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「おおエメロッテ、父は心配で心配で胸が張り裂けそうだったぞ!」
「ふーん。それよりもお父様。約束通り取ってきたわよ、卵」
感極まって両手を広げて抱き着こうとする町長さんことダレンさんと、その娘であるエメロッテさんとの温度差が酷い。
中年特有のたるんだお腹にぐいっと卵を押し付け、どう? と言いたげなドヤ顔だ。それにしてもこの親子、全く似てないな。
エメロッテさんは肩くらいまでの長さの躍動感溢れるふわっふわのピンクっぽい茶髪で、ダレンさんは前進しすぎて肌色面積が多い不毛地帯のこげ茶色。
それに目も猫みたいな金色の大きな瞳と、たれ目がちのこげ茶色とこれまた違う。
口元と鼻……をよく見れば形が似ている。でもやっぱり似てない。お母さんに似たのだろうか。エメロッテさんがこれだけ美人ならお母さんもさぞ美人さんなんだろう。
ナナリーが清廉潔白で、エメロッテさんは天真爛漫と言った表現が最も適切ではなかろうかと二人を見比べて一人納得する。
そんなことを思っていると、腹に卵を押し付けられたダレンさんがぎょっと目を剥いた。気になってたけど、あれは何の卵だろ。飛竜の巣から出てきたことから察するに、飛竜の卵なんだろうとは思うけど、あんな危険を冒してまで取りに行く必要があったんだろうか。
「な、ひ、飛竜の卵……⁉」
「約束、覚えてるわよね? 飛竜の卵を持ってくれば好きにしていいって。ねぇ、セバス?」
「確かに旦那様はそう仰いましたが……何も棘翼火竜の巣に単身で、それも裸同然の装備で向かわれるなど誰が思いますか。咆哮が聞こえた時は肝を冷やしましたよ、全く……」
卵を抱えて激しく狼狽しているダレンさんを他所に、援護を求めたはずの相手から呆れながら説教を頂戴するとは思っていなかったのだろうエメロッテさんは、いいですか、そもそもお嬢様はいつもいつも……とお説教モードのセバスさんから顔を背け、両手で耳を塞いであーあー聞こえなーいと逃げの体勢だ。
完全に蚊帳の外の僕たちはどうすることもできず、ただ成り行きを見守ることしかできなかった。
と、そこで卵をしかめっ面で凝視していたダレンさんが僕たちの存在に気付いたので、二人してぺこりと会釈する。
「ぬ? お主らは?」
「あ、ギーグの卵を持ってきました。フサオ・キワタです。十ツ星の冒険者です」
「ナナリー・ルミアーデと申します。フサオさんと同じ冒険者、九ツ星です」
「ファッ⁉」
「え、なんであんたが驚いてるの?」
「いや、いつの間に上がったのかと……」
「鋼殻熊討伐の際に、上がったんですけど……」
何で知らないのよと呆れ顔のエメロッテさんと、言いませんでしたっけとナナリーは困り顔だ。言われた記憶がない。あるぇ……僕もしかしてほんと役立たずなのぉ……?
ナナリーよりもランクが下。文字の読み書きも出来ないし、常識も分かってない。あかん、ナナリーの僕へ対する信頼度がマイナスを振り切っている。どげんかせんといかん……。
「そろそろ、よろしいですかな?」
「あっはいすいません」
コホン、とセバスさんが咳払いする。
意識をそちらに向けると、ダレンさんが怪訝な顔で僕とナナリーを見ていたので慌てて頭を下げ、セバスさんに続きを促した。
「私の判断でフサオ様に卵の納品を依頼しておりました。勝手な行動を取ってしまい、誠に申し訳ございません。ですが、お二方があの場にいらっしゃらなければ、エメロッテ様はこうして無事に帰ってこれなかったもしれません」
「なに? どういうことだ?」
「フサオ様が棘翼火竜の前に立ちはだかり、それはもう見事な立ち回りで棘翼火竜を引き付けていただいたおかげで私が間に合ったのです。討伐には至らなかったのですが、追い払うことに成功し、こうして無事に戻ることが出来た所存でございます」
「十ツ星の冒険者がか⁉ ……しかし他でもないセバスが言うのだ、間違いなかろう。だが、ふむ……」
ん、なんだこれだいぶ話が盛られてるぞ? 飛んでくる火球の軌道を死に物狂いで逸らしてただけなんですけど? あれ以外の攻撃来てたら多分僕やられてたと思いますよ?
話が誇張されすぎてると冷や汗を流す僕を尻目に、セバスさんがやけに饒舌に、やや芝居がかった口調で話を続ける。
「宙に投げ出され、硬い地面にその柔肌があわや激突、と言ったところでしょうか。フサオ様が身を挺して受け止めてくださり、エメロッテ様を逃がすと共に勇猛果敢に棘翼火竜に躍りかかりました。いやはや、まさに鬼神の如き働き。このセバス、感服いたしました」
「セバスさんだいぶ盛ってませんか⁉ 超盛ってますよねそれ⁉ 某ラーメンの野菜より盛ってますよね⁉」
「……盛ってないと思うけど。それよりらぁめんって何よ」
「私が言えることじゃないんですけど……無茶しすぎです。……らぁめんって何ですか?」
「ラーメンは置いといて」
何故か二人からダメ出しと突っ込みを頂戴した。とりあえずそれは置いといて、と手前から右へジャスチャーして一呼吸置く。
「あの場で動けるのは僕しかいなかったし、なんて言うか、その……考えるより先に体が動いたと言うか……」
後半何を言ってるか自分でもわからなくなった。ダレンさんやエメロッテさんはともかく、ナナリーとセバスさんの生暖かい視線がむず痒くて仕方ない。
褒められることに慣れてないのでほんとやめて欲しい。穴があったら入りたいくらいの羞恥プレイだ。
僕が悶え苦しんで奇妙な踊りを披露していると、ダレンさんが神妙な顔つきで一度頷いた。
「ふむ……時にフサオ殿、今日の夕食の予定はあるのかな?」
「へっ? い、いえないですけど……」
「なーんか誤魔化されてる気がするけど……まあいいわ。フサオって言ったっけ? 暇なら食べていきなさいよ。セバスの卵料理は絶品よ?」
「おやおや、そう言われては私も張り切らざるを得ませんな。お二方、食べれないものはありますかな?」
訳のわからないうちに話が進み、僕とナナリーは夕食をご馳走してもらえることになった。
正直食費が浮くのはとても助かるけど、見返りを求めてやったわけじゃないからと遠慮しようとしたらエメロッテさんに「何よ、人の厚意を無碍にするつもり?」と何故か凄まれた。やけに迫力があったのでそれじゃあお言葉に甘えますと言ったらそれでいいのよと満足げに笑った。
その笑顔があるものと重なり、びくりと体が震えた。
―――どうして、こんな時に思い出してしまうのか。この人は違う、違うんだと言い聞かせ、体の震えをなんとか抑え込んだ。
その一瞬を見逃さなかったセバスの目が僅かに細められた事を、英雄は勿論のこと、その場にいた誰もが気付くはずもなかった。
◇
「ほう、戦での傷跡ですか……」
「すみません、見ていて気持ちのいいものではないですよね……」
「冒険者であればそういった方も数多くいらっしゃいます。しかし、その兜ももうそろそろ寿命かと。次は口元が出ているものか、着脱可能なタイプを選ぶといいでしょう」
例の如く、兜が脱げない僕の食べ方に突っ込みが入った。失礼とわかっていても、どうしてもこれを取ることが出来ない理由を話すと皆理解してくれた。
理解してくれた上で、セバスさんがアドバイスをくれた。エメロッテさんだけは取ればいいじゃないとまるで話を聞いていなかった。
「ねえフサオ、冒険者なんでしょ? いろいろ話聞かせなさいよ」
「え、はあ……と言っても、成りたてなので何を話したらのかわからないんですけど……」
「フサオって今いくつなの? ナナリーちゃんは?」
「私は十五歳です。確かフサオさんは私の一つ上でしたよね?」
僕の両隣にはナナリーとエメロッテさんが座り、対面にダレンさんといった形で食卓を囲んでいる。セバスさんは使用人よろしく、ダレンさんの後ろで待機。しかしその姿も様になっていてかっこいい。
それにしてもエメロッテさんがぐいぐい来る。ナナリーとはだいぶ慣れたけど、基本的に女性と会話することに慣れてない僕にとってこの距離感はどうしても引いてしまう。
それに違うと言い聞かせても、どうしても脳裏をよぎるんだ。僕を格好の遊び道具として嘲り、罵り、同じような目で嗤っていたあいつらと彼女が。
会話が途切れたことを不審に思ったのか、その場にいた全員の視線が集まる。はっと気付いて、見えないだろうけど作り笑顔を浮かべて口を開いた。
「あ、うん。そうだね」
「……じゃあ私の一つ上か。ねね、そのフードって何の素材? 冒険者になったらそんな可愛い装備も作れるの?」
「これは鋼殻熊の素材ですね。フサオさんが討伐してくれて、その素材で作ってくださいました。これは我が家の家宝にします」
「あ、そ、そう……そうなんだ、へえ……」
「家宝ってまた大袈裟な……」
「大袈裟じゃありません。命を救っていただいて、仲間にも加えていただきました。それだけでも返しきれない恩があると言うのに、そのうえ装備まで作っていただいたとなれば、家宝にするに決まっています」
「いや、気持ちは嬉しいけど新しい素材手に入ったら新しいの作るつもりだよ?」
隣の椅子に置いてあった荒魂を手に取り、本当に大事そうにぎゅっと抱きしめるナナリー。
これには僕のみならず、エメロッテさんも若干引き気味だった。大切にしてくれるのは勿論嬉しいけど……なんというか、重い。
しばらくはこの装備のままだけど、いずれもっといい素材が手に入れば新調するつもりだ。
そう伝えるとナナリーがこの世の終わりみたいな顔で泣きそうになったので、慌ててフォローを入れる羽目になった。
今の装備をベースに改良できればそれに越したことはないだろうけど、できるんだろうか。
うんうん唸っているとセバスさんがそれをベースに色々改良出来ますよと助け船を出してくれたおかげでナナリーに笑顔が戻った。―――守りたい、この笑顔。
「フサオは冒険者になる前は傭兵か何かやってたの? 鋼殻熊も棘翼火竜も普通十ツ星が挑む相手じゃないでしょ。あ、覚えてないんだっけ」
「これエメロッテ。あまり深入りするでない。フサオ殿も困っておろう」
「むー……。ていうかそれ取ればいいじゃない。別に気にしないわよ。ねぇ?」
「エメロッテ」
「お嬢様、ほどほどになさってください」
大人二人に窘められても、エメロッテさんはどこか不満気だ。嫌な予感がする。この目は絶対によからぬことを企んでいる目だ。
ちょっと距離を離そうと椅子ごと横にずれようとした瞬間、がしっと腕を掴まれた。
空いている手をわきわきと動かし、爛々と目を輝かせてとても楽しそうに笑っている。
「いいからそれ取って素顔を見せなさい! 私の命令よ!」
「嫌です。と言うか近い、離してください」
すっぱりと拒絶し、体ごと背けているにも関わらず、エメロッテさんは納得してくれない。
兜に伸びる手をひらりひらりと躱し続けていると、最初は冗談半分だったのだろうにやけ顔が本気の顔に変わっていき、収まるどころか益々ヒートアップしていった 。
「取れって言ってんでしょ! もーいい無理やりにでも脱がす!」
席を立ち、強引に脱がせにかかったエメロッテさんの手が兜に触れた瞬間―――思い出したくもない記憶がフラッシュバックした。
『なにその顔、キッモー』
『ないわーその顔はないわーマジブサメン!』
『よっ、キモメン! あんたが大将だ!』
『だって、ブサオだよ?』
「―――触るなっ‼」
ぱしん、と乾いた音が響き渡った。遅れてじわりと訪れた軽い痺れに、はっと顔を上げる。
振り解いた時に当たってしまった手を押さえて、元々大きな瞳をまん丸にして固まっているエメロッテさんの姿があった。
驚きの表情は氷が溶けていくように、怒り、そして悲しみの表情に移り変わり―――一滴の涙が、彼女の頬を伝った。
「なによ……それくらい……いい、じゃ……」
掠れた声で何事かを呟き、小さな嗚咽を漏らすと、僕が口を開く前にエメロッテさんが部屋から飛び出した。
「お嬢様!」
「エメロッテ!」
セバスさんとダレンさんの声は、荒々しく閉まるドアに阻まれ、遠ざかる足音だけが部屋に反響していた。
しん、と静まり返った食卓で、僕が何をしてしまったか、事態の重さを改めて理解してしまった。
立場ある人の大事な一人娘に粗相を働いた。それだけで罰を甘んじて受け入れなければならない。ここはそういう世界だ。
でも僕が気にしているのはそんなことじゃない。女の子を泣かせてしまった。
それだけで僕の体は鉛が入ったかのようにずんと重くなった。
静寂に包まれた食卓に、テーブルを強く叩く音が響き渡った。音の発信元はわなわなと体を震わし、怒りの眼差しでこちらを睨みつけているダレンさんだった。
「あ……」
「貴様、恩人だからと甘い顔しておったら娘になんてことをしてくれる! 出ていけ! 今すぐ出ていけ! セバス! こやつらをさっさと叩き出せ!」
怒りで顔を真っ赤にしながら、口角泡が飛ぶ勢いで捲し立てるダレンさん。主から命令を出されたセバスさんは何か言いたげに眉を顰め、その場から動こうとしない。
セバスさんがすぐに動かないことがまた癇に障ったのか、ぐるりとこちらに向き直ってテーブルに置いてあった銀のグラスを僕目掛けて投げつけてきた。
投げつけられたグラスが兜に当たり、がつん、と鈍い金属音が鳴る。軽い衝撃が伝わるけど、痛みはない。ないはずなのに、ふらりとよろけてしまった。
怒られて当り前だ。大事な娘が目の前で暴力を振るわれたんだから、怒って当然だ。
「何をしておる! さっさと出ていかんか無礼者!」
「……本当に申し訳ありませんでした。行こう、ナナリー」
「え、あ、はい……」
すっと椅子から立ち上がり、深々と頭を下げる。巻き込んでしまって申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらナナリーを見やると、きゅっと唇を真一文字に引き結んでダレンさんを睨んでいた。
どうしてそんな怖い顔をしているんだろうか。悪いのは僕で、ダレンさんが怒るのは至極真っ当なことだ。だからそんな怖い顔はしないで欲しい。
口に出せない気持ちをそっと手に乗せて、優しく肩に手を置く。少しだけびくっと肩を跳ね上がらせたが、僕を見上げて少しだけ顔を歪めた。
僕が首を振るとナナリーはそっと目を伏せて、ダレンさんに頭を下げて食卓から出ていった。続いて僕も食卓から出る際にもう一度だけ頭を下げ、静かに扉を閉めた。
「フサオ殿!」
ダレンさんの屋敷から出たちょうどのところで、後ろから声がかかった。
急いでこちらに走ってきたのは、燕尾服がとても良く似合ってる執事のセバスさんだ。
何か処罰でも言い渡されるかと覚悟して立ち止まると、セバスさんは上がった息を整え、一息吐くと深々と頭を下げてきた。
僕が口を開く前にセバスさんが頭を上げたので、黙って続きを待った。
「申し訳ございません。お嬢様は少々気難しい性格でして、旦那様もお嬢様を溺愛していらっしゃるので、あのような形になってしまい……」
「いえ、元はと言えばこれを取らなかった僕が悪いんですし、セバスさんが謝るようなことではないですよ。ナナリーもごめんね、せっかくの美味しい料理を」
「いえ、私は大丈夫ですが……」
ですが、と言う言葉に何か含むものがあるのか、常に笑顔のナナリーが珍しく真顔になっていた。
多分、僕がしでかしたことに怒っているんだろう。後でちゃんと謝っておかないといけない。
「過去の傷を触れられると言うのは誰であれ拒絶するものです。なのに怒りもせず、相手を気遣うと言う心優しさをお持ちでらっしゃる。フサオ殿は本当にお優しい方なのですな」
「あの、すいません。褒められるのに慣れていないんで、その、うまく言葉が出てこない、です。ありがとうございます?」
穏やかな深緑の瞳に見つめられ、体がむず痒くなってしまう。どうにも褒められることが苦手だ。僕が身じろぎしていると、隣のナナリーまでも穏やかで優しい眼差しを向けて微笑んでいた。
二人してほんとやめて欲しい。僕をからかって楽しいのか、くそう。
僕がぐねぐね踊っていると、セバスさんが一歩踏み出して僕の手を取り、そっと何かを握らせた。
見てみると、何の変哲もないただの麻袋だ。ちゃり、と硬質な音がしたので何か金属が入ってるのだろう。
「これは?」
「依頼の報酬と、お嬢様を守ってくださったお礼です。もしこれを渡さなければ奥様に消し炭にされかねませんからね。……奥様がずっとここにいらっしゃれば、少しはお嬢様も変わっていたかもしれませんね」
セバスさんはそこで言葉を切り、星が瞬く空を見上げた。こんなの受け取れないですと言える雰囲気ではなく、釣られて僕も空を見上げる。
とても綺麗な夜空だった。おそらく、僕が見てきた中で一番綺麗な星空だったと思う。
ちら、と視線を落とすと、セバスさんは目を細めて、何かを思い耽っているかのような、そんな遠い目をして空を眺め続けていた。
「いえ、ただの戯言でございます。これからどうなさるのですか?」
「今日はもう遅いので、どこか宿を探します。それからファンターハンに戻るつもりです」
「左様でございますか。宿の手配を致しましょうか?」
「そこまでお世話になれませんよ。お気遣い、ありがとうございます」
それでは、と別れを告げ、セバスさんに背を向ける。宿を探すといっても僕は土地勘がないからナナリー頼りになってしまうけど、さっきのこともきちんと謝っておかなきゃいけないからちょうどいいと言えばちょうどいい。
「フサオ殿」
二、三歩ほど歩いたところで、またもセバスさんから声がかかった。
今度は何だろうと立ち止まると、セバスさんは穏やかな目で真っ直ぐ僕を見据え、少しだけ微笑んだ。
「お嬢様を嫌わないでやってください。母親の愛情に飢え、寂しさを紛らわすために我儘を言い続けて、それが当り前のように育ってきた純粋な方なのです。同年代のお友達などいるはずもなく、お二方とお話することが余程嬉しかったのでしょうね。もし良ければ、エメロッテ様のお友達になってくださいませんか?」
そして深々と頭を垂れるセバスさん。いいですから頭を上げてくださいと慌てるも、セバスさんは石のようにその体勢のまま微動だにしない。
どうしたものかと頭を捻り、真剣に考え込む。僕のトラウマが原因でああなってしまったけど、たぶんと言うかおそらく、エメロッテさんは悪い人じゃない。
セバスさんの言う通り、何が悪くて何が良いのか分からない子供のままなんだ。僕を傷つけようとした行為じゃないと、今なら少しだけ理解できる。
なら。であるなら僕の取るべき行動は―――。
「……兜を取られるのは勘弁ですけど、友達になるくらいならお安い御用です。いつかまた、セバスさんの料理が食べたいです」
「私で良ければ、エメロッテ様のお友達になりたいです。これを可愛いと仰ってくださいましたし、仲良くなれそうです」
まだほんの少し怖いけど、いつかまた出会った時には友達として接してあげたい。ちょっとしか話してないけど、エメロッテさんはどことなく猫に似ている。
眼が似ているってのもあるけど、それだけじゃなくて行動そのものも似通っている部分がある。
そう考えると不思議と愛着が湧いてくる。うん、次は多分大丈夫。次は笑顔で接することができるはずだ。
でも、兜を脱がすのはホント勘弁して欲しいことは本音だけど。
「……ふふ、ではまた近いうちに」
僕たちの返事を聞いて、セバスさんがやっと頭を上げた。そして満足そうに目を細め、おやすみなさいませと会釈して、屋敷へと戻っていった。
セバスさんを見送り、僕たちも宿を探すために町へと足を向ける。でも近いうちにってどういうことだろう。
少し引っかかるものがあったが、とりあえずは今日の宿を探すためにナナリー先生に平謝りするのだった。




