1話
かなりの駄文ですが、どうぞよろしくお願いします。
『召喚』
それは生物を呼び出す方法であり、儀式であったり秘術であったり魔法など形はそれぞれだがその根本は変わらない。しかし、近年では異世界における勇者召喚というものが行われており従来の召喚で行われた使い魔といった類いのものではなく他世界の人間をメインとして召喚している。最近では学校のクラス単位だったりとかなりの大規模のものになっており世は召喚時代と言っても間違いではないだろう。
部屋の一室で本を読みながらふとそんな事を考えてみる。
コンコンと扉を叩く音を聞き、どうぞと答える。
「ゼアロ、書類の方はこんな感じで大丈夫?」
茶色い髪の女性が現在読んでいる書類の確認をするため部屋に入ってくる。彼女の名前はアリス、最近加入したレギオンの管理員だ。アリスがなぜこのレギオンに加入したのかの詳しい理由は不明だが本人が何でもいいから加入させろと言うので仕方なしに、という感じだ。
「初めて書いた割には、よくできてると思う。これから数をこなしていけば問題はなさそうだし、これからも頼むよ」
「ゼアロはよく一人でレギオンを経営してたわね、書類の作成と整理だけでも大変なのに……。他にも契約者もやってるし本当に一人なのよね?」
「まぁ見ての通りだな、書類の方は慣れていった感じだし俺1人だったからすぐに終わるから。それに契約者の方が本職だしな」
レギオン【ダストボックス】のマスターであるゼアロ――――俺はここを作って既に5年経つがアリスの加入まで1人でやってきたのだ。
『レギオン』とはランダムで召喚される者の代わりに召喚され目的を達成するための組織だ。主な目的は魔王を倒す、邪神を倒すなど王道ものがメインとなっている。使い魔としても召喚されたり召喚士なる者によばれたりもする。そんな人手が必要な仕事が多いため人数がかなり必要であり、益してや1人でやるなんて馬鹿のやることとまで言われている。
現在のレギオンの総数は数十程度だ。すぐにでも立ち上げることが可能だが人数の問題や仕事が入りやすい事もあるため大手のレギオンに入るのが一般的でありレギオンが増えていくことは今後ないだろう。
そのため仕事は大手のレギオン依頼の期限切れの近い不人気系のものや余り物が多い。この手の依頼は大した報酬がでなかったり、既に詰んでいる様な状況、依頼達成が不可能に近いものが多いため余ってしまう。
俺も昔は大手に所属していたが、こういった余り物を見て少しでも数を減らそうとしてレギオンを作ったのだ。
「そういえばアリスはここの生活には慣れてきたか? 入ったばかりだからって無理はするなよ」
「まだ少し心配はあるけどもう大分慣れたわ、それに仕事も入らないから書類整理がほとんどだから楽よ」
「仕事が入らないのはしょうがないんだよ、このレギオンの存在自体そんなものだし」
「ゼアロはいるか? 仕事をもってきたぞ」
アリスとの会話を切るように黒髪で長身の男が部屋にノックもなしに入ってくる。アリスの顔を見ると信じられない表情をしながら俺に詰め寄ってくる。
「おいゼアロ! お前いくら人肌が恋しくなったからって人攫いはダメだろ? てか誰あの子、まさか新規加入者?」
「攫ってないからな、紹介するよ。こいつはアリス今度加入してもらったレギオン管理員だよ」
「アリスちゃんね、俺はリュウ。レギオン【蓬莱の旅団】のマスターだ、よろしくな」
リュウはいつもの営業スマイルでアリスに握手を求める。だがアリスは素早い自己紹介に慌てて握手を返すと誰もが聞いたことのある名前に驚きを隠せないでいる。そして俺にどういうことだと言う目線を送ってくる。せっかくの可愛い顔が台無しですよ、お嬢さん。
「アリス、聞きたいことがあるなら後でな。あと、お茶の用意を頼むよ。それでリュウ早速仕事の話に入ろうか」
「気にしなくてもいいよ、すぐに終わるからさ。仕事の話だけどまたうちでも誰も受けないものが出たよ、詳しくはこれに書いてるから。アリスちゃんこの後暇ならうちに来てよ、歓迎するよ」
バイビーと言いながら出ていくリュウ。
渡された依頼書を見ようとするとアリスが手早く抜き去り先の人物との関係性について言及してきた。【蓬莱の旅団】とはレギオンの中で随一のメンバー数を誇り依頼達成度の高いトップ集団だ。そのマスターと気軽に依頼を持ってくる仲となれば聞きたくなるのも無理もないだろう。
「俺も昔はあそこに入ってて色々な……。詳しくはあいつに聞いてくれ、お茶に誘われていただろ? 俺が仕事に行っている間にでも聞いてくれ。それじゃ、行ってくるぜ戸締りよろしくね」
「ちょっと、これはもういいの!?」
アリスの声を背に聞きながらサモンゲートに向かう。
『サモンゲート』は名前の通り召喚されるための施設で、契約者《サーヴァント》しか原則入ることができない施設だ。依頼書はなくてもリュウが既に話をつけているはずだから問題はないだろう。それに内容は大方分かってるしな。――――大丈夫だよね?
この世界『キュウネス』は次元の狭間にある。
世界と言っても国が一つあるような程度の広さなのだが、キュウネスは俺たちにとっては拠点の役割をしている。
キュウネスは神が作りだしたと言われており、依頼の発行が行われるのは『GOD』という組織だ。
そのまんまだな思った君、是非うちに入らないか? 実は前から俺もそう思っていたんだ。
さて冗談は置いておいて、このGODが何千何万とある世界から召喚の依頼を受けレギオンへと依頼を発行する。それを契約者が依頼を達成し依頼主から報酬をもらう。GODは依頼の際の魔力や信仰があれば機能できるらしいので俺達の報酬が減ることはない。管理員はGODから発行される依頼書の作成と報告書の作成を仕事としている。レギオンによってはいないところもある――――もうないけど。
そんなこんなでサモンゲートに到着し受付に向かう。
ここは受付と奥にゲートが幾つかあるだけの建物なので迷うことはない。
「こんにちは。リュウから連絡来てると思うんですけど、大丈夫ですか?」
「こんにちは、ゼアロさん。いつも通りリュウさんから依頼の方は既に受注済みです。すぐに出られますので3番ゲートの方へどうぞ」
いつも悪いねと笑顔で言いゲートに足を動かす。
アリスが加入しての初依頼になるのか……、頑張らないとな。
3番と書かれた部屋に入ると高さ2m程の門がある。それ以外の物は無く入口・出口の役割以外に使われないように無駄なものは置いていない。
門を開くと光が体を包み込む、俺は異世界へ足を踏み入れた。
――――――――――
「俺も昔はあそこに入ってて色々な……。詳しくはあいつに聞いてくれ、お茶に誘われていただろ? 俺が仕事に行っている間にでも聞いてくれ。それじゃ、行ってくるぜ戸締りよろしくね」
「ちょっと、これはもういいの!?」
ゼアロは私の言葉を背に行ってしまった。
本人が要らないと思っているのなら大丈夫だと思うが、加入して早々失敗というのは先行きが不安になってしまう。
アリスは依頼の書かれた書類を手にし不安を感じながら座っていた。
「ここで悩んでいても仕方がない!! リュウさんの所に行ってみよう」
レギオンの戸締りを確認し『蓬莱の旅団』へ足を向ける。
こうして他のレギオンへ行くのは久しぶりだ。前に所属していたレギオン『|戦乙女≪ヴァルキリー≫』からゼアロの所に行く以来かな。他のレギオンに行く機会というのはフリーでやってる人以外ほとんどないだろう。
そんなこんな『蓬莱の旅団』に到着した。
建物自体がこんなに大きいのに整備がしっかりとしている。その上オーラというか雰囲気がとてもエリートな感じがして、入りずらい……。
落ち着きなさい、アリス。今日はお茶を飲みに来ただけ……。お茶を飲んで話して帰る、それだけ。
「あれ、アリスちゃん。丁度いい時に来たね、こっちも用事が終わったところだから、案内するよ」
後ろから声をかけられてビクッとしたが変な声が出なくてよかった。とりあえずリュウさんについていかないと……。
先導するリュウさんを追いかけながらレギオンに入る。レギオンの中は外観と同様に整備が行き届いていた。それよりも驚くはその広さと人の多さだ。まるでパーティーを催しているかのような活気、流石はトップレギオンという感じである。
リュウさんが入ってきたためか、空気が引き締まった感覚がし場が静かになるがすぐに元の活気を取り戻す。マスターが返ってきて一々騒がしくなると時間が無駄になってしまうため、普段通りにするというのがルールだと小さい声で教えられた。
「今、お茶の準備をするからそこに座っていてね」
リュウさんの自室に案内されたが、ここに一人で来いと言われたらまず迷子になるであろう。1人1人に部屋が支給されるためかなり入り組んだ構造になっているため迷路のようであった。マスターだから特別な部屋というわけでもなく、全員同じ部屋なのだそうだ。リュウさん自身もこっちの方が落ち着くし平等がいいだろと言っていた。
「お待たせ、それでどんな話から聞きたい? 大方予想はついているけど……。この後仕事はないからゆっくりなんでも聞いていいよ」
私の前に緑茶と羊羹を置き、対面に座り自分で入れたお茶を飲みながら問いかけてくれた。緊張していたのでそう言ってもらえると少し緊張が解けた気がした。
「では、ゼアロの過去のことに関して教えてもらえますか? 彼からの許可はもらっています」
「アリスちゃんはこの世界『キュウネス』の事をどの程度知ってるかな」
「そうですね……、『キュウネス』は一方通行が原則で他の世界に行くと戻れなくなる、契約者《サーヴァント》を除く。あとは肉体的能力が最も高い時期から変化しなくなることくらいですかね」
「へー、以外と知っているね。大方それくらい知っていれば問題はないかな。さて本題に入ろうかな」
「はい、お願いします」
「レギオン『蓬莱の旅団』は元々3人によって作られたんだよ。それが俺とアリスちゃんの前に居たレギオン『戦乙女』のマスターであるルリ、そしてゼアロだ。実際のところ俺たちはここの世界に来たのが同じタイミングでな、そこから3人で活動していてある日ゼアロがレギオンを作ろうと言ってそれが始まりだったんだよ。そして徐々に人数も増えてきていい感じにレギオンも乗っているときだった、ある事件が起こったんだよ」
「事件ですか……、そう言ったことは公には出ていませんが?」
「自然に風化していったんだけど、そのころにいたメンバーはまだ覚えていると思うけどね。ゼアロがどうしてあのレギオンを作ったか知っているかい、あれは依頼期限の迫っているものを消化するために作ったんだよ」
「その事が事件に関係性があるんですね」
リュウさんはお茶を飲みながら正解と言った。ついでに自分もお茶を飲む。
「ゼアロは『蓬莱の旅団』にいた時から、期限の迫っている依頼ばかりを受けていたんだ。俺やルリは正直かなり助かっていたんだが、新人なんかはそれをあんまりいいとは思っていなくてな。その時期難度の高い依頼ばかりが多くてな、ゼアロの受ける依頼も増えていったんだよ。そうしたら新人たちはゼアロばかりいい報酬をたくさん持って行って卑怯だ、なんて言い始めたんだ。難度が高い=報酬が高いがその当時の依頼方式で現在とは違っていたんだ。
そんなある日たまたま期限の迫っている依頼をゼアロが受けようとした時、ある新人が横取りしていったんだ。ゼアロは止めておけと止めたんだが聞かずに依頼に行き結果として帰っては来たんだ。しかしその新人が受けた依頼は表向きはモンスターの大群の撃破だったんだが、実際は人体実験をするものだったらしく精神がかなりやられていたんだ。あいつはその事を自分のせいだと思いそれから我武者羅に依頼を受けたよ、その結果あいつはこの世界で最も帰還率の低い依頼を多数熟せる唯一の存在になった。その頃ルリが自分でレギオンを作りたいと言ってここを抜けたんだよ。そしてこのレギオンに居てもみんなの目が嫌になったかは分からんがあいつも独り立ちして自分のレギオンを作った」
リュウさんはお茶を飲み干し深呼吸をする。こんな感じだけどどうかな、あとその羊羹美味しいかったら持ってく? と明るく聞いてくれる。
ゼアロがそんなにすごい人だとは思ってもいなかった。そんな考えをしていた私にリュウさんの言葉は半分くらいしか頭に入ってこなかった。
ただ、羊羹はかなり美味しかったのでぜひ持って帰ろうと思う。
その後はルリさんはどうしていたかの話や雑談をしていると日が傾き始めていた。この世界も一応朝や夜はあるのだ。
そろそろ帰るという事を伝えレギオンの入り口まで送ってもらいそこから『ダストボックス』まで帰った。
とりあえずは書類の整理をして、あいつの帰りを待とう。そしていつも通りの態度で話そうと思った。
書類の整理をし、夜が更けるのであった。