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第四話 不安





 

 一週間後も大量のロボ相手に俺は次々と撃破スコアを上げていた。ここまでくれば流石にこの身体能力に少しずつ慣れてきて、割と複雑な動きもできるようになったと自負しているが、それでも戦闘は素人。まだ動きに雑があると自分で理解している。


「はぁぁぁぁぁぁっ!」


 砲弾が発射される前に思いっきり横に飛ぶ。着地と同時に斜めからロボに向かって走り出す。こちらに砲口を向けて来るがこいつは装填時間に五秒はかかる。その五秒の間に瞬時に距離を詰めて砲塔と同体の間に刀を滑り込ませる。若干の抵抗ののち、一気に接合部分を切断する。


 はぁ・・・はぁ・・・よし。いける。二度、三度砲弾が直撃したが今回ばかりは一度も受けなかったぞ。それに一週間前よりかはそれなりに動けるようになって来た。反応速度もここ一週間のデータを見ればそれなりに上がっている。


 頭の片隅に成長という文字が浮かび上がってくる。

 それを実感するにはまだ速いという考えもあるが、実感したには実感したのだ。今はまだ小さくても、いずれそれが大きなものでもなればいい。

 だが、力だけ上がっても意味がない。そろそろ剣技というものも徐々に覚えて訓練していかなければ考えなしに突っ込むバカと同じだ。


 そんな風に考えていると後ろから軽い感じの声で誰かが話しかけてきた。


「おお、やってるやってる。やっほー、千早君」


 振り返るとそこには七宮健人がこちらに向かって歩いてきていた。

 そういえばこの人とはちゃんと話したことはないな。いい機会だ。先輩なんだから色々と話を聞いてみるか。


「あの、七宮さんはどうしてここに?」


「んー、後輩の訓練を見ようと。あっ、なんなら僕が稽古してあげようか?」


「えっ、いいんですか!?」


 先輩が稽古してくれるというのならそれは良い経験になりそうだ。実戦のレベルが一体どれほどのものなのか知っておいて損はないだろう。それにこの人も俺と同じ前衛のようだ。参考に出来る動きもあるかもしれない。


「それじゃっ、いくよ!」


 すると彼の右手にレイピアが出現する。構えを取るので俺も刀を手にして両手に持って構えを取る。電脳世界なのに、無機質な世界なのに彼の持っている剣からはジワジワとその強さのようなオーラを感じる。

 それは剣からではなく彼の全身から伝わってくる。その一つ一つの仕草や力の移動からも只者ではない。そう本能が俺にそう呼びかけてきた。

 刹那、彼の剣先が俺の喉元に当てられていた。ツンツンと尖った先が俺の首を突っつく。


「っ!・・・はぁぁぁぁっ!」


 力一杯刀を振るう。彼はその身軽さを活かして後ろへとステップを取る。俺は追撃するべく大きく前に出るが同時に彼も後ろへと下がるのと同時にこちらに向かって飛んで

来る。


 カウンターかよ!目標を彼から彼のレイピアへと向ける。レイピアの力はその速さである。速度に比例してレイピアはその威力は増す。だが、今回の突きは先ほどの突きのように速くはないので俺でも相殺は出来る!


 弾く為に刀をレイピアの下から刀を入れて斬り上げる。この数日間で培ったこのAVSとの経験と俺の感覚による最高の一撃のはずだった。


 が、その一撃がレイピアを弾き返すことはなく斬撃はレイピアをスカッと通り抜けていく。一そして、レイピアと一緒に七宮先輩の姿が消える。一瞬何が起こったのかわからなかった。


「っ!どういうことだ!」


 俺がそう叫ぶと横にスライドしながら飛び出してきた七宮先輩が叫ぶ。


「電脳世界ってのは現実とは違って有り得ない現象が起きる。それは僕たち自身の力でもあったり、AVSの力だったり、それは様々だ。だから、君が思っているほどここは現実とは違うんだよ。やろうと思えば何でも出来る」


 そう言って横からレイピアを突き出してくる。刀でそれをガードして一旦後ろに下がる。


 やろうと思えば何でも出来る?一体それはどういうことだ?俺や彼の筋力補正は現実の筋力の数十倍。だが、リアルでも今でも分かるように俺と彼では明らかに俺の方が筋力的に上のはずだ。だが、何をどうしたら今のような真似が出来るんだ?


「しっ!」


 鋭い突き。弾丸よりも速いその攻撃は俺の胸へと一直線に飛んで来る。全神経を集中させてそれをギリギリ避けることに成功する。


 よし、このまま懐に入って攻撃を。

 そう思って両手に持って右腰にある刀で下から斬り上げようとした瞬間、レイピアが既に引かれて構えており、俺を貫く準備をしていた。

 っ!どうしてだ!今頃俺の後ろへと向かっているはずなのに、まさか、俺が回避したのと同時に一瞬にして戻したっていうのか!?


「お、おおおおおおおおおおおっ!」


 無理やり体を捻って目標を彼ではなく突き出したレイピアへと向ける。その瞬間、激しい火花と衝撃が俺と彼の間に起こり俺は大きく後ろへと体をブッ飛ばされる。地面に横腹からぶつかると、そのまま数メートル転がりやっと止まった。


「つぅ・・・んだよ、あの速さは」


 チートなみの攻撃に俺は驚いていた。到底今の俺が辿り着けるレベルじゃない。彼にとっても俺など相手にもなってはいないだろう。


 当たり前の結果だが、それでも悔しい。少しでも通じるならまだしも、俺の攻撃は全て弾かれた。力だったり、技術の差だったりもするのだろう。だが、それ以前に俺と先輩とではこの電脳世界へ対する考え方そのものが違った。


 電脳世界は俺たちが思っている以上に全く違う世界。そして、何でも出来る世界。ここは現実以上に現実じゃない。


「やっぱり千早君は頭で考えすぎなんだよ。ただえさえ全てのことを頭で処理しているんだから、もう少し無心で攻撃してもいいと思うよ。雑念を捨て、全てをこの武器と心に委ねる。僕たちの可能性は無限なんだよ」














 天宮有紗は焦っていた。それは先ほどの千早と七宮の戦闘を見たからである。そもそもそれだけ見て彼女が何故そんな感情を持ったのかと言うと、彼女のAVSは『ステイシス』と呼ばれるライフルであり、彼女は狙撃手。スナイパーであった。にも関わらず、まったくもって命中しないからである。そんな中、同期である千早と先輩である七宮があんな凄い戦闘をして、焦らずにはいられなかった。


「ど、どうしよう!」


 指導されても、心を無にしてもその弾丸は決して的にあたることはなかった。そして、同期の成長スピード。周りからのプレッシャー。更に言えば彼女は京都の難関大学に合格しており、それを辞めてここに来たのだ。


言えば、幸福なエリートの道を蹴って日本の為に戦おうと決心したのにこんな成果じゃ何の意味も示さない。意味がなかった、無駄なことだった。 


 と、後戻り出来ない後悔を感じていたのだ。そもそも、彼女が何故ライフルなどという遠距離武器を手にしたかと言うと単純に憧れ。という言葉が一番しっくり来るだろう。幼き頃に偶然見たテレビ番組で遠くの的を射抜くスナイパーに見入ってしまった。

 それからは数多くのスナイパーが主人公の小説を読むようになり、彼女にとって憧れとも言える存在になっていた。 


 だからこそ、彼女はこの話が来た時にスナイパーになろうと思った。他の可能性を捨てて、この道を歩もうと思った。だが、それは違った。今更大学に戻ることは出来ないし、千早とも顔を合わせずらかった。


「っ!」


 放たれた一発の弾丸が的より大きくズレて後ろの壁に命中した。もう一度引き金を引くが弾倉が空だったのか弾丸が銃口から出ることはなかった。弾倉を取り替えようと後ろの箱に手を伸ばすがそこに弾倉は残っていない。今のが最後だった。

 基本的にはこうして撃ち尽くすと有紗の訓練は一旦終了。リアルに戻って幾分かの休憩を取る。


 彼女の隣で座っていた千早は既に訓練を終えていたのかそこに姿はなかった。そんな飼い犬を探すように有紗はリンクチェアから降りる。


「有紗さん、それでは一時間後に訓練再開ということで」


「分かったわ・・じゃぁ、一時間後」


「・・・ええ」


 有紗はそこから逃げるようにその場を後にした。後にしてそのことを少しばかり後悔する。


 ―――――ちょっと、ダメだなぁ・・・私って、自分で選んだ道なのにこんな後悔するようなことして。


「ん?有紗・・・か。どうした、そんな浮かない顔して?」


 廊下に出ると直ぐそこに千早がいた。シャワーでも浴びてきたのか、体からほんのり湯気が上がっている。その顔は何処か清々しく自信を持っていた。


「うんうん、何でもない。私はちょっと風に当たって来るね」


 そう言って有紗は千早の隣を過ぎ去っていく。彼女は思った。


 バカだな・・・ちょっとぐらい頼ってもいいと思ったんだけど。


















「ふむ、君があの浅間蓮花の弟。浅間千早か。姉と比べたら随分とバカそうな顔をしているんじゃないか」


 礼が会わせたい人がいるというものなので、ある部屋に来てみれば銀髪少女にいきなりそんなことを言われた。


「あの、こいつぶん殴っていいですか?」


 思わずそんなことを言ってしまった。おっと、危ない危ない。こんな生意気なクソガキには大人の対応というものを見せてやらねばならない。あまり衝動的になるんじゃない。落ち着け、俺。


「おっと、今のはすまなかった。それで、お嬢ちゃん?こんなところで一体どうしたんだ?ここは子供が来ちゃいけないんだぞ?」


 と、俺が少女にそう言うとそれを聞いた彼女が隣にいる礼に向かってこんな質問をしてきた。


「礼、こいつはバカなのか?それともアホなのか?」


「すみません、穂乃果さん。まだ、千早さんに紹介していなかったので、これは正直当たり前の反応かと・・・」


 この俺の目の前にいる生意気なちんちくりんは少女と言っても中学生、高校生という枠組みではなく、明らかに小学生並みの体型であり、所謂幼女と呼ばれても仕方がないくらいの身長と胸板、それと童顔の持ち主であった。


 そんな幼女がメガネをかけて俺を椅子の上から見上げている。偉そうに腕を組んで。


「すみません、千早さん。彼女は楠木穂乃果。CDTのトッププログラマーなんですよ。千早さんが装備しているAVSも穂乃果さんが作成したものなんですよ」


「えっ!そうなの?」


「は、はい・・・見た目はこんなのですが」


 嘘だろ。こんな幼女がCDTトップのプログラマーだっていうのか?明らかに小学生じゃねーか。

 礼からそんなことを聞くが幼女が明らかに不機嫌そうな表情になり、そして声を張り上げて言った。


「何を言うか!こう見えても私は二十八だぞ!?」


 えぇ!?こんな幼女体型で二十八だっていうのか?おいおい、変な冗談はよしてくれ。世界はいつからロリコン好きの世界になってしまったんだ?

 言うまでもないが勿論俺は決してロリコンなどという人種でないことは今ここで言っておこう。


「っと、私としたことが熱くなってしまった。それで、千早君。どうだい?私の作ったAVSは?」


「えっ・・・あ、はい。まぁ、そうですね。他のAVSと比較したことないので詳しくは分かりません」


「ふむ。それは確かにごもっともな意見だな。君の脳の情報処理能力は決して高いとは言えない。が、何故姉の蓮花と同じように莫大なデータで作れたあのAVSを君がダウンロード出来てしまったのか」


 楠木・・さん。は、五画面あるパソコンへと向きキーボードの上で手を動かす。そこから色々な資料を呼び出していく。


「半年前、君の姉。浅間蓮花の電子体が失踪したのは無法エリア。ここは私たちCDTの活動範囲外。つまり、電脳世界の闇とも言える部分になるな」


「・・・ここで、姉さんが。なら、この無法エリアに行くしかないだろ!」


 が、楠木さんが首を横に振った。


「確かに浅間蓮花はこの無法エリアの何処かで消えた。だがね、この無法エリアがCDT

の活動範囲外ということ。それは同時に緊急時の手段が意味がないということと、私たちが想定している以上の敵が潜んでいるということ」


 まとめるとCDTの活動範囲外なので緊急脱出が出来ない。そして、何が起こるか分からないということであろう。

 そして、何より姉の蓮花がその無法エリアの一体何処にいるのか。それが大きな難点だと言えよう。話を聞く限りではダイバーは決して多くはない。その戦うことの出来る人数は限られているのだ。


 大規模な調査をたった一人のダイバーの為に行うのはあまりにもリスクの大きすぎる賭けなのだろう。


 だけど、それだと何も救われない。俺の姉の意識が永遠に戻ることはないのだ。やっとたどり着いた答えへの扉は閉ざされたままであり、それを開ける為の鍵には多くの問題点があった。


「まっ、それ以上に君の力がないこと」


「何を・・・」


 すると、彼女は一歩前に出て俺に言った。


「私が作った、君が手に入れた力はそんなものじゃない。何故君の脳波と姉の脳波が同じでありながらその情報処理能力が違うのか。それは君自身が気づいていないだけ」


「俺が?」


「私たちの仕事は所詮は数字の羅列に過ぎないのかもしれない。だけど、この世界には数字を超える力があるということを、君は知っておいた方がいい」


 その言葉だけは俺にはよく分からなかった。













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