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第二話 CDT

はい、連続ドドンッ!


 



 次の日、俺はあのビルの目の前までやって来ていた。当然、ここに車で幾度となく自分の家に帰ろうとしたのだが、昨日契約書にサインをしてしまったし、あのままでいられるほど俺のメンタルは強くない。

 ない、ないが・・・俺には姉の意識を取り戻す重大な使命がある。それに一度決めたことを今更放り投げるようなことは絶対にしない

「あの・・・」


 意を決して中に入ると受付嬢が俺を案内してくれた。案内された場所は昨日と同じような場所である。


 すると、俺に気づいた一人の女性が俺に近づいてきて言った。と、よく見れば先日俺を迎えに来た女性だった。


「あなたは、確か黒崎さんで良かったですよね?」


「ええ、そうですよ。気軽に礼でも構いませんけど?」


 と、昨日とは違って少し砕けたように話しかけてくれるのはやはり俺が仲間に加わったからであろうか。


「緊張しなくていいですよ。それじゃぁ、取り敢えずこれに着替えてもらっていいですか?説明はそれからにしていきましょう」


 そう言って渡されたのは肌にピッチリきそうな黒のスーツだった。上下に分かれており、半袖半ズボンのものである。


「これは?」


「ああ、これは電脳世界にダイブする為に必要なコネクションスーツ。これを着ないと色々と危ないんですよ」

「は、はぁ・・・」


 受け取ったスーツを取り敢えず隣の更衣室へ行って着替える。少々、着るのが難しかったがなんとか着れた。


「これでいいですか?」


「あ・・・はい、問題ありません。では、早速そこのリンクチェアに座ってください」


 空いている椅子に座る。すると、足が少し上がって斜めの姿勢になる。


「楽な姿勢で。それでは、千早さんには訓練プログラムを受けてもらいます。質疑もそこで受けるので取り敢えずはダイブしてみてください」


「は、はい」


「目を閉じて・・・ID設定。フルダイブシステム起動開始」


 指示通り楽な姿勢で目を閉じる。すると、五秒もしないうちに一気に意識が刈り取られ

る。視界に大量の数字が流れてきた。それらの数字が一体何を意味するのかはサッパリ分からない。


 次第に視界が見えてきて、二、三度瞬きをすれば周りがよく見えてきた。


「ここは・・・」


 そこにはビル群というべきだろうか。俺の目の前にそびえ建つビル群が広がっていた。車や人が一切見えず、何か異質な空気を感じてしまう。


『千早さん、何かノイズを感じますか?』


「い、いえ。何も感じません。問題ないです」


 どうやら成功したようだ。特に違和感は感じない。

『そうですか、良かったです。千早さん、そこは私たちが戦闘領域としているエリアをコピーして作った訓練プログラムの中にいます。そこでなら死ぬことはありませんし、派手に暴れてもらって構いません』


 なるほど、初心者の訓練装置という訳か。


『それでは、早速千早さんの対ウイルス用ソフト、Anti Virus Soft。AVSを決めたいと思います』


「AV?」


『っ!い、いきなり何を言うんですか!?A!V!S!です!間違えないでください!』


 ジョークのつもりだったんだけどな。


『AVSは電脳世界で千早さんの矛であり盾です。装備者の脳の処理速度によってその装備出来るAVSが決まります。千早さんは何か要望はありますか?』


「と、言われても」


 使いたいと言っても特別何か固執している訳ではない。男なら銃とかに憧れるかもしれないが、そんなもの俺は使ったことはないし、訓練自体にも相当時間をかけてしまうことになる。


 そう言えば、子供の頃に姉に誘われて剣道に一、二年通ったことがあったよな。姉も中学までは剣道やってたし。


「刀とか。ないかな?」


『刀ですか。はい、これが我がプログラマーが作った刀です』


 そう言って目の前にズラリと刀が台座に置かれて現れた。ほほう、ハーレムじゃないか。いや、この場合の意味は違うか?

 選り取り見取りじゃないかっ!

『AVSは装備者の処理能力値によって装備出来る範囲があります』


「つまり、強い武器を使おうと思えば俺自身の頭の処理能力が高くないとダメなのか?」


『はい、そういうことになります。ですが、プログラマーはその点を理解していますので、恐らく装備出来ない物はないでしょう。扱えない物を作っても意味ないですからね』


「そうか・・・と、言われてもな」


 ズラリと並べられた刀には普通の日本刀のようなものがあれば大きかったり、小さかったり、個性的なデザインのものがあったりなどその種類は多種多様である。

 その中にある普通の日本刀を手に取る。


『それは虎鉄ですね。ダイバーの中でこれを愛用する人は少なくありません』


「ふむ・・・」


 鞘から抜くとギラリと綺麗な刀身が見える。これがプログラムだと思うとやはり少し惜しい気もする。現実にあったらな・・。

 と、視界の端に黒い刀が一本あった。見るに怪しく異質な感じを得る。


「これは?」


 他の刀とは違ってズシリと重い。



『ああ、これは削除予定のものですね。これを作ったプログラマーが少しばかり頭が

おかしくてですね。データ量が多すぎて誰も扱えないんですよ』


「ほう、ならこいつは強いんだな?」


『勿論ですが、幾ら強力でも使えなければ意味はありません。宝の持ち腐れになるぐらいなら、削除してしまった方がいいと思いますけど』


 ふむ、使わないものを置いておく意味はないか。


「なぁ、この刀を使ってみてもいいか?」


『えっ・・別に良いですが。いいんですか?』


「もしかしたらって、可能性があるかも知れないだろ?試すだけ試ささてもらわせてくれ」


 そう言うと黒崎さんはそれ以上何も言わない。それを肯定と受け取った俺は寂しげに置かれているその刀を手に取る。ズシリと重いが持てないことはない。鞘から抜くと黒い刀身がギラリと光る。少しばかり惚れ惚れしてしまう。


『では、ダウンロードします。少し時間がかかりますので、少々お待ちください』


 すると、目の前にダウンロード表示が出てくる。と、半分を過ぎたあたりから急激にダウンロード速度が落ちていく。


 ん?どうしたんだ?


『やっぱり・・これが、原因です。AVS自体の情報量が多すぎるとこのように途中でダウンロードが止まってしまうんですよ』


「うう、俺の頭じゃ無理だってことか・・・え・・あれ?」


 もう一度確認すると落ちていたダウンロードが急激に速くなり始め、気づけばダウンロードは終了していた。


『そんな・・今まで誰も出来なかったのに。一体どうして・・・』


 黒崎さんは何やら驚いているが、やはり試してみるもんだな。

 黒い刀を鞘から抜き、何度かブンブンと刀を振ってみる。先ほどよりも軽くなったのはダウンロードしてしまったからであろうか。片手、両手である程度馴染ませる。すると、目の前に丸っこい球体のようなものが現れた。

『と、取り敢えずまずはそのAVSに慣れることから始めましょう』


「ちょっと待ってくれ、俺は一度も真剣なんて使ったことないぞ?」


『問題ありません。AVSは装備すると装備者と一心同体になります。つまり、千早さんがこの刀の扱いついてはこの刀自身が教えてくれます』


「刀が教えてくれる」


 取り敢えず構えてみる。黒崎さんが何を言っているのかは若干分からないが、やってみるにはやってみよう。そう思って勢いよく球体に向かって刀を振ると少し火花があってから綺麗にその球体を両断した。


 おお・・・。

 その刀の切れ味に思わず感動してしまう。実際にはこうも簡単に鋼鉄の皮膚を切断することは無理だ。これも電脳空間だから、そして殆どの人が使えない強い武器なのだからであろう。

 そう言えば、今のは素人の俺でも分かるのだがキレが良かった気がする。

 なんとなくだが斬り方が分かったような・・・・物凄く長い間俺はこいつを使い続けたような。自然と馴染む。


『どうですか?私が言った意味は分かりましたか?』


「ああ、なんというか頭でまだ理解に追いつかないけど、感覚で分かって来た気がする」


 そうだ。理解しようとしてはいけない。もはやこいつは体の一部なんだ。


『では、次は攻撃してきますよ?』


 見れば正面には先ほどの球体ではなく、二足歩行のひ弱なロボットが立っていた。その両手はナイフがある。


 ロボットは何も喋らず襲ってきた。右手のナイフを前に真っ直ぐ突き出してくる。が、冷静にそれを受け流すと引いている相手の左腕を下から斬り上げる。刀の向きを書けて返す刀で体だけクルッと反転して相手も反転したところで思いっきり上段からの振り下ろし。


 一瞬ナイフがガードに入ったが力の差で後ろに押される。一瞬の硬直の後、更に下から斬り上げてナイフを弾く。

 そのまま無防備になったロボットの首を跳ね飛ばした。首と左腕を失ったロボットはそのまま傾いて地面に倒れる。数秒もすればロボットは消えてしまった。


「ふぅ・・・」


『少し驚きました。まさか、ここまでやるなんて。普通はここで手詰まりなんですがね』


「しかし驚いたな。現実以上になんだか速く動けている気がする」


『それもAVSの筋力補正ですね。通常よりも何倍も力が出せます。個人で異なりますけどね』


 なら、いつもとは違う動きをしても全然構わないということか。


『それでは、一度戻って来てください。次は千早さんが所属する部隊の顔合わせといきます』


 それからリアルに戻ってきた俺は初のダイブということでかなり身体的な負担を感じる。

 つっ・・・気持ち悪い。頭も気怠いな。


「大丈夫ですか?」


「あっ・・黒崎さんですか。すみません・・なんだか、気持ちが悪くて」


「大丈夫ですよ。初めは皆同じように気怠さを感じるんですよ」


 良かったぁ。何かしらの病気にでもなったのかと思った。実際に頭の中をイジっている訳だからな。

 そこら辺のリスクはどうなってるんだろうな?


「ああ、それで俺の所属することになる部隊って・・・?」


「はい、千早さんには京都サーバー悪鬼隊に所属してもらいます」


「一瞬で暴力を感じさせる部隊名だな」


「京都支部の部隊は鬼を基本とした攻撃的な部隊ですからね。それに比べて東京、九州は保守派が多いですから」


「黒崎さん、さっきから何言っているのかよく分からないんですけど」


 すると、彼女は思い出したように言った。


「そう言えば、千早さんにはまだ言っていませんでしたね。では、部隊の顔合わせの前に少しお勉強しましょうか」


 ニッコリ笑いながら彼女は説明を始めた。

 日本サーバーへの道は全部で三つある。京都サーバー、東京サーバー、九州サーバーである。日本サーバーへアクセスする為にはその内のどれか一つの防壁を突破しなければならない。


「基本的には外部からの敵をこの三サーバーに誘導しているのですよ。まずは電子戦による雑魚の排除。その後、残った敵を千早さんたちが直接叩くんですよ」


 なるほど。毎日何万アクセスもあるのにこちらが動けるのは限られているからな。その電子戦で倒せるならそれに越したことはないのか。


「あっ、有紗さん。丁度良かったです。今からそちらに向かおうとしていたんですよ」


 と、黒崎さんが前から歩いてきた少女に声をかけた。身長は俺より低くセミロングの黒髪である。スタイルも悪くなく、若干釣り目な少女がいた。


「ああ、礼。遅いから迎えに来たところなんだけど、その人?」


「はい。こちら、新人の浅間千早さんです。千早さん、こちら千早さんが所属することになる悪鬼隊のメンバーの天宮有紗さんです」


 なるほど、この有紗という少女が悪鬼隊のメンバーという訳か。歳は俺と同じぐらいかな?


「千早さん、有紗さんは千早さんと同じでついこの間きた同期さんなんですよ」


「へぇ、そうなのか。俺も昨日今日とで決まってな。えっと、有紗さん?これからよろしく」


 そう呼んだ少女は俺より身長が少しだけ低く、若干俺を見上げる形になった。特にこれといった怒りの表情を見せないでの恐らく俺に対するトゲトゲしい感情は持っていないのだろう。


 だが、その彼女の瞳から特に意識するという気持ちも感じられない。

 ただ単に初めての相手に対する興味といった具合だろう。観察というか、俺を分析しようとしている視線から少し和やかな表情に切り替える。


「はい、私は天宮有紗と言います。えっと、よろしくね。浅間君」


 彼女はそうニコッと微笑みながら自己紹介してきた。なんだかその笑みも少し作っているようにも見えてしまったのは俺の勘違いだろう。


 まぁ、人間関係なんて上手くやれればそれでいい。わざとにぶつかりにいくのは小学校で終わりだ。取り繕って、周囲に馴染むことが出来れば何事も大体上手くいく。それが大学や就職になれば必須スキルとも言えよう。

 その後、俺達は三人一緒に作戦室と書かれた部屋と入る。中には既に二人の男女がいた。


 一人の男は短髪の黒髪である。頬をついて窓の外を見ているらしく、部屋に入って来た俺達には気付いていない。外見はこれといって言わせるものはないが、それでも第一印象だけでは見た目は判断出来ない。


 そしてもう一人の女の方は二十代後半を思わせるような若い外見と赤い髪のショートカットの女性で俺と年齢はそう離れてはいなさそうだ。品格と威厳を持ち合わせており、ここにいる誰よりも強いという印象を与えてくる。

 すると女の方が俺達に気づいたらしく口を開いた。


「ん?ああ、新しい新人ね。私は京都サーバー悪鬼隊隊長の工藤加奈。よろしく」


 その声にペコリと頭を下げる。今度は俺が挨拶しようと思ったが先に座っていた男が立ち上がって言った。


「僕は七宮健人。よろしく。えっと、千早君?で、いいんだよね。僕は前衛で戦うタイプだから心強いよ」


「あ、ああ・・よろしく頼む」


 この健人という男、身長は俺よりやや低く子供っぽさを忘れさせないが、その言葉の一つ一つに必ず意味があるように感じる。なんというか、外見に反して言葉に重みを感じるというか。


 俺とアリサさんが後ろの二席に座り、工藤隊長と七宮さんが前の二席に座る。前に黒崎さんが出て来た。


「悪鬼隊に有紗さんと千早さんが加わったことにより、悪鬼隊が再編成され戦線に出ることが決まりました。正式には約三ヶ月後の九月からになります。ここにそれまでのトレーニングメニューを組みました」


 部屋が暗転してスクリーンに三ヶ月分のスケジュールが映し出された。工藤隊長と七宮さんのスケジュールと比べて俺と有紗さんのスケジュールは基礎メニューとしか表示されておらず、それをひたすら三ヶ月間やることになっている。

 ふと隣の有紗さんを見ると特にこれといった様子はなく、これが当たり前のような表情でいる。

 比べて俺の中では基礎メニューは一体何をさせるのかという疑問しかないのだが、彼女の表情を見て自分の中のその疑問も少しどうでもよくなった。


「では、早速訓練に移りましょう。有紗さんと千早さんは付いてきてください。工藤隊長、それでは後ほど」


 ペコリと軽くお辞儀をして黒崎さんに続いて部屋を出て行く。その後、一度ダイブルーム、先ほど俺がダイブした部屋に行き有紗さんが台座に寝転ぶ。俺もそれに続いて寝転がろうとするがそれを黒崎さんに呼び止められる。


「千早さんは基礎メニューに入る前に少しお勉強といきましょうか。先ほどは途切れ途切れでしたからね。このCDTの主な活動内容を知ってもらいましょう」








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