
こんな光景、認められるわけがない。このままやられっぱなしではデノンの名が廃る。あの少女を止められるのは自分しかいない。強い決意を胸にリーグは腰の長剣を抜き放ち少女の元へと突き進んだ。
冗談の様な威力の魔術が炸裂する中リーグは必死にかいくぐり、遂に少女の元へと至る。少女が一瞬驚いたように目を見開いてリーグの姿を認めるが、遅い。
振りぬかれたリーグの長剣が少女の喉元目掛けて軌跡を刻む──が、甲高い音を立てて剣が阻まれる。
驚きに目をむくリーグ。その必殺の剣は、少女の手に現れた光の剣によって食い止められていた。
「……貴様、本当に魔術師か?」
「貴方こそ、騎士が紛れているとはね。危ない所だったわ」
少女はそのまま光の剣を振りぬく。予想以上に激しい衝撃がリーグの剣を伝い、リーグは数メートルほど弾き飛ばされた。
あり得ない。魔術師が自分の剣を止めるなど。リーグはただただ呆然とその姿を見つめていた。だがリーグは頬を張り気を取り直すと、毅然とした態度で少女と相対した。
「俺は宮廷魔術師大隊、遊撃部隊長のリーグ=デノンだ。貴様、名は」
「あら、貴方魔術師だったの。私はリネア公国第一王女、レティーツィア=リネア=フィルオーレよ」
名乗りを終えるとリーグは再び剣を構える。この少女に魔術で挑んでもまず勝ち目はない。ならば剣で勝利を勝ち取るしかない。リーグはそう考えレティーツィアに向かって駆けだした。
走りながら詠唱省略で魔術を発動し牽制する。現れた火球がレティーツィアに向かって放たれるが、やはりいとも簡単に阻害されてしまう。
だがその一瞬の隙をついてリーグはレティーツィアに肉薄する。右上段からの袈裟切り。目にも止まらぬ速さの斬撃はしかしレティーツィアの光の剣に弾かれた。
「……甘いわね」
「──っ!」
──おかしい。斬撃が全く見えなかった。
焦りと共にリーグは果敢に斬撃を仕掛ける。だがそのどれもがことごとくレティーツィアの光の剣に弾かれてしまった。
そして数合打ち合った後、レティーツィアの会心の一撃を受けリーグの長剣が弾き飛ばされた。手を離れ旋回しながら飛んでいく長剣を呆然と見やるリーグの喉元に光の剣が突きつけられる。
「魔術師だからって甘く見たわね?生憎、私はお父様に剣術を叩きこまれているの。──あの『剣聖』ダインにね」
「馬鹿な……馬鹿な!」
「剣聖」の名はよく知っている。この大陸で一、二を争う程の剣の使い手がリネア公国の国王、ダインだ。聞けば目の前の少女はそのダインの娘だという。ならば剣聖直々に剣の手ほどきをしていてもおかしくはない。
だが。それでも。年端もいかないこの少女が魔術においても剣術においても自分の上を行っているなど、認められるはずがない。認めてしまえば、自分の存在はこの少女以下の価値だということになってしまう。
そんなリーグの恐れなどまるで知らないレティーツィアは淡々と言い放った。
「魔術師にしてはなかなかの剣の腕だけど……中途半端と言わざるを得ないわね」
まるで頭を鈍器で殴りつけられたかのような衝撃がリーグを襲う。剣も魔術も使える自分は間違いなく唯一無二の存在だったはずだ。だがそれは驕りだったのか。レティーツィアの言う通り自分は半端な未熟者だったのか。
目の前が真っ暗になるリーグ。レティーツィアがそのままリーグの意識を奪うまでそれほど時間はかからなかった。




