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第三話 訓練





 コクリと頷くと黒崎さんは話を続けた。


「CDTの主な目的は外部からの日本サーバーへのアクセスの阻害。及び原因の物理的破壊です。CDTはその性質上、極秘扱いであり、各国に本部と支部を置いています」


「えっと、CDTという組織が各国にあるが、国際的に統括はされていないということになるのか?」


「ええ、そういうことになります。最初は国連が運営していたのですが、五年前に外部にダイブ機能が漏れましてね。ウイルスのみが相手ではなくなったんですよ。CDTは国連ではなく各国で運営することになりました。当然、その国での防衛に難がある場合は連携して派遣部隊を送ることになります。まぁ、一番ハッキングが多いアメリカや日本は他国と比べれば戦力に大きな差がありますからね」


 ダイブ機能が外部に漏れた。つまり、表面上では仲良く取り繕っているが、水面下で電脳世界で人間と人間の殺し合いが行われていると言いたい訳だな。それ以外にテロリストにだってダイブ機能を使っている可能性もある。


「まぁ、大きな点はこのくらいでしょうか。では、千早さんの基礎訓練メニューを移りたいと思います」


 促されて俺は台座に座り背中を預ける。二度目となるこの体勢なのだが相変わらずあまり慣れない違和感は拭えない。ダイブするその瞬間というのもなんだか不思議だ。暗転していきなり変なところに出現する。まるでテレポーテーションでもしているかのようであり、二度目となる俺は慣れない。


 ・・・っと。

 次に目を開けると前回と同じでビル群の中にいた。周りには何の会社か分からない高層ビルが建ち並んでいる。


『それでは、千早さんには今日から三ヶ月間、戦場での感覚を培ってもらいます』


「感覚?」


『はい、戦い方はAVSが教えてくれますが、最後は人間の判断能力にあります。その為にも戦場に慣れておかなくてはなりません。確かに刀を振るう基礎能力は必要ですが、何せダイブする人間の身体能力は極限まで高められているので少々独自の戦い方になる場合が多いんですよ』


 なるほど、通常では有り得ない動きが出来るからこその攻撃方法がそれぞれにあるから指南は難しいということなのか。


 まぁ、こればっかしは自分で見つけるしかないか。


『では、訓練プログラムを起動します。出現する敵を撃破してください。登録したAVSは念じると出現します』


 すると、五十メートル先に四足歩行の中型ロボが走って来た。背中に取り付けている砲から砲弾が飛んで来た。近くに着弾してコンクリートの道路が破壊される。それを合図にするかのように次々と砲弾が飛んで来る。


 走ってビルの陰に隠れる。中型ロボは砲撃しながら前進してくるので射線上からそのままビルの陰に隠れて迂回して奴らの側面に出る。

 走りながら心の中で刀を念じる。すると、ノイズ混じりに黒い刀が出現してノイズが消えてそこに完璧な黒刀が現れる。


 こちらに気づいた中型ロボがこちらに砲身を向けるがその砲撃を思いっきりジャンプして避ける。三メートルは上に飛べただろうか。そのまま空中からこちらに砲身を向けたロボの砲塔を正面から斬る。

 が、砲塔が俺が感じていた以上に硬かったようで弾かれる。その反動はかなり大きなもので刀と両手は思わず後ろにいく。おかげか砲身がズレて砲弾は後ろのビルに直撃する。

 着地するとそのまま一気に飛んでロボの真下に移動して腹に刀を突き刺した。やはり腹部は装甲が薄くこの刀でも容易に貫くことが出来た。バチバチと回路が切断される音を名残惜しそうに聞きながらロボの真下から退く。


 数秒して煙を上げながらロボは機能を停止する。


「ふぅ、中々強い相手だった。まさか、弾かれるとは」


 本能的にはあのまま切断出来ると思っていたんだがそう簡単にはいかないか。


「そう言えば、ここで傷を追えばリアルでも傷を負うことになるのか?」


『いいえ、痛覚はありますがリアルの体が傷を負うことはありません。代わりに脳に多大な負担を強いることになりますが、死亡の場合はその限りではなく、死ということに対して脳回路が焼き切れてしまいます。その場合は脳死扱いになります』


 死という事象に対して脳が処理することが出来ず脳回路が焼き切れるということになるのか。


『それと、ダイブする人間はダイバーと呼ばれています。そして、ダイバーが電脳世界で戦うことのリスクがあります』


「リスク?それは、こっちで死ねばリアルでも死ぬこということでは?」


『いいえ、違います。正確には電脳症と言いまして、意識を失ってしまうんですよ』


「意識を失う?」


『ここは未だ解明されておらず、精神と言いますか、心を消失してしまうんですよ。ですが、安心してください。フルダイブシステムが導入されてから十年、誰もこの電脳症を発症したことはないんですよ。発症率は個人によりますが、一パーセント以下なんですよ。だから、問題ありませんよ』

 彼女はそう言った。仮に俺自身のその電脳症発症率が一パーセント以下だとしても発症してしまう確率がない訳ではない。例えその話を聞いても若干その不安要素を拭い取ることは出来なかった。









 CDT京都サーバー支部長の本田仁は新しく入ってきた新人二人の資料を見ていた。もう一つある報告書には新人二人の入隊による悪鬼隊再編成および戦線復帰の内容が書かれていた。


「ふむ、彼が浅間蓮花の弟で良かった」


 本田は千早の資料を見ながらそんなことを呟いた。千早の情報処理能力は決して高くはない。なのに、プログラマーたちが作ったあの高威力の刀を装備出来るはずがなかった。

 だれもがそう思っていたが、何故そうなのかは彼だけが知り得ていることであった。


 千早の姉、蓮花はCDTの中でもかなりの指折りの実力者であった。が、半年前に蓮花の様子が少しばかり代わり、とうとう任務中にその姿を消してしまった。電脳症特有の脳変化が起きていない為、彼女はこの世界の何処かに必ずいる。しかも緊急(ベイル)脱出(アウト)が効かないとなればまずCDTの活動範囲外だということが分かる。それはつまり無法エリア。電脳世界の深部の闇の部分へと繋がる。そのエリアの何処かに。

 だが、無法エリアとなれば緊急(ベイル)脱出(アウト)は効かない。更なるリスクと他の無法テロリスト、謎のウイルスを相手にしなければならない。防戦一方を掲げている日本にとっては無法エリアに侵入するのはリスクが大きすぎた。


 そして、そんな時に弟の浅間千早に目をつけた訳だ。

 先ほど身体スキャンをした結果、千早の脳波は限りなく姉の蓮花に近かった。そして、蓮花も千早と同じく削除予定の強力なAVSを保持していた。

 それだけこの姉弟の脳の情報処理能力は高いと言えているだろう。が、数字は嘘をつかない。


 この用意された資料には彼の情報処理能力は高くない。よって、姉と同じ脳波だからと言って同じ情報処理能力を持っているとは限った話にはならないという結論に至った。

 そして、浅間千早の電脳症発症率は0,34パーセント。平均的な数字であり、まず発症することはない。


「さて、千早君。君はどう出る?」


 本田は支部長室でニヤリと笑う。それは彼がこれから起こる出来事を知っているかのように、そんな風な先を見通した笑だった。















 三時間、いや四時間してやっと訓練プログラムが終了した。この世界では筋肉痛というものはないらしいが、それでも精神的疲労はとてつもなく感じる。


「千早さん、大丈夫ですか?」


 と、目の前に黒崎さんの顔がある。

「え、あ・・はい。ちょっと、気分が変ですけど問題ないですよ」


「そうですか」


 彼女が退き、俺は少し顔を赤らめながら台座から離れる。だってそうだろ?こんな美人が目の前にいちゃ誰だって照れるだろう。


 まぁ、俺みたいな野郎には彼女なんて夢のまた夢か・・・っと、いかんいかん。そう悲観するんじゃない。もしかしたら俺を好きになってくれる女性だったいる筈だ。その為にも今は頑張らないと。


「それでは、昼食を取りましょうか」


 服を着替えて食堂へと向かう。食堂は今がピークの十二時を過ぎた一時だというのに混雑していた。

 黒崎さん曰く普段はこんなに混まないらしい。が、どうやらこちら向かって手を上げている少女を見つけた。有紗さんだった。彼女も着替えて私服になってテーブルについてカレーを食べている。前の二席が空いているらしく、どうやら俺と黒崎さんの分を取っておいてくれたようだ。


 俺もカレーを頼んで黒崎さんと共に空いているその席に座る。


「うい、お疲れ」


「はい、お疲れ様。そっちはどう?大丈夫?」


 席に着くなり労いの言葉を言うと彼女も俺にそう言って質問して来た。これは訓練はどうなのか?ついていけているのかと聞いているのだろう。


「ああ、流石に戸惑ったりする場面は割とあったが、戦う度になんだか感覚が研ぎ済まれていくようでさ。特別何か問題がある訳じゃない。心配してくれてありがとう」


「っ・・・そ、そっか。なら、問題ないね」


「有紗さんは?どう?ていうか、どんな訓練してるんだ?」


「有紗でいいよ。さん付けなんてなんか気持ち悪いし、そもそも同じ部隊所属なのにさん付けなんておかしいし、そもそも同じ二十歳なんだから遠慮する必要ないんだけど?」


「あ、ああ・・・・そうなのか?なら、有紗。でいいんだな?」


 そう言うと彼女は少しだけ頬を染めてカレーを咀嚼する。まぁ、確かに同じ部隊なのにさん付けなんて少し他人行儀らしいからな。しかも同期なら尚更であろう。


 すると、隣にいる黒崎さんが何故かこちらを見ている。その視線はバッチリ俺の両目をロックオンしているのだが、彼女が一体俺に何を求めているのかはサッパリ分からん。


 いや、あれだよ。確かに美人に見つめられるのは全然別にいいんだけど、別に彼女が俺に対して何かしらの恥じらいだったり、嫉妬のジト目だったりという感情がない以上はやはり彼女の求めているものがなんなのかは分からない。


「礼」


「はい?」


「有紗さんのことを有紗と呼ぶなら、オペレーターの私も名前で呼んでくれないと、なんだか距離を感じますよ」


 な、なんだ・・呼び名のことであったか。けど、パッと見て黒崎さんって少し硬いイメージあるし、俺より年上なんだろ。なのに呼び捨てにするのもちょっとあれだよな。


「むむ、ダメですか?」


「い、いや・・・ダメじゃないですけど」


「なら、礼と気軽に呼んでください。実戦なんて、そんな余裕はないですよ?」


「は、はぁ・・・分かりました。では、礼と・・これでいいですか?」


「はい、問題ありません」


 何故だか彼女は嬉しそうにカレーを食べるのであった。














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