5話
――――かつて神を屠った人間がいた。
召喚されるのを代わりに受け持つ仕事をしていたその男は、初仕事を終え調子の良かったため二度目の仕事に意気揚々と出発した。
それが彼の今後の運命を大きく動かす事になることを知らずに……。
男は召喚されある事に気付く。初仕事では感じなかった自分以外の気配。
周りを見ると自分の他に2人召喚されていた。服装や何が起こったか分からない表情から同業者ではない事を理解すると同時に困惑する。自分が代わりに召喚されたのではなかったのか、どうしてこの2人であったのか。
兎に角自分がしっかりしなくてはと気を引き締め2人に事情を説明する。初めは何を言っているのか分からない表情をされていたが周りの風景などを見ることで自分たちの状況を理解し始めた。それと同時に2人は抱き合いながら泣き崩れた。男は泣き続ける彼女たちにかける言葉を探すが上手く見つけられないでいた。
そんな中こちらに近づく多くの足音。恐らく自分たちを召喚した関係者だろうと予想し一応警戒する。
予想は的中し身なりが整った女性を守るように大勢の鎧を纏った男たちがこちらを見て女性が口を開く。
――――貴方達が勇者ですね? ここで話すのも何ですので付いて来てください。
泣き止み始めた2人に手を貸し立ち上がらせ付いていく。女性たちについていくと豪華ながら大人しい部屋に案内される。そこで話された事を簡単にすると、魔王の出現により魔物が活発になっている魔王を討伐して欲しいという事であった。
男は仕事仲間から似たような事例を何度か聞いていたためどうするかは彼女たちに任せると言いこの場を傍観する。
結果的に彼女たちは魔王討伐に立ち上がった。元の世界に帰るのも魔王を倒さなければ出来ないと言われたためでもあるだろう。それからは訓練の日々であったが男は既にかなりの強者であるため2人を支えながら独自に情報を集めた。彼女たちを元の世界に戻すための。
数か月後、3人は魔王討伐に出発した。毎日魔物と戦い精神と肉体が消耗していくながらも魔王のいる城へと歩みを進める。そんな彼女たちを見て男は心が締め付けられた、何故なら元の世界に帰る方法はなかったのだから……。
ついに魔王の住む城まで辿り着き、魔王と対峙する。3人は全力を搾り出し魔王を倒して見せた。彼女たちが笑顔で抱き合う姿を見て、男は決意を固め帰れない事を伝える。2人は薄々感づいていたように大丈夫ですとこちらに明るい笑みを向けてくれた。男は心の荷がするっと下りたように感じた。
さて、帰ろうかと2人に言い帰路に着く。帰りの道は笑顔に満ちた道中になった。これが彼女たちの最期の笑顔になるとは思いもよらなかった。
城に帰ると待っていたのは歓喜と共に忌むべき敵を見る王たちであった。そのまま拘束され牢に投獄される。獄中の生活は旅の道中よりも楽ではあったが、彼女たちの心は完全に壊れていた。男は毎日彼女たちを励まし少しずつ感情をコントロールさせるように頑張った。しかしそれもすぐに壊された。
ある日目を覚ますと彼女たちは見張りの男たちに犯されていた。男はその光景を見た瞬間に頭が真っ白になった。ふと意識が戻ると彼女たちは血まみれで牢の隅で震えており周りは死体の山が出来ていた。
――――俺のせいだ、本当に悪かった。
男は彼女たちの前に立ち2人の胸を両手で一突きで貫く。2人は声にならない声でありがとうと言い目を閉じた。
その日一つの国が1人の男によって血に染められた。神はそれを見逃すはずがなく男を呼び出す。
――――貴方の罪は永遠の苦しみで償われるだろう。
一面白の空間にて男は女神に呼び出された。そしてその言葉と共に男の足元は凍り付いていく。男は凍り付くことに一切の焦りを感じず自分は悪かったのか考える。
確かに罪の無い人たちも殺めてしまったのは仕方のない事だろうと罪を認めようと決意する。
――――今回の勇者も中々面白いものであったな。見ていてとても気持ちが良かったぞ。彼女たちも頑張っていたからな、貴様の罪を少しだけ軽くしても良いだろう。
自分は何のためにここに来たのか、彼女たちを救えなかった悔しさからだ。元凶は目の前にいるのに自分はこんなところで死んでいられるのか、答えは否。ではやることは一つだ。
女神は凍り付いた男を見て満足したのかその場を去る。次はどうしようかと考えていると、胸から生えた手を見て混乱した。状況を理解し手を抜くようにその場を離れる。
そこには先ほど凍らせた筈の男が右手を赤く染め立っていた。この程度の傷はすぐに治癒させれば治るため冷静に再び男を凍り付かせる。
女神は油断していた、本来神器を使い凍らせた場合使用した本人が許可しない限り又は時間経過でしか溶けない事を。そして神器には意思が宿っていることを。そう神器は女神ではなく男を選んだのだ。
女神が消滅していく中で、男は彼女たちの笑顔を思い出す。
――――やっと終わったぞ、サクラ、ツバキ。安らかに眠ってくれ。
その言葉と共に神器は主を慰めるように辺りを銀世界に染めていった。
――――――――――――
ゼアロの言葉と共に見渡す限りに銀世界に彩られていった。
「悪いが手加減できない、死ぬなよ?」
氷がゼアロを守るように纏わる。その姿はまるで氷の神のようであった。
地を蹴り一瞬でユウの目の前に辿り着くと膝を鳩尾に沈み込ませる。その勢いのまま飛ぶユウに先回りし背中に踵落としを決め地に落とす。間髪入れずに氷の槍を投げる。槍は分裂し雨のように地に降り注ぐ。普通の人間であれば生きているはずがない攻撃にユウは重症であるが立っていた。
「もしもだ、お前のその力が自前で身に着けた力なら今の攻撃はほぼ無傷で済んでいただろう。これは経験談で話しているからそのつもりで」
何か言い返したいがユウは代わりに血を吐き出す。
「まぁいいや、何となく理解は出来たろうし貰った力とやらは神器で凍らせてもらったからもう使えないから」
神器を納め礼装を解除する。倒れるユウを一人の女性が駆け寄り抱きとめる。
「別にそんな力が無くとも彼女は離れないと思うぞ、それじゃあな」
ゼアロはこちらに歩みながら何とも羨ましそうな顔をしていた。その正体に気付いたのはもっと先のことだった。
―――――――――――
「よし一旦落ち着こうアリス、それにルリを出すのは反則だ。あとリュウは帰れ」
「ゼアロ、アンタにアリスを任せたのは失敗だったかと思ったけど良い薬になってるみたいで良かったよ」
「こっちは態々仕事を持ってきているんだぞ? そんなに厄介払いするなよ」
上から俺、ルリ、リュウの順番に話す。先ほどから俺は床に正座させられアリスに説教をされながら、旧友に痴態をさらしている。誰か俺を助けてくれる人はいないのか、いないな。
「さてとゼアロの事はアリスに任せるとして、リミアちゃん今日からよろしくね。分からないことがあったら何でも聞いていいから。それじゃあ行こっか」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
リミアとルリはレギオンハウスから出ていく。この後ルリ指導の下|繋ぐ者≪コネクター≫の修行があるらしい。
「ゼアロ、アリス依頼に行ってくるから」
「レウカさん、忘れ物です」
アリスの投げた袋を受け取りレウカはありがとうと言い、ゲートに向かって行った。そしてなぜかリュウもついていった。
あの後、依頼は完了し帰ろうとした時2人は付いていきたいと言った。もう戻れないかもしれないがいいのかと聞くと答えは問題は無いと言われ連れてきた。
それをアリスに伝えると正座をさせられたというわけだ。何故なんだ……。
「ゼアロ、新規の人を連れてくるのに登録が必要なことは知らないからボケっとしているけど、かなり大変だからその状態なの分かった?」
言う前に疑問を答えを教えてくれるとは最高の|管理員≪マネージャー≫だと思う。決してお世辞ではない。
「今回は許してあげるけど次は無いからね」
目の笑っていない笑顔で言われ、ありがとうございますと土下座をする。
足が痺れているが立ち上がりリュウの持ってきた依頼に目をやると、またもや面倒なものを持ってきたと頭を掻く。足の痺れを刺激しないように歩きゲートに向かう。その歩き方をアリスはやっぱり締まらないマスターだなと思いながら書類仕事に取り掛かる。
一人で寂しく始まったレギオンは今や賑やかに動いている。のちに3大レギオンの一つに言われる事を今は誰も知らない。
取り敢えずは終了です。
ここまで読んで下さりありがとうございました。
気が向いたら続くかもしれません。